2020年東京オリンピックを契機としたサマータイム論争の行方は何処へ向かうのか

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 2020年の東京オリンピック開催に向けて暑さ対策の一環として「サマータイム」導入の検討という話が出てきたときはかなり驚きました。

東京五輪へサマータイム論 暑さ対策に腐心 官房長官は慎重(日本経済新聞 18/7/30)

森氏が27日、首相官邸に首相を訪ねた際に提案した。森氏は今夏の猛暑に触れ「来年、再来年に今のような状況になっているとスポーツを進めるのは非常に難しい」と指摘。「続くなら東京五輪の大きなレガシー(遺産)になる」と語った。首相は「一つの解決策かもしれない」と応じたという。

出典:日本経済新聞

 「レガシー(遺産)」というのはつまりオリンピックが終わった後もこの制度が日本で継続して実施されれば、提唱者の森さんの偉業として長く語り継がれることになるだろうという意味と解釈できなくもありませんが、そのあたりご本人が一体どういう意図でこの発言をしたのかはよく分かりません。

 しかしながら、こうした話が出た後の公の記者会見において菅官房長官が「一つの提案として受け止めるが、日常生活に大きな影響がある」として遠回しに事実上の“NO”を宣言していたのでこの話はてっきりこれで終わりなんだろうと思っていたところが、なにやら事態はそう簡単には決着がつなかいような展開となってきました。

 菅さんの政府見解が示されたのにもかかわらず、産経や読売といったメディアがしばらくの時間を置いてから改めてサマータイム導入についてどちらかというと前向きな雰囲気の漂う報道を行うことになります。

酷暑対策でサマータイム導入へ 秋の臨時国会で議員立法 31、32年限定(産経新聞 18/8/6)

サマータイム導入、首相が自民に検討を指示(読売新聞 18/8/7)

 記事を読む限りタイムラインは先に挙げた日経記事と同じタイミングの話であるようですが、わざわざ安倍首相の声かけで議論することになったという部分を強調して伝えているあたりからもなにがしかの思惑があっての時間差報道であった可能性は感じます。とくに産経では「与党はお盆明けにも制度設計に入り、秋の臨時国会への議員立法提出を目指す」というかなり具体的な展開も書かれており目を引きました。またスポーツ新聞ではレガシーとしてのサマータイム実現を推し進めるような勇ましい見出しも登場しておりました。

東京五輪終わっても「サマータイム」恒久的運用へ 議員立法による成立を目指す(スポーツ報知 18/8/8)

 こういうサマータイム肯定論的な情報がメディアを賑わせると、それに呼応するかのようにサマータイムが抱える問題点を指摘する意見もネット上などに噴出しました。感情論的な反対意見はさておき、実際にサマータイムを現実社会に導入したらどういうことが起こり得るか問題点を具体的に提示した上原哲太郎さんのスライドは大変に分かりやすいものでした。

サマータイム実施は不可能である(SlideShare 18/8/10)

「サマータイム実施は不可能」スライドが話題 「経済被害が兆単位」「サイバーテロをお膳立て」立命大・上原教授が指摘(ITmedia 18/8/10)

 さらに興味深いのは、普段は安倍政権支持派とみられているような高橋洋一さんや長谷川幸洋さんまでもがサマータイム導入に対して強く反対を表明しておりまして、サマータイムに関しては親政権を立ち位置にする論壇においても一枚岩ではないのだな妙なところで感銘を受けました。

元官僚だからこそ分かる「サマータイム導入議論」のバカバカしさ 高橋洋一(現代ビジネス 18/8/13)

サマータイムに賛成多数という風潮、さっぱりワケがわからない 長谷川幸洋(現代ビジネス 18/8/10)

 しかし、こうした政府外からの揶揄の声が上がる事態何ものぞということでしょうか、自由民主党衆議院議員総会長の船田元さんはしっかりとご自身の立場を弁えてサマータイム導入を実現すべく意見をオフィシャルサイトに公開されておりました。

マータイム制度の導入について(筆者注:原文ママ。当記事執筆時点では文頭の「サ」が脱字しています)(FUNADA HAJIME OFFICIAL WEB SITE 18/8/13)

その際はこれまで指摘されてきたいくつかのデメリットを、一つひとつ丁寧に解決していかなければならない。長時間労働に対しては、既に動き始めた働き方改革により、かなりの歯止めが期待される。コンピュータなどの時間設定の変更は、律儀で真面目な国民ならば十分乗り切れるはずだ。余暇時間の過ごし方が、エネルギー消費の削減につながるような工夫も必要だ。一方、睡眠不足などによる健康障害問題は、むしろ個人の心構えにより、多くは解消されるはずだ。

出典:FUNADA HAJIME OFFICIAL WEB SITE

 いろんな意味で、船田さんのお人柄がにじみ出る熱い文章ですね。おそらくこういう方が自民党議員には多数おられることでしょうから、議員立法によるサマータイム成立の可能性は十分にあるのかもしれません。我々国民は律儀で真面目にコンピュータなどの時間設定を変更するしかないのでしょうか。

 いずれにせよ、サマータイムで仮に時計の針を2020年夏に限りずらしたところで、オリンピックで競技時間が限定されている競技については無関係ですし、酷暑の日程でオリンピックが開催されること自体には何の変わりもありません。もしも日本の夏が本当に暑く、野外で協議するには不向きな気温なのだとするならば、大会開催期間を10月にするとか、2時間ではなく2か月ずらすほうが効果的だろうという話になります。

 しかしながら、オリンピックもスポンサーやコンテンツ放映といった事情もあるために、米欧のスポーツシーズンを外してオリンピックを強行しなければならない状況にあるようです。選手にとっても来日観光客にとってもホストである日本人にとっても、オリンピックが誰のためにもならないような事態に陥らないよう、ちょっとした冷夏が来てくれることを祈るのみです。

 もちろん、オリンピックをやるからには成功させたいですし、日本の良いところを見て帰ってほしいという気持ちも強いわけです。なんだかんだ、東京でオリンピックがあれば楽しく見物するでしょうしね。そのためにも、本当の意味で知恵を絞って意味のある対策をきちんと打って、一大イベントに繋げたいものなのですが。