『T-ポイント』運営のカルチャーコンビニエンスクラブで、謎のデータ活用コンテストが開催される

(写真:アフロ)

 昨日、我らがヤフー(Yahoo!JAPAN)で新社長人事が発表されていました。

 関係各位、お疲れ様でございます。

ヤフー、社長交代を発表。新社長の川邊健太郎氏「データドリブンカンパニー」を目指す(Impress Watch 18/1/24)

 最初は「なぜヤフーの社長にやくみつるが!?」と思ってよく見たら、川邊健太郎さんという釣りマニアの人でした。ヤフーという大船でユーザーを釣りに行くとはなかなか趣の深い人事なのではないかと思いました。益々のご活躍とご発展を心より祈念したいと存じます。

 で、その川邊新体制は「データドリブン」がコンセプトだそうで、そのヤフーの情報連携先は、日本でのポイント大手の『T-ポイント』を率いるカルチャーコンビニエンスクラブ(以下、CCC)です。「T-ポイントカード」を使っていない方でも、カルチャーコンビニエンスクラブはレンタルビデオチェーンの「TSUTAYA(ツタヤ)」の運営会社と聞けばピンと来ることも多いのではないでしょうか。

カルチュア・コンビニエンス・クラブとの情報連携について(ヤフー株式会社 17/4/26)

ヤフーとCCC、Tカード購買履歴とWeb閲覧履歴を相互提供へ(ITpro 14/5/21)

 そのCCCグループでは関連会社のひとつCCCマーケティング社で、このヤフーと連携する「T-カード(T-ポイント、T-ID」会員の購買データ等を利活用する新たな事業やサービスを、一般の社会人や学生などに企画してもらう「DATA DEMOCRACY DAYS」(以下、DDD)を実施するようです。

 特設サイトもできていました。

 すっきりしたデザインで読みやすいですね。

「DATA DEMOCRACY DAYS」(CCC marketing)

 企画募集された中身を見る限り、単純に企業側が膨大なはずの自社データの利活用でネタ切れを起こして、300万円という小額の賞金でも子供たちに夢を見させれば有望な企画案がどんどん出てきて楽しいことの一つもあるのではないかという、若干しょんぼりした内容のようにも見えますが気のせいでしょう。

 今回のDDDでは、取り扱うCCCマーケティング社の各種データは個人情報(個人データ)であるとして、応募者に処理を委託する形で展開しているあたりは、さすがにSuica事件の教訓をしっかり生かしてきたなと感じる部分です。

Suica履歴販売の失策 パーソナルデータ利活用、6つの勘所(1)(日経ビジネス 14/7/23)

 ただ、企画応募者に対しては委託と言っているけど、仮名化した個人情報の処理をDDDに応募された企画内容に沿って委託するというデリケートなところを攻めているのが気になります。学術的な研究ならば厚生労働省のレセプトデータ(NDB)のオンサイトとかありますが、本件DDDは学術研究でもありませんし、100人規模がCCCの提供するオンサイトで一斉に委託されるというシュールな図画です。DDDで取り扱うのが匿名加工情報とも書いていないようで、本人同意なく個人情報を会場にたくさんやってくる第三者のみなさんに委託して大丈夫なのかという感じもしますが、気のせいでしょう。

 委託されたCCマーケティング社のデータが持ち出せず、あくまで分析を行うための委託にすぎないとなりますと、本件DDDのいったいどの辺がDemocracy(民主的)なのかは良く分かりませんが、一番の問題は取り扱えるデータが「T会員6,500万人の購買データ(ID-POSデータ)など」と、対象のアセットも「Tポイント付与・韓玄など」と、要するに掘り起こしされ尽くされた過去データしか参照できなさそうだ、という点でしょうか。もちろん、計画を立案し審査してもらう過程でいろんな分析上のオプションが認められるかもしれませんが、少なくとも募集サイトにはそのような気の利いた文面は一文字も書いてありません。

 教師データをこしらえて人工知能に食わせてテーマに沿ってアウトカムを出すにせよ、代表性のあるデータを作って多変量解析に放り込むにせよ、すでに起きた結果のデータをひっくり返したところでやれることはなかなか限界はあります。おそらくは、それだけのデータを日々確保してきたCCCもヤフーもやれることは全部やったうえで、これ以上何か具体的なモノが静的なデータ環境からは出てこないか、設定され解決したいイシューについて調べようにも「T会員の購買データなど」だけが膨大にあっても解は得られないのではないか、と感じます。担当者の「既存データから有望な情報が社内で掘り起こせるようなら外部へ企画募集などしたりせんわ」という心の叫びが聞こえてきそうですが、気のせいでしょう。

