違法サイト「漫画村」に関する集英社への公開質問状

(写真:アフロ)

 先日、海賊版サイトとしてアクセスを集めていた「漫画村」ほか関連サイトの事情について、すでに知っていたことと併せて各方面に取材を行い、内容をまとめて記事を掲載しました。

【号外】「漫画村」ブロッキング問題、どこからも被害届が出ておらず捜査着手されていなかった可能性(プレタポルテ 18/4/18)

政府の無理筋ブロッキングの標的となった「漫画村」が閉鎖、窓口会社が遁走のゆくえ(News Vision 18/4/18)

「漫画村」ほか違法サイトへの広告配信問題と、NHKが取り上げるアドフラウド問題について(Y!ニュース 山本一郎 18/4/18)

 問題となった海賊版サイトに対し、警察庁・警視庁に権利者(漫画家など)が被害届の提出・受理や刑事告訴などの手続きを厳正に行っていなかったために事件化しておらず、弁護士の福井健策さんらの言う「現場対策がほぼ手詰まりである」とは到底言えない状態なのではないか、と取材結果から判断し、見解を掲載しています。

 筆者の立場としては、これらの海賊版サイトはコンテンツ業界の収益機会を不当に奪い、著作権を無視した無法なサイトが一般化した場合に産業のみならず社会に与える悪影響は大きいため、早期に適切な処置を取り、違法な手段で著作物が頒布されないようにするべきと考えております。

 一方で、政府による通信事業者などに対する特定のサイトへの「ブロッキング要請」は、憲法で認められた通信の秘密(日本国憲法 第21条2項 「通信の秘密はこれを侵してはならない」)に抵触し、また、電気通信事業法にも違反するため(第4条1項 「電気通信事業者の取扱中に係る通 信の秘密は、侵してはならない」)、違法阻却事由に基づく緊急避難にあたるのかどうかが焦点です。今回の政府・知財本部決定では「違法性が阻却される」とは一言も書いてありませんので、現状では集英社がどのような見解を持っていようと憲法上の問題や電気通信事業法違反であるブロッキング議論は進まないのは官邸も知財本部も総務省も理解しているものと思われます。

 先の福井さんの「現場対策がほぼ手詰まりである」かどうかが重要になりますが、問題の経緯や取材先からの情報提供から判断する限り、集英社の主張する「捜査機関と協力して厳正な対応」を行っているとは認めづらい状況であると判断しています。

 しかしながら、昨日集英社が掲示した文書画像においては「捜査機関と協力して厳正な対応」を行っているとしています。集英社の見解も出ておりました。

出版社の海賊版サイトへの対応に関する誤情報流布について(集英社 18/4/19)

Twitter 桶田大介

「海賊版サイトの出版社の対応、誤情報が流布している」集英社が声明 「10年にわたり対策してきた」(ITmedia NEWS 岡田有花 18/4/20)

 なぜ集英社が単独でこのような意見を発表しているのか良く分かりませんが、内容を見るに「海賊版サイトへの対策は行っている」と主張したいようです。ところが、内容をよく見ますと気になる点が2つあり、1つがほとんどが関係先への要請や発信者情報の開示請求程度であること、もうひとつが今回ブロッキング議論の対象とされていた「漫画村」「Miomio」「Anitube」および星野ロミ氏ほか周辺の海賊版サイトへの法的措置や刑事告訴と言った本来公的機関が動くために必要な手配がされているようには見えません。つまり、どうでもいいことはいろいろやっているようだけど、肝心の具体的な法的アクションは何もしていないように見受けられる、ということです。インターネット業界的には、この内容では仕事をしているうちに入りません。

 筆者の知り得る限りの経緯や、取材先からの情報提供だけがすべてではなく、集英社にも筆者の知らない事情があるとも承知するところですので、以下の通り集英社の発表に対する公開質問状と、本件問題に関する私見を提示したいと存じます。

■1. 集英社の主張する「厳正な対応」は著作権者の被害届提出や刑事告訴は含まれるのか

 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構CODAや業界団体などを通じて、警察庁・警視庁に対し状況の情報交換や被害状況の確認などの交流があったことは承知しています。また、被害実態について所轄署レベルで相談が行われたことまでは、確認しています。

 しかしながら、筆者が取材先から確認した限りでは、本件「漫画村」ほか関連サイトによる著作権法違反事案は事件化されておらず、通信事業者や広告業界団体に対していわゆる「違法リスト」の提示も行われていない状況です。つまり、「漫画村」ほか関連サイトや、その他違法な海賊版アップローダー、リーチサイトなどに対し、警察庁・警視庁は事件化していないのでリスト化されず、広告出稿制限も規制できないため事実上野放しになっているように見えます。

 これが本当に集英社の言う「厳正な対応」であり「緊急避難」に該当するレベルでの行動であったとお考えでしょうか。

 また、この「厳正な対応」の中には正当な著作権者(漫画家など)による所轄署への被害届の提出や、特定サイトに対する刑事告訴は含まれるのでしょうか。

 これらの正当な手続きを踏んで「漫画村」ほか違法サイトに対し具体的な捜査着手が行われていたのかどうか、ご教示ください。

■2. 自由民主党・甘利明氏への働きかけが行われたというのは事実か

 貴社および関係各社のロビイングの内容についてお伺いいたします。

 筆者が入手した資料と証言によれば、昨年2017年11月下旬ごろから18年2月にかけて、カドカワ社川上量生氏と自民党系元議員に請託し、自由民主党の知的財産戦略調査会の会長に就任した元経済再生担当相の甘利明氏に対して出版業界の現状について繰り返し説明を行い、緊急避難としてのブロッキングを通信事業者(ISPなど)に対し実施を要請できるよう働きかけたと言われています。

