激増する訪日観光客に、日本の「おもてなし」はどこまで法的に対応できるのか

(写真:ロイター/アフロ)

 2020年の東京オリンピック開催に向けての観光PRに加え円安という経済的な理由なども影響しているのでしょうが、このところ海外からの訪日客が年々増加しています。

昨年訪日客、最多2869万人…6年で4.6倍(読売新聞 18/1/13)

政府は20年に訪日客数を4000万人に引き上げる目標を掲げている。石井国交相は会見で、「目標を達成するには幅広い国や地域から旅行客を増加させていくことが必要だ。アジアに加え、欧米豪で訪日需要を掘り起こしたい」と述べた。

 国の後押しもあり今後はさらに訪日客が増える可能性大であります。こういう背景から通訳や翻訳への需要も増加しており、これまでは資格が必要であった通訳案内士についても法律が改正され、無資格で有料ガイドができる枠組みができ、関連ビジネスでも色々と盛り上がっているようです。

HISやエアビー、通訳と訪日客をネットで仲介(日本経済新聞 18/1/5)

4日の改正通訳案内士法の施行を受け、通訳案内士の資格がない人でも有料ガイドができるようになった。商機とみた各社は仲介サイトを設けてプランを増やしたり、研修を開いたりしてガイドの育成や囲い込みに動く。

出典:日本経済新聞

 既存の資格をもった通訳案内士と新しい無資格の通訳ガイドにどのような違いがあるのかについては以下の記事などが参考になります。

通訳案内士法・旅行業法、改正法案が衆院通過(観光経済新聞 17/5/23)

観光庁の田村明比古長官は、名称独占となる通訳案内士の位置づけについて「誰でも有償でのガイド行為が可能になる一方で、通訳案内士は、『わが国の歴史や文化に関する正確な知識を有し、外国人旅行者に満足度の高い案内を行うことができる者』として引き続き重要な役割を担っていく」と説明した。

出典:観光経済新聞

 多くの訪日客がどこまで「わが国の歴史や文化に関する正確な知識」を通訳に求めるのかはよく分かりませんが、手軽に買い物や観光がしたいだけであれば資格の有無よりも料金の安さを求める可能性はそれなりに高そうです。例えば、単に空港とホテルを往復したり、ちょっとした観光地やショッピングの場所へアテンドしてもらう、という程度では、日本の固有文化から最新トレンドまでフォローしているような高額のガイドを用意する必要もなく、普通に日本に暮らしている人でも充分に用が足りる、というわけです。

 また、訪日客の受入側である各事業者からすれば、資格の有無にかかわらず通訳を雇うような経済的余裕は無いというところも少なくありませんが、今はテクノロジーの進化のおかげで機械翻訳・通訳もそこそこ使えるものが増えてきていますから、そういう製品やサービスを利用するというケースも増えていくことと思われます。

50言語対応の通訳デバイス「POCKETALK」--世界で使えるソラコムのSIM搭載モデルも(CNET Japan 17/10/23)

世界50言語以上に対応し、ボタンを押して話しかけると指定した言語に訳して音声で返す。

(中略)

日・英ならばGoogle翻訳、日・中ならば百度(バイドゥ)といったように、クラウド上の最適な翻訳エンジンを選択することで、高い翻訳精度を実現できるとしている。

出典:CNET Japan

 翻訳能力のレベルが知れない素人通訳にお願いするよりも、Googleや百度の機械翻訳のほうがずっと正確ということは十分にあり得るのかもしれないですね。ちなみにソースネクストの通訳デバイスは「自社業務用」や「レンタル事業用」といった形で法人利用にも対応するそうです。

法人のみなさまへ(ソースネクスト)

 ただし、実際にこれらのサービスやデバイスを利用している法人からの評価はあまり高いものではなく、まだまだ開発途上であって、参入の余地が大きく広がっているのかもしれません。

 こうしてみると、今後の日本における訪日客相手の通訳・翻訳業務というのは、無資格な通訳者や海外ネット事業者の提供する機械翻訳に頼るという機会が急増しそうです。翻訳・通訳需要が急増しているのにもかかわらず適切な能力や資格を持つ人材が不足しているという事情があることから致し方ないことなのかもしれませんが、そうした形での翻訳・通訳における誤訳から生じる事故やいさかいなどについては一体誰が責任を負うことになるかは気になるところです。先の記事であったエアビーアンドビーなどの場合は仲介事業者が責任を負うことはこれまでの民泊事故事例などからほとんど期待できませんし、当然のようにそうした通訳を雇ったユーザーと雇われた通訳者の自己責任になるのでしょう。また、ソースネクストの通訳デバイスの場合は同社の製品紹介ページに翻訳精度の保証などについて明示されていないようなので、やはりユーザーの責任ということになるのでしょう。

 従来であっても通訳や翻訳で生じる事故や損害は、最終的にはそうした通訳・翻訳を利用した側の責任であったということになりそうです。通訳や翻訳を依頼する際にその仕事の品質というものを相手の業績や経験量などから推し量ることができたわけですが、これからの時代はそうした通訳・翻訳の品質を担保するための指標みたいなものが分かりにくくなるように思えます。テクノロジーマンセーな考え方であればいまどきの機械翻訳は人間よりも安心という割り切り方もあったりするのでしょうが、言葉の違い=文化の違いから生じるディスコミュニケーションというのはなかなか油断できないものがあるので、ちょっと気になる話だなと思った次第です。

 これと並んで、一時期「シェアリングエコノミー」として持て囃されてきた民泊は、実態が追い付いてきて一時期ほど騒がれなくなってきました。もっとも問題になるのは京都やUSJ付近の大阪、福岡など、観光需要に比べて圧倒的に宿泊施設が不足していて高騰している地域に紛争が集中しているように見られます。また、海外からの民泊がこれを禁止しているマンションなど集合住宅で無断に使われてトラブルになるケースは増えてきており、中国の民泊サイトやAirBnBなど海外の事業者に禁止されているにもかかわらず勝手に自室を提供しようとする行為を止められないという問題へと軸足が移り始めている印象です。

 さらに、現状ではこれらの簡易ガイドの普及と併せて主に中国人による無許可タクシー(白タク)問題が派生しています。これも、海外のアプリが勝手に日本国内のドライバーと利用者を繋いでしまうと、日本のタクシー業に対する規制逃れだけでなく重篤な事故が起きた際の保険の問題を引き起こすため、これはこれで騒ぎになりそうです。

 もはやそのような利用実態が横行している中で、旅館業法やタクシーなどの既存の法律がミスマッチになっている現状は覆い切れません。訪日観光客の利便性を考えたら、規制に守られたタクシーでどこまで多言語対応ができるのか、一方で、安全な移動や宿泊についてどれだけ法的な監視ができるのかは未知数です。

 2020年の東京五輪に向けて、というのが合言葉になっていますが、この国の観光や治安をどう考えるべきなのかはいま一度立ち止まって考える必要があるのではないか、と思います。