「漫画村」ほか違法サイトへの広告配信問題と、NHKが取り上げるアドフラウド問題について

 漫画の海賊版を掲載するサイトへのアクセスを遮断する「ブロッキング」を巡り、政府が知的財産戦略本部の方針に基づきISPに要請すると伝えられている問題で、NHKもクローズアップ現代などで取り上げるぐらいの熱量にはなってきたようです。また、情報法制研究所では有識者によるミートアップ的なシンポジウムが開催される模様です。

【緊急開催】著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム(入場無料・事前申込制)

追跡! 脅威の“海賊版”漫画サイト(NHK クローズアップ現代+ 18/4/18)

漫画違法配信サイト「漫画村」の黒幕に迫る(無能ブログ Cheena 17/8/2)

 ところが、警察庁・警視庁への取材を重ねている限りでは、どうも所轄署に対する相談があったかどうかというレベルで、海賊版によって被害を被った漫画家などからの被害届が複数出て事件化している状況ではなさそうです。そうであるならば、知財本部の本件委員にも入っておられる弁護士・福井健策さんが仰るような「現場対策がほぼ手詰まりである」とは到底言えず、憲法で国民の権利として認められた「通信の秘密」や「検閲の禁止」に抵触していることを回避する緊急避難の要件はまったく満たさないことになりそうです。

【号外】「漫画村」ブロッキング問題、どこからも被害届が出ておらず捜査着手されていなかった可能性(プレタポルテ 18/4/18)

 一方、NHKはこのブロッキング議論を敷衍する形で「裏広告」、業界的にはアドフラウド(詐欺広告)と言われる違法な広告配信のところまで踏み込んで番組を放送するようです。

海賊版サイト「漫画村」に “裏広告” 大手企業も(NHKニュース 18/4/18)

 この「漫画村」など違法サイトへの広告配信の問題は、すでに「漫画村」の運営者が特定されているだけでなく、主たる収入源を担ったとされる広告代理店・エール社と、その広告を支えたジーニー社ほか各社の携わり方に課題があると見られます。逆に言えば、防弾ホスティングがウクライナなど海外にあったとしても、広告の配信を追うことで少なくとも海賊版サイトを運営して利益を上げようとする母体を特定することは可能になります。

不在状態が続くエール社(著者撮影/作成)
不在状態が続くエール社(著者撮影/作成)

 また、本件のような大規模な海賊版サイトを支えるためには、コンテンツを配信するCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)を維持するコストが必要になりますし、広告を適切に配信するためには技術的なバックグラウンドが必要になります。これが、上記「裏広告」のようなアドフラウド問題に直結することになります。

悪魔のアドフラウド14の手法まとめ ―― いまのネット広告は落とし穴だらけ!(Web担当者Forum 安田英久 17/10/24)

 しかし、それだけの広告技術を持っている大規模な事業者は、株式上場していたり、上場している企業の子会社など関連会社として技術提供して、さらに広告の営業を行う必要があります。今回問題となったエール社と、そのエール社の広告配信技術を提供した上場企業のジーニー社については、すでにIRで情報が提供されています。

政府の無理筋ブロッキングの標的となった「漫画村」が閉鎖、窓口会社が遁走のゆくえ(ニュースビジョン 18/4/18)

 「漫画村」など関連サイトの取引を割れた口座から追いかけていくと、積極的に広告仲介をしている企業が22社判明します。中でも、電子コミックを運営するNTTソルマーレ社や大手アダルト会社DMM.comなど大手企業の広告配信を担当していたBOOST社グローバルネット社アドスタイル社などは、著作権法上問題のある「漫画村」など関連サイトへの営業を実施していたという点で、ある種の幇助になってしまっていたのではないかとみられます(各社とも、筆者の取材に対して回答なし)。

 広告の配信をしていたNTTソルマーレ社は取材に応じ「問題サイトに広告が多数掲載されてきたことについては痛恨であり、重く受け止めている。取引先とも監視体制を強めて適切な対処を行っていきたい」とし、またDMM.comは片桐孝憲社長は談話として「DMMの予算規模からみると広告費は小さい額であり、媒体まで全てチェックしきれておらず、気がつくのに遅れたことは、社長としての自分の責任です」と説明しています。

