正規の手続きを踏んだ内部告発よりもネットで書いたり週刊誌にたれ込むほうが問題解決される現代社会

(写真:ロイター/アフロ)

 このところ国内大手製造企業で続く品質データの改ざん発覚事件ですが、いよいよ21世紀のネット社会真っ直中らしい展開があり、なんとも感慨深いものがあります。

東レに不正を公表させたネット書き込み「迫真の中身」(毎日新聞 17/11/30)

東レの100%子会社の製品検査データ改ざんは、インターネット掲示板の匿名の書き込みが引き金になって公表された。

(中略)

この書き込みを見た株主とみられる人物から、東レのホームページのフォームを通じて事実を確認する問い合わせがあった。問い合わせは複数あった。「ウワサとして広まってはまずい」(日覚=にっかく=昭広社長)との判断で、28日の緊急記者会見につながった。

出典:毎日新聞

 チラシの裏もしくは便所の落書き同然という扱いだったはずのネット匿名掲示板に書き込まれたネタがそのまま大企業自ら社内不正を認める理由になったということなんですが、一方でなんとも残酷な現実として、今の日本社会において組織内で個人が堂々と不正を告発するのはリスクが高すぎるばかりか告発してもあまり実効性がないという状況もあったりするわけです。

東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃(ダイヤモンド・オンライン 17/12/7)

そういう人を守るということでつくられたはずの公益通報者制度も中身がスカスカで、国が調査をおこなったところ、半数近くの通報者が退職に追い込まれたり、嫌がらせなどを受けていることが分かっている。

出典:ダイヤモンド・オンライン

 わざわざ社会的生命が絶たれるような危険を冒してまでして公的な制度を利用して内部告発するよりも、匿名掲示板に書き込む方が適切な対応が実現されるということであれば、残念ですが今後はおそらく数々のデマも含めて企業や団体など組織の不正をリークするような書き込みが増えていくことでしょう。情報の精度を考えれば本当の不正告発がそれを上回る数のデマに淘汰されてしまう可能性もあって、こうした流れが好ましいとはまったく思えませんが、それしか出来ない今の日本社会ということなのかもしれません。

 考えようによっては、怪しい匿名掲示板などに書き込まれた与太かもしれない不正告発を素直に認めるだけの度量が企業側にあるのであれば、社員が自ら社内告発をしても同じように受け入れられた可能性はあるのかもしれませんが、こればかりは結果論でしかありませんから、個人がどうなるか分からないようなリスクを冒す必要はないというのが処世術としては正しいということになるのでしょうか。

 しかしながら、昨今の2ちゃんねるやTwitterなどでの訴訟の情況を見ますと、これらの不正告発絡みの書き込みに対しても、日米の裁判所に発信者情報の開示請求を申し立てるとあっさり認められる例が非常に増えているのも気になります。最近では風評管理の対策会社経由での開示件数が三桁を超えただけでなく、いわゆる「パカ弁」と呼ばれるネットでの情報暴露や誹謗中傷を専門に扱う弁護士もかなり洗練されてきました。個人情報が割れにくいツールを使っても、基本的にはプロバイダが情報を残している期間のうちに仮処分を行うことができれば、少なくとも証拠保全とともに書き込み者の特定につなげることは容易です。このようなネットでの情報流通に詳しくない会社が、ネットに詳しくない法務によりネットに詳しくない役員と相談し、ネットに詳しくない弁護士事務所と対応を協議した結果として「ネットに告発を書かれたから事実関係を公表する」という東レのような事態に陥る、というのも実態としてあるのでしょう。

 なんともスッキリしない話ではありますが、ネットの力が社会にとってそれなりに有益な事態をもたらした事例と前向きにとらえるべきなのかもしれないですね。間違いないのは、これまで密かに組織ぐるみでいろいろと不正を行ってきた人達にとっては改めて「ここは怖いインターネッツですね」と思い知るような時代になったということのようです。もちろん、企業側が然るべき対応を取り適切な専門家や弁護士の助力を得れば、告発した人の個人情報が割られる可能性が高いことは大前提ですので、人を呪わば穴二つであることには変わりありません。

 そして、ネットで告発者が次々と割られる状況になると、再び週刊文春や週刊新潮にタレコミが殺到して脆弱な城壁で囲まれている大企業に砲撃が見舞われることになりますので、やはり、時代は繰り返すということなのでしょうか。