内閣府・経済産業省参与の齋藤ウィリアム浩幸氏の問題続々、この状況で国家機密は本当に守られるのか

齋藤ウィリアム浩幸さん近影(中央:画像は山本一太議員のTwitterより)

 前回の記事で、私が問題提起したかったことは、彼は本当に「サイバーセキュリティの専門家」なのか、でした。

紺綬褒章、ダボス会議、経産省参与。齋藤ウィリアム浩幸氏の虚像と嘘(Y!ニュース 山本一郎 17/12/8)

 公式のプロフィールや役職を見るならば、齋藤さんは政府が認めたサイバーセキュリティの専門家のはずです。にもかかわらず、彼のセキュリティ関連の話があまりに的を射ていないことが多かったので、疑念を持ち調べてみるといろいろな事実が浮上してきました。2年ほどの調査の結果、その内容が具体的に分かるにつれ「まさか」と何度も息を呑み、私はただただ呆然となりました。

 これらの情報を著者である私が公表すれば、今まで齋藤ウィリアム浩幸氏を重用されてきた方々からの反発で私の方が叩れたり潰される可能性が高いとも思いましたし、調査を進め前回の記事を公開する前から私に関する怪文書が流されたり、この問題から手を引くようにと促す匿名の電話を頂戴するようにもなりました。

 しかし、これらの日本の安全にかかわる重大な要素について「みんな騙されていました」と笑ってもみ消して済むような問題ではないと私は思ったのです。

 齋藤ウィリアム浩幸さんは、現在内閣府や経済産業省の参与です。参与は、国の正式なアドバイザーであり、国家機密に直結しています。それにはサイバーセキュリティも含まれます。そんな重要なポストを数々の問題点が浮かび上がる齋藤さんが率いるとなると、日本社会全体の安全に影響する事案に発展する可能性さえあります。

 今回は、前回に追加して、調査の結果、判明していた事実について追記いたします:

・ 齋藤ウィリアム浩幸さんが自分の会社という「I/O Software」社をマイクロソフト社に売却したという事実は、ない可能性が高い

・ 国会事故調正式な報告書が国会に提出、公開される前に、無断で英文の報告書サマリーを作成し、違法に配布した疑いがある

・ 齋藤ウィリアム浩幸さんはUCLA医学部卒ではない可能性が高い

◆ 齋藤ウィリアム浩幸さんは自社「I/O Software」社をマイクロソフトに売却していなかったのではないか

 齋藤ウィリアム浩幸さんは、著書やベンチャー精神についての講演で、カリフォルニア州での起業体験の大事さを説き、プロフィールにも斎藤さん自身で設立した「I/O Software」社を2004年に取引先であるマイクロソフト社に売却し、相応の富を得て日本にやってきたと説明しています。

 しかしながら、この齋藤ウィリアム浩幸さんの一件について、元マイクロソフト社日本法人の社長、会長を歴任され、現在は慶應義塾大学教授の古川亨さんはFacebook上でこのような発言をされています。

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 公式資料を紐解くと、このI/O Software社がマイクロソフト社とBioAPI(BAPI) 1.1の開発において技術提供し、提携関係にあったことは認められます。

Microsoft and I/O Software Strengthen Industry Adoption of Biometrics(マイクロソフト 00/5/2)

 このBAPIについては斎藤さんが関わったとされるバージョン1.1から、2006年にISOによる世界標準になるBAPI 2.0になるとまったく違うものに置き換えられます。ソフトウェアの知的財産で他社権利物のコードが混ざっているなどして、コードを引き継ぐことができなかったのかもしれませんが、詳細は不明です。バージョン1.1の開発をしたとされる齋藤ウィリアム浩幸さんは、それと前後してI/O Software社からもアメリカの生体・指紋認証からも開発者リストから姿を消し、2004年ごろI/O Software社を退職してドバイで事業を立ち上げ後、日本に来られています。

 そして、齋藤ウィリアム浩幸さんのプロフィールにもある、I/O Software社をマイクロソフト社に売却したという内容についてですが、企業が買収されたというレコードは確認ができません。米マイクロソフト社に直接問い合わせたものの「マイクロソフト社による事業買収はすべてアクワイアリスト(買収済み企業の一覧)に掲載されており、例外はありません。もしもそちらのリストに入っていない場合は少なくとも買収は完了していないとお考えください」と回答をされました。

齋藤ウィリアム浩幸さんオフィシャルの経歴だが、現在は公式サイトから削除されている
齋藤ウィリアム浩幸さんオフィシャルの経歴だが、現在は公式サイトから削除されている

