海賊版サイト対策のタスクフォース、構成員の弁護士・林いづみ氏は本当に本件の有識者なのか

(写真:アフロスポーツ)

 政府の知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」(以下、タスクフォース)の議論を巡り、海賊版サイトへのアクセスを通信事業者によってアクセス遮断(サイトブロッキング)される件について、議論が白熱しています。

 18年10月11日、一般財団法人情報法制研究所は意見書を発表、また先の国内でのクラウドフレア社に対する発信者情報開示と削除の仮処分決定が東京地方裁判所から出され(代理人は山岡裕明弁護士)、また、カリフォルニア州ではクラウドフレア社が問題となった海賊版サイト「漫画村」の運営管理者の情報を開示(代理人は山口貴士弁護士)、憲法違反や業法違反が疑われるブロッキングの違法性を阻却し得る緊急避難には当たらないのではないか、とタスクフォースの組成そのものに対する疑問にまで問題は発展してきました。

(筆者註:極力、両論を併記し中立に記述することを心がけておりますが、筆者自身が情報法制研究所の上席主席研究員の籍があること、また、公開された「漫画村」についてはすでに運営管理者や広告など取引業者に関する取材を行い記事を執筆しており、一定の事情を知り得る立場にいることは、あらかじめ明記しておきます。)

「ブロッキング検討を白紙に戻すべき」、対CDN訴訟の成果を受け情報法制研究所が意見書を公開(日経XTECH 18/10/12)

揺らぐ「ブロッキング必須論」…注目の仮処分決定(読売新聞 18/10/10)

インターネット上の海賊版対策の進め方に関する意見書の発表(一般財団法人情報法制研究所)

 これに先立ち、タスクフォースの構成員でカドカワ代表取締役の川上量生氏は「権利者は(略)クラウドフレアに対しても漫画村以前から、発信者情報の開示を要求しています。(略)メールアドレス以外の情報を開示していません」としていましたが、上記のURLの通り、然るべき手法で段取りを踏めば、問題なくクラウドフレア社は情報を開示しています。また、同じくヤフーニュース個人でも既報ですが、クラウドフレア社はタスクフォース宛のレターで「日本の誰からも公式にキャッシュ(コンテンツ)削除や違法コンテンツ配信の発信者情報の開示を求められたことがない」と説明しています。

カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す(ヤフーニュース個人 山本一郎 18/10/9)

川上量生「クラウドフレアは情報開示請求に応じないだろう」山本一郎「裁判所から情報開示命令が出た!」(Togetter 18/10/10)

 意見書が出され、またタスクフォースの構成員の半数からブロッキングや法制化への反対が表明されている状態で、気になるのは「なぜ、そこまで緊急避難によるブロッキングや、既存法の改正による法制化を進めようとするのか」にあります。山口貴士弁護士がカリフォルニア州でクラウドフレア社に申し立てた一連の法的措置により、問題とされた「漫画村」など海賊版サイトの管理運営者については開示されうること、山岡裕明弁護士が国内に設備や営業拠点のある事業者経由での対処の道筋を示したこと、そして何より、中澤祐一弁護士が早期にブロッキングの違法性を問う訴訟を起こしています。ブロッキングを進めるための立法事実自体が失われているのは間違いありません。

 しかしながら、政府・知財本部では取りまとめ案では書類上、漫画村運営者の特定についてはなぜか脚注になっていて、さらに「特定されたと報道されているが、刑事手続きが進んだとは聞いてない」と書かれ、知財本部そのものが「ブロッキングありきで、それを可能にするための法制化を強行しようとしている」としか判断のしようがありません。

 ブロッキングの議論自体は、文化庁で進んでいるリーチサイト違法化とともに無理筋であって、立法事実がなくなったにもかかわらず、適切な落としどころを探る議論どころか「『強い憲法違反の疑い』との評価は妥当性を欠く」としているのがタスクフォース構成員の林いづみ弁護士です。

10月15日タスクフォースに提出される林いづみ弁護士の意見書
10月15日タスクフォースに提出される林いづみ弁護士の意見書

(2)ブロッキング法制化の立法事実は存在する

この点に関して、海賊版サイトへのアクセス数の推定方法の正確さを論難して被害救済の立法事実がないなどという議論があるが暴論というほかない。推定被害が 3000 億円ではなく仮に数十億円であったとしたら救済の必要がないというのであろうか。

創作者は、霞や朝露をすすって生きていけというのであろうか。創作者が精魂をこめて生み出した作品を、インターネット上で著作権フリーにするか、どのように利用させるかは、創作者の選択の問題である。

