野党系が、「ニセ科学」デトックス検査を実施する「食の安全を考える議員連盟」の設立に動く

(写真:アフロ)

 モンサント社の除草剤「グリホサート」は、非常に一般的な商品で世界中で使用されていますが、その毒性については人体にも悪影響であることは知られており、最近では具体的に世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関は、「人に対して恐らく発がん性がある」グループにグリホサートを分類しました。

 その後、報道でもある通りグリホサートに日常的に接触する群においては発癌のリスクが41%増大するという研究結果が、学術誌に発表されました。もっとも、疑いがあるとはいえグリホサートの人体への悪影響についてはかなり議論が重ねられているところでもあり、最終的に結論が出るのはもう少し先なのではないかと思います。

除草剤の成分「グリホサート」、発がんリスク41%増大 米研究(CNN 19/2/15)

 日本でも、このグリホサートは広く使われており、健康被害の発生についての懸念もあります。

 厚生労働省では、グリホサートに関してグリホサート単体だけではなくグリホサートアンモニア塩など複数成分の使用について規制を広げる一方、散布量についての指導は一部大幅緩和しました。日本国内では一般に、モンサント社との独占契約を持つ日産化学がこの除草用グリホサート溶剤を「ラウンドアップ」シリーズとして販売、ホームセンターなどでも広く売られているポピュラーな除草剤のひとつと言えます。

食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(厚生労働省 17/12/25)

 除草剤の発がん性についての議論はアメリカでも主に農薬散布に携わる作業員など具体的に除草剤としてのグリホサートを使う人が肌に触れてしまったり吸い込んでしまったりといった過誤があって発がんする傾向について調べているものであって、農作物単体の残留農薬の基準としてはさほど高くなく、食べたらストレートにがん発症してしまうという性質のものではありません。

 ただし、アメリカやカナダ、オーストラリア、メキシコ、チリなどから輸入される農産品や養殖魚(これらの農薬を使った産品を飼料として食べさせているので残留農薬水準が上がる可能性がある)の基準について見れば、いままで日本は過剰に規制していたとして、むしろ使用水準を緩和する方向に動いて海外に比べて逆行してしまっている部分はあります。フランスなどEU諸国では、アメリカ系資本であるモンサント社への軋轢もあってグリホサートの使用を全面禁止にする動きもあり、検疫においても禁止薬物に指定されることがあるとすると、日本の農産品の何割かはEUに輸出できなくなる恐れもあります。

 モンサント社だから危険だ、農薬関連はバイエル社も問題だ、除草剤は人体に悪いから使うべきではない、という議論は、かねてからあります。しかしながら、農家の生産性を考えたときに、リスクに見合った適切な散布量を考えて安全に使用することと、過度な散布を行わないようにすることとの両輪はきちんと議論しておくべきであり、発がん性があるので高濃度で触れる可能性のある農作業者にとって危険だという話になったり、諸外国で使用禁止の動きが強まり、問題除草剤が残留していたらまったく輸出ができなくなるということにでもなれば、日本も歩調を合わせていくべきであろうと思うわけであります。

 このように、専門的な議論が積み重ねられて適切な政策と、農家などでの除草剤の適量使用についての是非が話し合われているなか、なぜか我が国の野党では「食の安全を考える議員連盟」なるものが設立準備に入っている模様です。もちろん、食の安全を考えるのは必要なことですし、ぜひ進めていただきたいと願う次第であります。

 ところが、この問題となる除草剤対策を行うにあたり、毛髪検査をしてどのくらい体内にこの除草剤が残留しているのか調べましょうという謎のデモンストレーションが実施され、共産党・紙智子参議院議員のTwitterではデトックス検査として毛髪を6グラム調べるという、かなりのトンデモが公然と語られており、大変なことになっています。

 この議連に参画しているのは、川田龍平(立憲)、大河原雅子(立憲)、阿部知子(立憲)、福島みずほ(社民)、小宮山泰子(国民民主)、紙智子(共産)各議員、この他にデトックス・プロジェクト・ジャパン準備会の山田正彦(元農水大臣)、印鑰(いんやく)智哉などの各氏で、本当に何をしているのだろうと思うところが大です。

「食の安全を考える議員連盟」(仮称)の設立に向けた準備会。農薬や添加物の影響に注目して、実際に毛髪検査。フランスでは、すべての国会議員が検査し、グリホサートが検出され規制されたとのことです。(今のブログ名は #RegaindemocracyJP 19/3/6)

