「ニコニコ動画」の低迷はサービス競争以前の、単なる体力負けなのではないか

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

遅れ馳せながら、昨日のドワンゴ川上量生会長によるニコニコ動画のサービス発表を観ました。確かにユーザーからすると愛着があるほど「これじゃない」感じが見えてしまい、非常に惨憺たる酷評をされてしまった、というのが実態のようです。

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 別にドワンゴや角川グループの実態や、業務全体でのニコニコ動画の位置づけがどうなっているのかは分からないので、川上さんが発表した開発スケジュールの妥当性や、開発コストの見積もりその他が適正であるかなどは判断できません。わざわざ発表してその内容がこれであった以上、きちんと吟味して結果としてこういう内容であったということであれば、仕方がないのかなとも思います。

 しかしながら、コンテンツの製作委員会を手がけたり、広告をニコニコ動画に掲載していた当方からすれば、ニコニコ動画は客層が限定され、ものすごくニッチな人たち相手にしかリーチしないメディアであるという認識はこの三年近く続いていたのも事実です。それでも熱量の高いニコニコ視聴者はいるし、アニメやサブカルは相変わらず強いセグメントを持っているので、大負けはしないまでもグライダーのように滑空しながらコンテンツ業界関連メディアの一角として頑張り続けるのかな、と思っていました。

 ただ、告知媒体としてのニコニコ動画は、コンセプトの陳腐化とともに話題の波及効果としてはSNS広告に負け、アニメファンやゲーム好きにはAbemaTVやYoutube、Twitchなど他の動画サービスに負けるという傾向が顕著になってきました。とりわけ、一番広告宣伝費を投下するメディアタイアップもののスマートフォン向けアプリの広告では、ニコニコ向けの企画数が激減し、これといった営業をしてこないYoutubeにすら負ける、という状況ですから、日本の動画絡みのカルチャーを牽引してきたニコニコ動画が劣勢を跳ね返せていない現状が明らかなのではないかと感じます。

 決定的なのは、ユーザーが求める画質の向上や読み込みスピードの改善といった動画サイトのサービスとして基本とされるパラメータが相対的に弱くなっても、これへの改善に踏み込めないことです。同様に、スマートフォン向けの動画配信のニコニコ動画のシェアは取り返しがつかないほど低迷しているのが実情です。ここをテコ入れしなければ、顧客の信頼を回復することは困難で、また熱量が下がるニコニコ動画に広告を出そう、タイアップ企画を持ち込もうというIPホルダーも少なくなります。

 たぶん、川上さんもその周辺もそこがニコニコ動画の弱さであることは分かっていると思います。ただ、いみじくも川上さんが「(AbemaTVやYoutubeなど競合サービスと)違うところで勝負をする」と語るのも、そこで競争しても底なし沼であり、ニコニコ動画の独自性を確保できるような新機能で差別化を図り生き残るしか無いのではないか、と考えたのかと思います。

 逆に言えば、AbemaTVを手がけるサイバーエージェントの藤田晋社長が「動画コンテンツ確保のために年間200億円の赤字を覚悟する」とぶち上げ、元SMAP三人組を連れてきて番組を展開する、というような多くの一般層にウケる企画はニコニコ動画では予算的にも顧客属性的にもできません。一方、Youtubeもその他動画サイトも動画サイトのサービス単体での投資額は1,000億円レベルのオーダーであり、10年前のサブスクリプションサービスの水準では第一人者であったニコニコ動画もワールドワイドの競争では日本ドメスティックの中堅事業者にすぎません。後発のビリビリ動画を含め中華系のコンテンツファンドが少ない審査期間でアニメなどのコンテンツ調達にポンと2億円出すような世界から完全にニコニコ動画は取り残されました。川上さんは「違うところで勝負をする」と言いますが、実際には調達できる資金の規模が少なすぎて、自前の開発に頼らざるを得ず、サービス開始の遅延を繰り返しながら二線級のサービスでも維持しながら独自色のある事業展開をしていく以外に方法がなくなっているのではないかと思います。

 結局「若年層は新しいサービスへの感受性が高く(他の動画サービスに)奪われやすい層だが、サービスの新規性によって獲得もしやすい」という発言を川上さんが繰り返すのは、そもそも大手動画サイトだったYoutubeから動画をパクってきてコメントの弾幕を載せるといったコンセプトが若者層のサービス感受性に強く響いて熱狂的な支持を受け、日本随一の動画サイトとして成功してきたという『成功体験』によるものだということが分かります。つまりは、目新しく、若者が面白いと思うような新しいサービスを提供すればユーザーは帰ってくる、と川上さんは確信しているのかもしれません。実際には単なるラッキーヒットであり、二匹目のドジョウはいなかった、という話を10年ごしでやってるうちに日本のコンテンツ業界の第一人者と祭り上げられ、世の中のスマホシフトや動画サイトの戦略的投資の重要さに気づかないままジリ貧になって、いまようやく気づいて焦っているだけなのでしょうか。

 ニコニコ動画の苦境は、単純に調達できる資金量と、目指すサービスを構想できるビジョナリーの不足という実に重い状況であり、海外製SNSに駆逐された国産SNS「mixi」の衰退にも近い残念さはあります。川上さんの周辺にいる人は、少なくとも角川グループやドワンゴの投資余力ではワールドワイドに勝ち抜く動画サイトを構築できる資金が用意できないことを把握して、早めにニコニコ動画をサービス子会社として分離独立させて外部資本を入れるなどの施策を打たせるべきですが、事業の退潮で人が去っていっているのか川上さんだけが目立っているのは決してよろしくない状況なのではないかとすら思います。

 コンテンツの調達をCGMに依存しながらも、CGMの中核であるユーザーがスマホやライブ配信に移行している旬を逃してしまったニコニコ動画が、他の資本力のある動画大手と互角の品質で動画サイトをやっていけるためには超えなければいけないハードルが多くあります。こういうワールドワイドで戦うべき日本企業がドメから出られずグローバルプレイヤーに敗退していくのを見るのは戦後から観て何度目でしょうか。シャープや東芝など日本を代表する製造業が世界レベルのイノベーションを実現する資金調達ができず埋没したように、ニコニコ動画がそういう「戦後日本によくある風景」の一部にならないよう、mixiの思い出を胸に抱き生暖かく見守っていきたいと思います。