トヨタとソフトバンクグループが「次世代の交通サービス開発で提携」の明暗

(写真:ロイター/アフロ)

 10月4日13時30分、トヨタ自動車とソフトバンクグループは記者会見を開き、自動運転を含む移動体通信を用いた交通ネットワークに関わる提携と、戦略子会社の設置で合意というニュースがやってきました。

膨張データが結んだトヨタとソフトバンク(日本経済新聞 18/10/4)

トヨタとソフトバンク提携 移動サービス新会社設立へ(日本経済新聞 18/10/4)

トヨタとソフトバンク、カーシェアなど業務提携(読売新聞 18/10/4)

 もちろん、世界的な自動車会社として成長を続けているトヨタにとって、大規模なデータ運用を設計する能力に欠ける点は泣き所で、いずれにせよどこかと連携して移動体通信と交通システム・ネットワークとを繋いだ事業に進出しなければならないというのはマストだったわけですが、いざ公式の記者会見の中身を見てみると単なるサービスレベルでの連携と子会社設立に過ぎず、もうちょっと踏み込まなくて大丈夫なのかと見ている側が心配になるような内容でした。

 より中長期的な目線で見ると、2020年に開始される次世代通信規格5G向けのサービス展開をするにあたり、多大な設備投資負担が迫っているソフトバンクグループは、移動体通信を行うソフトバンク株式会社(携帯電話・テレコム部門)の株式上場の予定をアナウンスしており、また、ソフトバンクグループの有利子負債は額面で15兆円に達しています。

ソフトバンク株式会社の株式上場準備の開始について(ソフトバンク 18/2/7)

ソフトバンクの借金玉(有利子負債)、13兆8247億円まで膨らむ(市況かぶ全力2階建 18/5/9)

 また、ソフトバンクグループは先般、グループを率いる孫正義さんの勇退とともに後継者としてニケシュ・アローラさんを指名、表舞台から去るかと思いきや、アローラさん周辺の幾つかの不透明な取引が取り沙汰されると孫さんは引退を撤回。次世代のソフトバンクを担う人材を育成するとされた「ソフトバンクアカデミア」もこれといった続報も聞かれず、孫さんの偉大な才能で大きく成長したソフトバンクのコングロマリット化を果たした後の「ポスト・孫正義」という出口戦略が見えないという実情があります。

 かたや、トヨタ自動車は創業の自動織機から自動車産業へと転換して強力な企業体へと成長、日本に冠たる世界企業のひとつとして走り続けています。一方で、データ資本主義の到来とともに産業の主役であった自動車もさすがに色あせ、これから素晴らしい車を作ることだけでなく、車から発信される人の移動、人のニーズをくみ上げ、安全に目的地に届け、行動を把握しながら移動ネットワーク全体の構造を見据えた事業展開が必要になってきました。これは、トヨタ自動車が自前主義を返上してでもノウハウをかき集め取り組んでいかなければならない分野であることは言うまでもありません。

 偉大な事業家であった孫正義さんが大きく広げた翼も、その足には多額の有利子負債という重しが存在し、その下には日本の金融システムの一角を担うみずほフィナンシャルグループがぶら下がっています。ソフトバンクグループが万が一何らかの事情で失墜するならば、道連れになるのはみずほFGだけでなく、日本の金融全体であって、抜き差しならない事態となる可能性はそれなりにあると思います。

 ソフトバンクには、トヨタが欲しくても手が出なかった傘下企業に知的財産がストックされており、また、非常に良好な財務状況から一朝時あればまるっと助け舟を出せるような場所に出ることができる提携が切望されていたのではないかと感じます。とりわけ、ソフトバンクグループが持つ移動体通信に関するノウハウや、半導体IPベンダ大手のアーム社など、トヨタが目指す第三の操業に近しい事業分野を揃えているのがソフトバンクグループの投資先・子会社群です。

 この提携は、業界筋や投資家界隈ではかなり前から予見されていたこととはいえ、大きい目で見れば日本経済のセーフティーネットをどう考えるのかという意味においても重大なものであり、両社の英断… としつつも、大規模な資本提携にはいきなりは至らなかったというあたりに日本風の奥ゆかしさを感じます。孫正義さんの魔法の種も尽きつつあるいま、匙加減としては大変絶妙なものだったのではないか、と思わずにはいられません。