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 何ということでしょう…。この頭髪でのデトックス検査とされるものは、サンプルとして量をとってもさしたる均質性のない結果を出すため、ときとして異常値を多く引き起こし、それを検査することで異常と診断された人に対して適切ではない治療やサプリメントを売りつけるという悪徳商法に直結してしまうこともあるという話は古くからあります。頭髪は構造上、溝があり、傷みやすく、間に油脂と埃などが入ることで頭髪の生成とは無関係の物質を多く取り込んでしまいます(だから、現代人は頭皮、頭髪を洗うようになりました)。日常的に、満員電車に15分乗るだけで頭髪の量に応じて「自分の体内が由来ではない」物質を頭に乗っけてしまうのです。仮にハゲであっても、でかければ頭皮に何らかの物質は乗ります。その頭髪を切って調べてたところで、たいして正確ではないサンプルを検査してしまう怖れは高いと言えます。

 また、頭髪による検査の振れ幅の大きさはすでに研究されており、診断を下すことができるほど正しいデータを出すとは限らないと結論付けられています。

Commercial Hair Analysis: A Cardinal Sign of Quackery(Quackwatch Stephen Barrett, M.D. 18/8/31)

 その頭髪をサンプルにして行うデトックス検査とされるアプローチは、基本的にはニセ科学の最たるもので、もはや多くの論者が重ねて論じているのでここでは結論だけを掲載しておきたいと思います。「デトックス検査」と「デトックス」とは厳密には異なる概念ですが、身体の中にある悪い物質が頭髪、汗、皮膚、尿・便などを経て排出されると説明される点でほぼ類似していると言えます。

デトックス(疑似科学とされるものの科学性評定サイト)

「汗をかいてデトックス」はウソだった、研究報告(ナショナルジオグラフィック日本版サイト 18/4/12)

 さらには、独立系市民メディアのIWJがこの様子を「取材」しており、なぜか「今回の検査キットは、グリホサート、ネオニコチノイド、有機リン系他、50数種類の農薬を検査することが可能」と説明しています。ぶっちゃけ駅前の喫煙場所横を通れば有機リン系の劇薬物は閾値を大幅に超えて検出されますし、頭髪をいくら調べたところで身体の中にあるこれらの問題物質の蓄積量は分からないはずです。また、吸い込んで肺に留まっているのか、肝臓などどこか別の臓器に蓄積しているのかによって発症する症状もリスクも異なるわけですから、どのような科学的根拠をもってこんなパフォーマンスをしてしまっているのかが良く分かりません。

「断髪式」をIWJが独占取材!除草剤「ラウンドアップ」の主成分グリホサートが食品を通じて体内に蓄積!? 川田龍平氏ら超党派の『食の安全を考える議連』が検査用頭髪を「デトックス・プロジェクト・ジャパン」に提供!(IWJ 19/3/4)

 で、ここに出ている「デトックス・プロジェクト・ジャパン」は議連とは別に準備会が立ち上がっているようですが詳細が全く不明です。旧民主党・菅政権時代の元農林水産大臣を務めた山田正彦さんが代表のようですが、遺伝子組み換え食品の脱却を目指す活動を淡路島でやられているとのことで、頭痛がします。

山田正彦(wikipedia)

 もちろん野党が政策の主眼に「食品の安全」を据え、発がんリスクのある除草剤の規制を進めたいと考えるのは構わないのですが、本来野党が考えるべきことは農政全体を捉え、農家として働く人たちの所得や補助金の関係、あるいは支える農協、経済連、全農の機能強化も含めた議論は必要でしょうし、さらには崩壊しかかっている地方金融(地銀、信金など)の再編問題や退廃著しい地方経済の立て直しを一次産業から見直していくグランドデザインが必要な世界です。

 しかしながら、野党が農業政策に関連した議連を立てたというので半分期待して見に行ったらデトックスのようなニセ科学ど真ん中のアプローチを平然と取り、議員として取り組むべき本質的な農業政策についてかけらも議論されないまま断髪式と称して体内に残留している農薬をみんなでサンプル検査しようとしているのはいささか問題ではないのかと思います。「食の安全」自体は些末な問題ではありませんし、取り組むことは大事だと思いますが、視座が低く、手法が不適切で、構想に欠けています。

 期待感をもって野党の政策を検証したいと思いますし、いまの停滞した農政、また地方金融の危機も含めた地方経済の疲弊、人口の大幅な減少局面でどのような地域社会を農業と共に築いていくのかは、いまの与党だけではなかなか幅広い議論はできないかもしれませんので、一刻も早くニセ科学から離れ、目を見開いて国民の選択肢になり得るような野党となるよう充実した政策論議を進めていただきたいと切に願う次第です。