 そのマイクロソフト社のリストを見る限り、現時点で齋藤ウィリアム浩幸さんが「買収された」とするI/O Software社は入っておりません。マイクロソフト社に買収されたとされる2004年だけでなく、すべてのマイクロソフト社の買収歴にI/O Software社は入っていないことになります。ただし、このBAPI 1.0から1.1が開発された2000年から2004年ごろまで、おそらくこのI/O Software社はマイクロソフト社に対して何らかの技術提供を行い、提携関係にあったことは間違いありません。その後、指紋認証などバイオメトリクスは発展していくのですが、その専門家であったはずの齋藤さんは日本へ帰国、通信会社のフォーバル社の技術本部長に転職をするのです。

Microsoft Acquisition History(マイクロソフト)

 これを受けて、現存するI/O Software, CAに直接問い合わせをかけてみたところ、「(株式は)マイクロソフトに譲渡した事実はない。具体的な取引の内容などの取材についてはお話ができない」と回答をされています。同じくI/O Software社に齋藤ウィリアム浩幸さんについても問い合わせをしましたが、回答では「過去の関わりはあったようだが、当時を知るマネージャーがおらず質問には返答できない」とのことでした。

 少なくとも、外形的には齋藤ウィリアム浩幸さんのいう「2004年に自社をマイクロソフトに売って、大金ができたので日本に来た」という事実関係は確認できませんでした。

 

◆ 国会事故調の調査報告書提出前に無断で英文サマリーが作成され出回る

 先に問題となった東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(NAIIC 以下、国会事故調)の最高技術責任者(CTO)を齋藤ウィリアム浩幸さんが無断で自称していたと見られる問題は前回の記事で指摘しました。国会が指名した正規の役職ではなく個別の任命も行ってないにも関わらず、原子力発電やエネルギー政策などに知見のない齋藤さんが最高技術責任者を自称することは問題ではないでしょうか?

国会提出前の「国会事故調英文報告書サマリー」と齋藤さんに発行されていた入館パス
国会提出前の「国会事故調英文報告書サマリー」と齋藤さんに発行されていた入館パス

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書

The official report of Executive summary The Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission

 これに加えて、この国会事故調の報告書について、国会での最終報告書が提出された2012年7月5日よりも前の5月中旬、齋藤ウィリアム浩幸さんがこの報告書の取りまとめ作業中の文書を不正に持ち出し、これを英文サマリーとして11ページの文書にまとめ直した上で、報告書の作成者を「齋藤ウィリアム浩幸」として彼のクライアントや関係者に配布した疑いがもたれています。

 もちろん、正規版の報告書は日本語と同様に英訳され一般公開されていますが、これらは委員会の最終的な手続きを経て衆議院・参議院両院に対して提出されるものであって、提出・公開されるまでは国家機密に類する文書であることは間違いありません。

 なお、国会事故調の正式な英文報告書は製本されておらず、現物はウェブで一般公開されているpdfになります。後日、不審に思ったアメリカの保守系シンクタンクの研究員が、当時の国会事故調に対し日本語で「齋藤ウィリアム浩幸氏署名の英文報告書が国会に提出された国会事故調の報告書と比べて調査報告のポイントが異なり、事故発生の技術的説明もおかしいのではないか」と指摘しています。これへの国会事故調の返答は「その英文報告書は正規の内容ではなく、サイトに掲載している記事を参照して欲しい」というものだったと筆者の取材に対し、証言しています。

 では、この齋藤ウィリアム浩幸さんが作成した署名付き英文報告書とはどういうものだったのでしょうか。

 当時の旧民主党野田政権では内閣官房内に国家戦略会議が設置されました。内閣府特命担当大臣の古川元久衆議院議員のもと、齋藤ウィリアム浩幸さんは国会事故調と掛け持ちをする形で国家戦略会議の『繁栄のフロンティア分科会』の一員として会議に4回参加しています。

国家戦略会議 繁栄のフロンティア分科会

 事情を知るコンサルタント会社の役員によると、齋藤ウィリアム浩幸さんが私的に作成した英文報告書は12年5月下旬、この古川元久議員の主催している政策勉強会で約20名の参加者に対して10ページほどのホチキス留で配布されたと筆者の取材に対し証言しています。

 その際に、このコンサルタント会社の役員は「齋藤ウィリアム浩幸さんは自身の手でこれらの国会事故調の調査をまとめたと説明され、話を聞いたときは国会事故調もこのような優秀な人物が事故原因の究明のために大変頑張っておられるのだと深く感銘を受けました」と当時を振り返っています。ただし、この未発表である報告書を齋藤さんが配布したことについて、古川元久さんは「不適切かもしれない」とその席では指摘していたと、コンサルタント会社の役員は筆者の取材に対し回答しています。この点では、古川元久さんに瑕疵はないようにも見えます。

