キャッシュレス時代に向けて既存金融機関とプラットフォーマーの戦いが勃発か

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 近年、キャッシュレス化が進む中国など諸外国に比べてそれに負けている日本は情けないみたいな論考が盛んであります。よく引き合いに出されるのは中国や北欧のような脱現金が進んでいる地域でありまして、実際に現金主義がいまなお根強い日本からすると治安の良さや貨幣の出来が良いがゆえに… という良いはずの側面が社会の財産から負債になってしまった部分はあるかもしれません。

 まあ、中国の金融事情、さらには国家・社会的状況をどう読み取るかで様々なポジショントークも成立する話題でありますが、ITという側面からだけで見れば非常に大胆かつ急速な形でキャッシュレス化が進んでいる現実は間違いないところです。そういう方面でビジネスに関わる人々からすれば色々と面白いことができて羨ましいかぎりですし、同じような感じで事業を起こして美味しい利権を獲得したいと考えるのは当然の成り行きではないかと思われます。

 しかし、JR東のSuicaなどをはじめとした非接触型ICを利用するサービスの実用化でそれなりの成果を出してきた我が国においては、中国のようなQRコードで何でも処理してしまうあのやり方はさすがに原始的かつ乱暴に見え、どうしてもプライドが許さないみたいなところはあったと思います。それって日本人から見ると本来やるべき決済方法じゃないし、日本では心理的抵抗があって、可能であっても実現できない一線だったでしょう。

 しかし、ここに来てキャッシュレス事業関連では最後発組とも言えそうな国内大手銀行が一致団結してQRコードを利用した決済サービス立ち上げを計画という、壮大な後出しじゃんけんを仕掛けてきました。

3メガ銀、QRコード決済参入で連携 規格統一、キャッシュレス化を加速(産経ニュース 18/2/28)

3メガ銀はこれまで別々に開発を進めてきたが、規格の乱立を防ぐため連携する。必要な投資を共同で行う新会社の設立も検討している。

(中略)

大手行幹部は「インフラを標準化することで、コスト削減などさまざまなメリットがある」と指摘する。

出典:産経ニュース

 まあ、大手銀行はこれまでATM整備について莫大な資金を投下してきた一方で、キャッシュレス方面にはサービスの実現が進まない状態で、事実上ほぼ手付かずで来たわけですから、これから参入するとすればあまり金も手間もかけずに実現できる手法がうれしいわけでして、RQコードは非接触型ICよりも好ましいという感じなのかもしれません。

 あとは、時代の先取り的な形で銀行が独自仮想通貨の流通を考える方向もあったようですが、このところの一連の不祥事などが重なって仮想通貨のネガティブな側面が注目されるようになって、イメージ商売でもある銀行としては現時点で仮想通貨に真っ正面からコミットするのは避けたいというのもあるでしょう。もちろん、海外送金やATM網の置き換えで仮想通貨に紐づいたフィンテックを活用する方針には揺るぎはないようで、その意味では本来の仮想通貨ってこういう使い道だったはずなのになあと思う部分はあります。

メガバンクにも打撃 イメージ悪化懸念、「銀行とは別物」と火消し(産経ニュース 18/1/30)

 さて、キャッシュレス決済といえば従来はクレジットカードでした。しかしクレカは日本ではなかなか広く普及させるのがむつかしかった過去があります。ここにきて、スマホというクレカに匹敵するような個人の「信用」を担保できる存在が急激に国内で普及してきた背景から、スマホに紐付けたキャッシュレス決済サービスで誰がデファクトになるかの勝負においてAppleが一気に強気な勝負に出てきていた様相になってきました。どうやら国内キャッシュレス時代は大手ITプラットフォーマーか携帯キャリアが全部をもっていく可能性も出てきたなと見ていたところに、テクノロジーの進化をある意味で逆行するようなQRコードをもってして大手銀行が勝負をかけてきたというのはなかなか面白い展開です。

 ネット上の言説など見ていると、やはりギークな方々は非接触型ICのある今になってQRコードはないだろうという意見も多いようです。私も、それなりに普及してきた非接触型ICによる決済手段のほうが堅牢だし、いいんじゃないかと個人的には思ったりもしますが、今度はそういう読み取り機器の問題も出るので導入コストでQRコードのほうがいいという話も出ていて混沌としています。そういう意味ではAppleをはじめとしたITプラットフォーマーの提供するキャッシュレス決済サービスが有利となりそうですが、まだ現金決済の比率が圧倒的に多い、一般国民のマジョリティがどちらを選ぶのかはちょっと現時点では簡単に予想できないと感じています。「銀行」という昔ながらの看板が有利なのか、テクノロジーがもたらす利便性の勝利となるのか。最後は結局現金が一番で何も変わらずというオチになる可能性も十分ありそうですが…。

 そこへ、キャッシュレスへ舵を切っていたスウェーデンが、現金の流通においてかなりポイント・オブ・ノーリターンなところまで来てしまった、というニュースがタイムリーに流れてきました。

世界一のキャッシュレス社会、ATMから現金引き出せなくなるのか(Bloomberg 18/3/1)

 キャッシュレス社会は当然現金の流通が減るわけですが、その現金流通が減りすぎた結果、現金を維持するコストが社会的に負担できなくなりつつある、という実にトートロジーな展開になっているようです。ここまでくると、もはや哲学として「人は目の前にない物体の価値を信じることができるか」という世界に入りそうですが、しかし実際にはすべての貨幣価値によって起きている信用創造は架空のものであって、程度の差はあれ共同幻想でありバブル状態であるので、いまさら紙幣や貨幣が無くなってデジタルの世界に行ってしまって現金の実感がない、と言われても「世の中はそんなものだ」という常識になっていけば少しは変わるのでしょうか。

 仮想通貨なのに、トラブルをやらかした会社に投資家が押し掛けるサイバー取り付け騒ぎが起きたり、訴訟が乱発するのと同様、人間は案外こういう変化もすんなり受け入れるのかもしれませんが。