 一方、アドテクを提供したファンコミュニケーションズ社、アイモバイル社、Evory社は、提供した事実を認めたうえで、いずれも問題のあるサイトへの広告配信が行われた場合には確認し次第広告配信を停止するとしています。各社の対応については以下の通りです。

当社サービスがご指摘いただいたサイトに広告配信実績がありました。

「漫画村」に関しましては、複数のSSP経由で広告配信実績があり、「nend」は2017年1月に「nex8」は2018年1月に広告配信を停止しております。

(ファンコミュニケーションズ社)

事前審査において必ずしも著作権侵害等のある違法サイトを排除できているとは言い切れず、違法の疑いのあるウェブサイトに対して広告配信されている実情もございます。

このようなサイトにつきましては、著作権者から弊社に権利侵害の通報などがあった場合、違法の事実を確認、又は違法であることの蓋然性が高いと判断でき次第、速やかに停止処置をしております。

(アイモバイル社)

弊社は、SSP(サプライサイドプラットフォーム)へ広告配信を行っており、

各SSP運営会社が配信先のウェブサイトについて審査を行い、審査を通過したウェブサイトへ広告配信を行っております。

各SSP運営会社との契約上、違法サイトへの広告配信は行わないように取り決めておりますが、

審査基準につきましては、各SSP運営会社の規定に依存いたしております。

(Evory社)

 しかしながら、同様に広告技術を提供をしていたとみられるアキナジスタ社や、「漫画村」と組んでメディアレップとして営業をしていたグローバルネット社の子会社エムエムラボ社などはいずれも取材を拒否しています。配信技術の内容や取引情報からこれらの会社が関与していたことはほぼ確実とみられ、違法の疑いのあるサイトと知りつつ広告主に対して直接バナーを提供する直接取引を営業していた可能性が否定できません。

OEMで得た広告配信システムによって複数の違法サイトに広告が掲載されている
OEMで得た広告配信システムによって複数の違法サイトに広告が掲載されている

 グローバルネット社については、口座の状況を見る限り一時期は「漫画村」など関連サイトの売上の上位を占めていましたが、代表取締役の村木和彦さんは証券業界では象徴的な銘柄であった旧クレイフィッシュ社の代表取締役を経て光通信の事業部長をされるなど、この方面の事業に明るい人物なのではないかと想定されます。

 これらの広告代理業務を行っている企業は、インターネット広告に関する業界団体である日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の加盟企業でもありながら、違法性をある程度認識しながらも「漫画村」など関連サイトだけでなく、適切とは言えない広告配信手法で違法なアダルトサイト、紹介サイトや海賊版サイトに広告を掲載した疑いが持たれます。アドテク自体は難解な技術の集積ではありますが、違法なサイトに配信された広告には必ず提供されたアドテクごとのプログラムと成果計測用のURLが記述されているため、違法サイトの本体運営者が辿れなくても、その違法サイトに資金を供給している広告代理店は簡単に割ることができるのです。

 もしも、前述のようにきちんとした権利者である漫画家が所轄署に著作権法違反の疑いで被害届を出し受理されて事件化されていれば、配信されている広告やホスティング会社の履歴などから少なくとも運営者に近しい関係者の法人名や口座を割ることまではある程度可能です。実際、広告テクノロジーを提供している会社のログから逆引きをするだけで、今回は官憲の協力がなくとも「漫画村」など関連サイトの営業に携わる約40社の取引状況まで確認することが外部から可能です。

 このように、問題となるサイトの運営状況を外部から確認できるはずの本件が、憲法違反を掻い潜る形で緊急避難の名目でISPに対しブロッキングをかけるというのは考え物です。欧米でも問題となっているアドフラウド(広告詐欺)問題と併せて、適切な著作権管理と広告業務の在り方を業界全体で見直す良いきっかけになるのではないでしょうか。