 複数の関係者によると、齋藤ウィリアム浩幸さんはこの「繁栄のフロンティア分科会」など国家戦略会議の委員複数に個人的な連絡を入れ、国会事故調の劣悪な調査環境について前置きし「半年で国会に報告書が作成完了できるよう努力している」とした上で「調査途上だが私的にまとめた報告書に目を通して欲しい」と依頼していました。議員会館内や溜池山王のホテル内で英文報告書を手渡ししたとされています。もちろん、これらの英文報告書は述べた通り国会に提出・公開される前の国家機密状態の情報がほとんどであることは言うまでもありません。

 また、この複数の関係者の話を総合すると、自由民主党、民主党、公明党の各党議員が集まる超党派の会合が行われた際に齋藤ウィリアム浩幸さんが現れたといいます。この英文報告書の現物を手に齋藤ウィリアム浩幸さんは「現在国会事故調の調査が大詰めを迎えており、不幸な事故を繰り返し起こさないために日本社会の決意が必要である」などと短いスピーチをしたうえで、この英文報告書に齋藤さん自筆サインをしてある文書を、関係者に手配りで配布をしたとされています。

 これらの問題の資料は、国会への報告書提出より前の12年5月から6月上旬にかけて、旧民主党、自民党議員の勉強会や駐日米国大使館の会合などでの参加者、少なくとも約50名程度に配布されたのに加え、海外のコンサルタント会社を経由してそのクライアントなどにも広く共有されたと見られます。

 懸案となるのはこのコンサルタント会社のクライアントにはアメリカの大手会計事務所の関係者やヘッジファンドのパートナー職だけでなく、アメリカ政府から貿易停止を通達された某国通信会社の別動隊と目される通信サービス会社やアプリ制作会社の経営陣が含まれていることです。

 本件に対し、資料を受け取ったとされる企業の関係者に直接取材を試みたところ「確かにそのような資料を受け取ったのは事実だが、日本の国家機密やそれに準じる内容であるとは承知していなかった」としたうえで「あの報告書は齋藤さんが取りまとめたものだと聞かされていたので、信じていました」と説明しています。

◆ 齋藤ウィリアム浩幸さんの「UCLA医学部卒」プロフィールの謎

 齋藤ウィリアム浩幸さんはBBCのインタビュー中やご著書、イベントなどで、「斎藤ウィリアム浩幸さん(44)が医師免許を取得しながら医師になるのをやめた時、両親は2 年間口をきいてくれなかったという」と、齋藤さんに医師免許が交付されている前提で、元医師としてのエピソードを繰り返し言及されています。

 全米での医師登録がなされておらず、医師免許を返上した人物のリストにも無いことを前回記事で提示したところ、関係者を通じて齋藤ウィリアム浩幸さんは「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部を卒業後、医師免許を取らずにベンチャー起業家になるためインターンを受けず医師にはならなかった」とコメントし、また「(BBCの)インタビュー記事は本意ではないことが間違って伝わった」と釈明をされたようです。

 一方、2010年の文部科学省の「今後の高校教育の在り方に関するヒアリング」において、齋藤ウィリアム浩幸さんは「親の夢としては私に医学部に行って医者になってほしいということで、私はアメリカ西海岸のUCLAという大学の医学部に一応入ったんですね」などとして、ここでもUCLA医学部卒という学歴を披露されています。オフィシャルの経歴にもUCLA医学部卒と明記されています。

今後の高校教育の在り方に関するヒアリング(第1回)齋藤ウィリアム浩幸氏(株式会社インテカー代表取締役社長)意見発表

 しかしながら、UCLA医学部の卒業生の方に在籍したかどうか(卒業ではなく、入学・在籍の履歴)の確認をUCLA Alumni(大学事務局)にお願いしたところ、次のような回答でありました。

「UCLA Alumni Directory(在籍者に関するリスト)に齋藤ウィリアム浩幸様は出て来ませんでした」

 また、日本人のUCLA卒業生にも在籍者名簿の検索をお願いしましたが、齋藤ウィリアム浩幸さんの名前では入学・在籍の経緯は無さそうです。幾つか可能な名前のパターンでも検索したものの、入学・在籍の確認が取れません。何より、齋藤さんが卒業したであろう年代のUCLA医学部卒業生(現役の医師でアメリカ在住)にも話を聞きましたが、同窓生だけでなく前後の年の卒業生も卒業後20年を超えていまなお交流があり、誰に聞いても齋藤ウィリアム浩幸という人物がクラスメートや他キャンパスの学生交流でも会ったことが無いし、齋藤さんの写真をお送りしてもこの人物と会ったことは無いと回答しています。

 少なくとも、齋藤ウィリアム浩幸さんはそれが本名である限り、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部の入学、在籍、卒業の経緯はどうやら無い可能性が高くなっています。