 その海賊版対策のタスクフォースが組成されるに至った前提事実が嘘で、その嘘が情報法制研究所からの情報開示請求で明らかになったから虚偽の事実を前提に憲法違反が疑われるブロッキングの議論をするべきではない、という話なのに、林いづみ弁護士はコンテンツ制作者の権利の話をし始めて、この林いづみ氏は本当に知的財産の専門家なのか疑問に感じられます。

 しかも、なぜか「1) 海賊版サイトが利用するCDN事業者がクラウドフレア社とは限らない」「2) サイト運営者が偽名で契約すれば情報開示されても意味が無い」という論点まで提示していますが、タスクフォース開催前に問題とされた「漫画村」「Miomio」「AniTube」で著作権者の被害が3,000億円に上ると名指しで言われたから対処されたまでで、調べて行ったら全部管理運営者が出てきたばかりか、名指しされた海賊版サイトはすべて閉鎖されていることを鑑みても「緊急避難の対象となるサイトもなくなり、3,000億円を超えるとされた被害も実は存在しなかったうえ、民事的な手続きで大口の海賊版サイトは確実に辿れることが分かっている」ので、結果としてブロッキングは不要とされるべき事案だと考えられるわけです。

 そのような状況であるにもかかわらず、タスクフォースにおいては知財本部・事務局の取りまとめ案においては漫画村運営者の特定について「特定されたと報道されているが、刑事手続きが進んだとは聞いてない」という脚注になっています。どう考えてもタスクフォースはブロッキング賛成と反対の両論併記の取りまとめ案とし、最終的な決定は政治的に行う前提にしているものと見られ、どうもこの林いづみ氏の意見書が最終防衛ラインのようになっているように見えます。

■果たして林いづみ氏は有識者なのか?

 一連の議論で見ていて問題視されるのは、単にブロッキングに関する議論が粗雑なだけでなく、海賊版対策で必要な法実務の実際に詳しくないように見られる林いづみ氏や川上量生氏らタスクフォース構成員がブロッキングに拘泥し、知財本部・事務局を官邸・和泉洋人補佐官と揺さぶり続けているように見える点です。

 例えば、8月24日第5回の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」で、冒頭に総務省職員が「ブロッキングはユーザーの意思に反しており、ユーザーの監視の方向に進む議論である」と述べたことに対して、林いづみ氏がなぜか4月の閣議決定のことを持ち出し、総務省が対立をあおるのはけしからんというような話をしています。

林いづみ弁護士:

「自由なインターネット環境」などというが、4月の時点で政府の一員としての見解を出したのに、いまさらそのようなことをいうのは奇異である。いたずらにそのような対立を煽るのはどういうことなのか。

政府の一員として、前向きに関わって欲しい。

 4月に行われた政府の見解の前提が崩れたので議論をし直しているにもかかわらず、いったいこの人は構成員として何を見て議論してきたのだろうと思わざるを得ません。

 また、林いづみ氏は今回のブロッキングの違憲性がないという議論のなかで、なぜか税関の話を持ち出してきています。つまり、税関では中身を見ているのに、ブロッキングで通信の中身を見るのを問題とするのはおかしい、と論じているわけです。

 しかしながら、このあたりの知的財産や情報法制の根幹にある議論は、下手をすると法学部の教養課程で習うレベルの話を林いづみ氏が知らなかったことを意味し、政府の重要な政策を議論する場において、この人は本当に知的財産の有識者として会議に参加する資格のある人物なのか疑問に感じられるわけです。

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ブロッキングの法制度整備に関する憲法上の論点の検討(インターネットの海賊版対策に関する検討会議 宍戸常寿 18/7/25)

 少なくとも、タスクフォースが組成された時点で前提とされた諸条件が事実誤認や虚偽であったことが判明したいま、両論を併記すること自体が政治決着に持ち込もうとする悪しき前例を作ることに他なりませんし、著作権のような財産権ですら緊急避難が認められるようなことになれば、なし崩し的に名誉棄損などの「お気持ち」に対するアクセス制限が検閲によって行われ、表現の自由という民主主義の根幹が揺らぐことになりかねません。

 本来は、ブロッキングごときで「賛成派」「反対派」に分かれているかのような議論でさえ問題であり、発端となった海賊版サイトさえすでに閉鎖されている状況であるにもかかわらずこの問題が半年以上引っ張られているというのは、さすがに政府・官邸の錯誤であり、委員・構成員の人選も含めていま一度再考するべきなのではないかと思う次第です。

 きょう、タスクフォースの会議が開催されるようですので、次回に論をまたいで考察していきたいと思います。