才能のありげな若者と、燃やして顧客情報を釣るビジネスとが併存する話

(写真:アフロ)

 ITで出来ることが拡大すればするほど従来の常識では思いもつかなかったような事業形態が実現可能となってきました。気をつけたいのは“実現可能”であることがイコール商売として成立するということを意味しないところでして、外から見ていてこのあたりの微妙なバランスが気になる案件が最近は目立つようになった感があります。

レシート買い取りアプリ、開始から1日たたず停止 「予想の750倍の量」(ITmedia 18/6/13)

レシートを1枚10円で買い取るiOS向けアプリ「ONE」を、ベンチャー企業のワンファイナンシャル(東京都港区)が6月12日午前6時に公開したが、同日午後10時、買い取りを一時停止した。現役高校生でもある同社の山内奏人社長は「予想の750倍の買い取り枚数となってしまい、ビジネスを見直している」と説明する。

出典:ITmedia

 ネット民の間でも大きな話題となった案件でしたが、やはり案の定といいますか、コケるべくしてコケた感しかありません。

 当該アプリの検証をしてみたらレシート以外の全然関係ない画像(付箋や足の裏、人の顔、壁など)でも買い取りされたという報告もネット上に出回っていた時点で相当まずいことになっているなとは思いましたが、ビジネスモデルの設定がそもそもおかしかったのは言うまでもありません。

 これはいくら天才プログラマーの高校生が面白いアイディアを出したからといって、いやしくも企業という体裁でビジネスをするのであれば周りのスタッフがしかるべきアドバイスをもってして導いてあげるのが筋だったのではないかと思うわけです。不幸なことにそうしたまともな「大人」が山内奏人さんの周りには一人もいなかったということなんでしょうか。

話題のレシート買取アプリONE 「査定」がザルすぎる件 →ふせん・葉っぱ・細胞・犬・おしぼり・机・天井の写真でも10円に(Togetter)

 なお、山内さんはこれまでにもフィンテック系のサービスを手掛けており、「新しい銀行を作りたい」といった発言をするなどかなり野心的な若者のようではあります。

スマホ1台あれば数分でカード決済を導入―― 16歳起業家が作った「ONE PAY」提供元が1億円を調達(TechCrunch 17/10/17)

アプローチは少しづつ変わってきたが「『新しい銀行を作る』『お金をよりシンプルにする』という軸は変わっていない」と山内氏は話す。社名変更に加えて代表取締役にベテランの人材を招き組織体制を刷新(引き続き山内氏がCEOを務めるが代表権は持たない)。新体制の下、今回調達した資金も活用してONE PAYのクオリティを上げていきたいという。

出典:TechCrunch

 今回のレシート買い取りアプリに先立つ事業であったONE PAYは「不正利用リスクが高く、サービス継続が困難」(ITmedia)という理由から18年5月末で終了しているそうでして、余計なお世話ではありますが、この件でもやはり周りのスタッフが山内さんの能力を良い形で伸ばせていないのではという危惧があります。先のレシート買い取りにせよカード決済にせよ、先行事例やまつわる技術はすでにかなり出ており、法律面でも制限がある中で世に出回っているサービスはそれなりにクリアしていることを忘れてはなりません。若者が社会経験の乏しさから価値や適法判断を見間違えるのはある程度仕方ないことでありますから、今後はそういう面をしっかりとサポートしてくれるような信頼できる大人と山内さんが出会えて良い形で出直しができることを切に願う次第です。

 と、記事を書いていたらこんなニュースが入ってきました。

レシート買取アプリ「ONE」がDMM AUTOと連携し再開、ガソリンスタンドのレシートを最大100円で買取へ(TechCrunch 18/6/18)

同社によると「ビジネスモデルを広告モデルに転換」し、その第一弾としてDMM AUTOが出稿した形になるとのこと。

出典:TechCrunch

 そうですか。広告モデルにしたからといって事業が成立するのかどうかはよく分かりませんが、広告で無料タクシーという夢のような話もどこかでありましたね。広告でなんとかなるというのはすでに商業ウェブサイトの多くがそれで行き詰まったビジネスモデルでもありますが、いまだにそこに活路を見いだすベンチャーな人達が多いのは何なんでしょうか。広告は決して打ち出の小槌みたいな力は無いと思うのですが…。

 個人的には、先に70億円で中古ブランド品買取サービス「CASH」を買収したDMMは親和性が高いものの、見た目は広告モデルとしつつも単純に「ガソリンスタンドに出入りする人は車やバイクの保有率が高いはずだ」という単純な思考で、話題となったレシート買い取りサービスと安易に連携したようにしか見えません。

 なんかこう、若者による微妙なスタートアップを周りにいる大人が諫めるどころか煽り立てて起業を促し、爆死する過程で助け舟を出すような見え方で顧客情報を釣り上げるようなやり方は、スタートアップ界隈の焼き畑化を進めるだけでなく「プレゼン上手な若者が年寄りを転がしているだけのビジネス」になりかねないのが気になります。それだけ本格的で有望なベンチャービジネスが枯渇している、ということなのでしょうか。

 いろんな会社でのベンチャー企業の取り組みを見ていると、安易に高い値段をつけてベンチャー企業を買った側も事業化・収益化に持て余す一方、買われて一獲千金した側も成功体験を忘れられず、また高値で買われそうなベンチャー企業を立ち上げて「創業期・拡大期だから」と赤字を大きく垂れ流して集めたお金を溶かしたり、エンジェル気取りで指南役に回っているのを散見します。結局、数年して黒字化のめどが立たずリストラに追われたり、減資して再調達に走り回っている経営者の姿を見ていると「天才のように見えていた時期に、いかに脇を締めて取り組むことが大事か」を身をもって教えてくれているように思います。

 こういうのが出始めると「バブルももうすぐ終わるのだなあ」といういつか見た光景を思い出すのはきっと私だけですね、はい。