(※ なお、卒業生であるかどうかを確認するにあたり、個人情報の取扱の厳しいアメリカの大学の大多数では、一般の問い合せについては応じてもらえません。本件は、カリフォルニア大学に在籍した方にご協力いただき、大学・学部によっての所定の手続きを経て開示してもらったものです。有料の検索サービスもありますが、こちらは本人が「掲載を望まない」と検索にかからないことがあるため、引用を控えました)

 こうなると、齋藤ウィリアム浩幸さんのプロフィールはもとより、世界経済フォーラム(ダボス会議などを開催)や各種イベント、メディアなどで配られる経歴にも問題がある可能性があります。これらには、経歴に「UCLA医学部卒」と明記された齋藤ウィリアム浩幸さんの略歴書が配られているからです。

 そればかりか、日本航空の社外執行役員就任の際に発表された経歴をはじめ、各種財団の理事・評議員職や、パロアルトネットワークス株式会社の副会長、ファーストリテイリング(ユニクロ)、博報堂DYホールディングスのアドバイザーなどを歴任していることからも、これらの企業や組織は齋藤ウィリアム浩幸さんの自称する学歴も前提として承知して就任をさせていたことになります。

 なぜ公式のプロフィールに「UCLA医学部卒」と書き、上場企業の執行役員就任にあたっての経歴書にも盛り込まれたのかが良く分かりません。

日本航空 当社役員体制の一部変更について(日本航空 17/5/29)

日本航空の社外執行役員就任のIR資料に「UCLA医学部入学」「卒業」が
日本航空の社外執行役員就任のIR資料に「UCLA医学部入学」「卒業」が

 これら、一連の話が事実であるとするならば、齋藤ウィリアム浩幸さんはUCLA医学部卒やマイクロソフトに自社を売却したという、事実関係の確認できない経歴で多くの企業と契約をしたことになります。また、内閣府本府や経済産業省の参与となり、与党自民党の公式ネット番組や政策勉強会で世耕弘成経産大臣や平井卓也さん、山本一太さんなど大物政治家から持ち上げられている状況も問題があると言わざるを得ません。

 同時に国会事故調に委員長・黒川清さんの教え子であると触れ込み、「存在しない最高技術責任者」という肩書を名乗っていました。さらに、この職責上で知り得た国家機密を「自分で取りまとめた報告書である」として無断で国内海外に流出させたことになります。

 日本航空の執行役員のような上場企業要職だけでなく内閣府・経済産業省参与にまで登りつめ、そして、いまなお国家の重要な情報にアクセスできる立場におられます。こうした嫌疑が実であるとするならば、こんな状態で日本のサイバーセキュリティだけでなく、国民を守るための国家機密の安全が守られるのか心の底から不安になります。

 一連の問題について、上記内容や気になっているほかの件を含め、改めて齋藤ウィリアム浩幸さんに質問状をお送りしましたが、本件記事を執筆している13日18時までには回答は得られませんでした。

◆ 「技術の」セキュリティ以外にも、「人の」「心の」セキュリティに問題はないか

 ひとりの国民として何よりも気になる点は、単に齋藤ウィリアム浩幸さんの経歴や来歴に懸念があるという個人の問題だけではありません。外形的な情報を総合しても問題点を認識できるような人物であるにもかかわらず、有力者からの紹介や大物政治家との関わりの深さが見えているゆえに必要なチェックを充分に行うことなく内閣府や経済産業省の参与につけてしまう点は、一定の任命責任が大臣側にあります。

 また、国会事故調の事例でもみられる通り、政府内での立場を利用して得られた国家の機密情報を海外の事業者を含む第三者に提供した疑いが持たれます。どのような情報が齋藤ウィリアム浩幸さんに提供されたのか、その情報は本当に政府外に流出しなかったか調査し検証する必要はあるでしょう。

 そして、日本航空の社会執行役員など各種民間企業や財団法人の要職やアドバイザーを歴任するにあたっては、これらの内閣府・経済産業省の参与という高いポジションで信用させ、優秀な人物なのだと思わせて本人が売り込んだ可能性も捨て切れません。

 経済産業大臣・世耕弘成さんの記者会見にもある通り、2020年の東京オリンピックに向けて日本が世界に比べて立ち遅れているとされるサイバーセキュリティ強化のための官民連携の座組に齋藤ウィリアム浩幸さんが起用されるということは、技術面だけでなく関わる人物に対するセキュリティも重要視されるべきであると考えます。

 やはり、なぜこのような人物が有力な政治家の信用を勝ち得ることができたのか、他に同様の問題が起きていないのか、しっかりとした検証がなされ、然るべき対応が早期に行われることを強く希望しています。