 これは事実でしょうか。

 一連の情報が事実であれば、貴社集英社と小学館ほか各社は、自社の利益を守るために政治に強く介入し、常識的に見て緊急避難とは到底言えない海賊版サイトのブロッキングという電気通信事業法違反の政府要請を実現するための行動をしたことになります。これらが実施された際の法的リスクは、当然通信事業者が背負うことになります。

 もちろん、これらは適法な渉外活動であり、そもそもが業界団体や関連するコンテンツ系大手企業が「知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会」の委員を務めていながら、インフラや決済など枢要な業務を担う事業者が含まれないなどの問題もありますので、かかる事態に対して善処するために必要であった、ということはよく承知しております。

■3. 総務省総務審議官はなぜ民間事業者に法的リスクを負わせる「要請」を事前照会したか

 もともと、総務省は憲法で定められた通信の秘密を重視する立場を取っており、警察庁・警視庁、海上保安庁、厚生労働省など捜査機関による通信に関わる情報の利活用には慎重な対応を取ってきていました。

 しかしながら、本件ブロッキングに関する検討が知的財産戦略本部の方針として概ね定まったとされたあと、総務省の方針が急変し、NTTグループ、KDDI、ソフトバンクのMNO3社だけでなく、その他通信事業者に対しても18年4月11日付で本件ブロッキングの要請に関する事前照会が行われました。また、MNO3社トップに対して総務省総務審議官自ら説明し、それ以外の少なくとも4社に対しては消費者行政課が対応して、政府方針に対する理解を求めています。

 その後、4月13日知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議では「緊急避難として民間事業者へのブロッキングの要請」から「民間事業者の(ブロッキングの)自主的な取組」へと表現が大きく後退したため、先に「ブロッキング要請」を業界大手各社に対して事前照会した総務省や説明対応をした審議官は梯子が外れた格好になっています。

 この総務審議官を巡り、ブロッキングを行うための緊急避難を総務省が各事業者に対応を実施する何らかの座組みを、集英社および関係先で提示されたのでしょうか。

 もちろん、総務審議官に限らず官公庁で長年勤務された経験豊富な優秀な人物は、行政にも法律にも長け、民間企業としても受け入れるにあたり職業選択の自由も踏まえ適法であることはよく承知する部分ではあります。一方で、海賊版対策のための緊急避難において、総務省がいままでの行政方針を大きく変更しブロッキング要請にまで踏み込んだ対応を事業者に事前照会として求める事態は適切であるか議論が分かれるところで、踏み込んだ総務審議官の今後の処遇を含め、かかる懸念は広く政府内や業界でも共有されるところであり、差し支えない範囲内でご見解をお伺いできれば幸いです。

■総論 適切な立法措置と、海賊版対策の重要性

 繰り返し述べますが、私見としては「海賊版対策をしっかりと行うことこそ、日本のコンテンツ産業の興隆にとって不可欠なものである」と考えます。同時に、コンテンツ産業を支えるクリエイターの収入や労働環境といった国内環境の整備は重要です。過重労働に追われる漫画家や編集者、安い値段で長時間従事するアニメーター、不利な契約でも甘受しなければならないイラストレーターなど、我が国のコンテンツ産業をより良くしていくためには、出版社はもちろん、ネット業界、ウェブサービス、通信事業者のような産業レイヤーだけでなく、コンテンツを支えるすべての人たちがきちんと受益できる仕組みと、病気や介護、育児などの人生の転換点でも挫折せず安心して働ける産業環境の構築が必要であることは言うまでもありません。

 また、日本のコンテンツを売ろうにも自由に商売のできない海外の参入障壁、とりわけ中国の直接の知的財産権の侵害だけでなく、日本発のコンテンツをデッドコピーし日本産サービスやソフトが自由に販売、流通させられない状況は、民間の各事業者や国内のクリエイターが束になっても解決できない、文字通り国家・行政でなければ解決できない問題です。日本のソフトウェアがパクられているだけでなく、日本法人が中国で活動し営業して得られる利益を逸しているのは、自由貿易の原則から明らかに外れています。外交面、産業政策面の両面で、持続可能で公平な業界勧業づくりのビジョンが求められていると感じます。

 しかしながら、今回のブロッキング関連の議論を見渡しますと、どれも問題を認知してからの要請を各社・各組織でたらい回しにし、被害状況の確認を怠り、海賊版サイトが匿名だからという理由で行うべき処置を行っているようには見えません。今回、名指しされている「漫画村」ほか関連サイトのみならず、日本でサービスを行っている海賊版サイトのかなりの割合が日本を営業の拠点にしており、然るべき調査で対象を早期に特定できるのが実情です。きちんと調査し、相手を特定して、捜査当局に情報を提供し、法的措置を行うことこそが、海賊版対策で求められている業界団体や大手事業者の動きであると考えます。政治家に働きかけて憲法問題を中央突破して通信事業者に法的リスクを負わせながら、実際にはVPNやタコ足サイトの乱立で海賊版対策はザルになるようでは誰も幸せになりません。

 集英社におかれましては、意味のある対策を先導し日本のコンテンツ業界の中核として適切かつ健全な議論で国家・産業全体の知的財産戦略の一翼を担っていただきたく、電子出版、ネット全盛時代の新しいコンテンツ業界のあり方について考えていっていただきたいと強く願っております。