 上記の厚生労働省のNDBを使った学術研究は、有病者に対する治験と処方からその有病者の推移をコーホート的に継続して分析できます。それに対し、今回のDDDでは「CCCマーケティングのアセットを活用し、より良い豊かな暮らしにつながるライフスタイルの企画を創出するものあれば自由にテーマを設定できます」とのことで、CCCマーケティング社がハンドルしていないデータを外から持ってきて突き合わせたり、T-IDの属性別に過去の消費行動から紐づけて購買動機を割り出したりといった、確度の高い分析を行うための土台がなかなか作れないのではないかと危惧するわけです。

 また、過去に起きたアクションに対するデータを取り回しても出てくるものは将来に対する仮説であって、結局はどこかでA/Bテストをしたり、消費行動におけるプレファレンスを「T-ポイントで取れないデータ」で検証したりする必要が出ます。劉度の揃った外部情報と連携させたり、特定のT-ID(会員さん)に対してアンケートができたりしない限り、なかなか「T会員の購買データ」から有意なアウトカムは導き出せないのではないかと思案してしまうところです。

 一方、CCC/ヤフー陣営には、御多分に漏れず「Yahoo!リサーチ」が存在し、T-IDと紐づいて営業しています。なぜか裏っかわはマクロミルみたいです。以前株式も持っていたようで、なんか理由があって全部売っちゃったように見受けられますが、まあ気のせいでしょう。

Yahoo!リサーチ

 この辺と併用して、例えば購買データからT-IDを逆引き後、そのT-IDに対してYahoo!リサーチのアンケートパネルが連動していけば、イシューとして取り組めるネタは無尽蔵に広がっていきます。本来は、長期間の生活情報(PLR:パーソナルライフレコード)は必須事項であり、就職や転職・失業、結婚、出産や、子供の年齢に合わせた支出項目の変容というのはデータとして宝物です。しかしながら、そもそもT-ポイントを使って結婚式場を予約しようという消費者は少数であり、年齢や家族構成といったライフステージを正確に把握できる情報を確度高くCCCマーケティングが持っているようにも見えません。一刻も早く傾いた大塚家具の姫のところに行って「購買情報を顧客属性ごと売ってくれ」と土下座しに行くことをお薦めするレベルです。

 それゆえに、CCCが豪語する日本人6,500万人のデータの数が問題なのではなく、正確さと項目が大事なのであって、何を読み解くかが上手く行っていないからCCCマーケティング内でネタ枯れして仕方なくデータ開放して外部にアイデア募集しなければならないという状況に陥っているのではないか、と予想されます。クレジットカード機能つきT-カードの利用者の長期間の生活情報は貴重でしょうが、そこまでロイヤリティの高いホルダーがいるのかは良く分かりません。

 T-ポイントで1円2円貯めながらコンビニで缶コーヒーを買う単価の低い客から読み解けるデータはおそらくすでにすべて掘り尽くしているであろうなかで、より単価とロイヤリティの高い利用者のデータを抽出して長期間の消費動向を探るってことは恐らくしていないのでしょう。未来志向でID紐づけをして動きを見たり、単価の高い客を長期間観察するという仕組みのないままデータを民主化することで「都市部で吉野家で牛丼を食べる人は、概ね電車通勤でした」とか「ロードサイド店の来客者のガソリン消費量は高いです」みたいな素敵な知見ばかりが出てきてしまうのでないかと思うのですが。

 ともあれ、本件CCCマーケティング社の開催するDDDの成功を願ってやみません。我こそは武雄市図書館をデータドリブンで満員にするんだと意気込む人は、ぜひ応募してみると良いと思います。

 個人的に川邊新社長に期待してやまないことは、ファミリーマートで買い物をすると店員さんから「Tカードはお持ちですか?」って聞かれて客が液晶ボタンを押すと床がパカッと開いて店員さんがカリオストロの城の牢獄に滑り落ちていく機能の実装です。

 ぜひ、ご検討ください。