「携帯電話値下げ強要」を巡るあれこれで政府の面子丸つぶれな展開なんですがどうなるのでしょうか

(写真:つのだよしお/アフロ)

 今年の夏頃から何度も繰り返される携帯電話料金値下げを求める菅義偉官房長官の発言ですが、11月になってももその勢いは止まらないようです。

携帯料金下げ「早く実現を」=菅官房長官(時事ドットコムニュース 19/11/1)

「利用者にとって分かりやすく、納得できる料金でのサービス提供を早く実現してほしいとの思いに変わりはない」と述べ、携帯大手3社に早期の料金引き下げを求める考えを重ねて示した。

出典:時事ドットコムニュース

 この菅官房長官の発言は、ドコモが政府の強い意向を汲むような形で来年に向けて携帯電話料金の値下げを検討している旨を発表した後に出たものですが、要するにドコモ以外のキャリアも値下げしろよという意図が透けて見える感じがします。

 何しろブロッキング事案では知財本部の変な決定に乗せられる形で違憲同然のブロッキングをやりますと明言してしまった前科のあるNTTグループだけに、NTT法の縛りを撤廃してほしい気持でもあるのかと邪推されかねないぐらい政府方針に従順なのが気になります。

ドコモ、携帯料金を最大で4割値下げ--低価格プランを2019年に提供へ(CNET Japan 18/11/1)

 現時点ではまだ具体的にドコモがどれほどの値下げを実施するのかは不明なんですが、一部の報道ではこれぐらいじゃないかという試算をしておりました。

ドコモ、2~4割値下げ 月額500円程度か(産経ニュース 18/10/31)

契約者1人当たりで単純計算すると月額500円程度の値下げになる。

出典:産経ニュース

 庶民の多くは毎月のスマホ利用にかかるコスト全体の「4割削減」を期待している可能性もありそうですが、上記で出された数字は残酷にもそうした人々の切なる願いをあっさりと打ち壊してくれそうですね。実際、4割削減を実現してしまうと逆に次世代通信規格5Gへのインフラ更新費用もままならないので、適正利潤と政府要請との見合いで考えざるを得ないというのが正直なところでしょう。

 しかも、このドコモの料金値下げ報道が発せられるやいなや、庶民の儚い希望が消え去ると同時に、株式市場でも大きな悲劇が起きてしまいました。

携帯3社の株急落 ドコモの値下げ表明が直撃(日本経済新聞 18/11/1)

携帯3社の時価総額は3.5兆円強減り、株式相場全体の重荷となった。

出典:日本経済新聞

 そりゃ値下げする方針が見え隠れしていたら収益を直撃するわけですし、株価だけが無事なはずがありません。

 こうした政府の携帯電話料金値下げ圧力に対する市場の反発というのは、実は3年前にも全く同じことが起きておりまして、政府による価格統制というよりはインフラコストにおける計画経済のようなもので、経済政策としては悪手であるよなという印象を免れません。今回は前回よりもさらに市場へのネガティブなインパクトが大きくなっていて、政府は過去から何も学んでいないのではないかという疑念も浮かび上がってきます。

携帯電話3社の株価大幅安、安倍首相の料金値下げ検討指示を嫌気(ロイター 15/9/14)

 当時の政府による携帯料金値下げの動向については以下のような論考があり、まあ今回も似たような事情を勘繰る向きは少なくないのかもしれません。

「ケータイ料金」値下げに安倍政権が目をつけた理由(プレジデントオンライン 15/9/30)

単なるケータイ料金値下げでは、今や超大企業であるdocomoとauとSoftBankをブン殴るだけの庶民喝采・大衆ウケ狙いだといずれ見透かされてしまう。いや、既に見透かされている!?

出典:プレジデントオンライン

 で、今回の政府による料金値下げ圧力に対してはKDDIがなかなか勇ましい回答を出してきました。

ドコモの値下げに追随しない、すでに取り組んでいるとKDDI社長(ブルームバーグ 18/11/1)

 さらに、楽天のキャリア事業参入によって料金値下げ競争が加速するとしていた菅官房長官の面子が丸つぶれとなるような話も飛び出してきました。

「楽天+KDDI」の波紋、携帯料金値下げに暗雲(日本経済新聞 18/11/2)

KDDIは11月1日、2019年秋に携帯電話事業に参入する楽天と提携すると発表した。

(中略)

今回の提携話で首相官邸と総務省には衝撃が走ったのではないか。菅義偉官房長官が「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」と発言するなど、各キャリアに値下げを迫っていた背景には、楽天の参入が値下げの起爆剤になるという読みがあったはずだ。

(中略)

政府がNTTグループをコントロールできても、経済における競争は政治のはるか先を行っている。KDDIと楽天は、会社の生き残りをかけて提携しており、政府からの圧力には屈しないという明確なスタンスが見えたように思う。

出典:日本経済新聞

 この日経の記事は、歯に衣着せぬ物言いで活躍されているITジャーナリストの石川温さんによるものですが、今回はいつも以上に脂が乗っている感があり大変面白く読ませていただきました。まあそうですよねと肯くばかりです。

 今回はある意味で財界・経済界・産業界からは政府の携帯電話料金値下げ施策に対して改めてNOが宣言された状況に見えますが、それでも携帯電話料金値下げを受けて国民の内閣支持率が上がればよしということかもしれませんし、さらには現政権にとってより大きな目標である憲法改正に向けた試金石という見方もできそうです。

 一方、12月に通信会社ソフトバンクの上場を発表したソフトバンクグループは、通信費用の削減よりも通信事業に従事する人員を4割削減するというプランを発表しました。

ソフトバンク、国内通信事業の人員を4割削減へ--料金競争に向けて(CNET 18/11/6)

 「もう日本の携帯電話事業にはソフトバンクグループにおいては旨みがない」とでも言わんばかりの内容ですが、実際より生産性の高い方向へ貴重な人材をシフトするというのも分からないでもなく、ある意味で携帯電話事業がフロンティアだった時代はとっくに過ぎ去り、もとの退屈な巨大装置産業へと戻っていってしまうのでありましょうか。