SNSを利用した国際政治プロパガンダの行方

(写真:アフロ)

 このところ、FacebookやTwitter、Googleなどで展開された政治宣伝広告問題の報道がじわじわと過熱しております。ネット企業が誹謗中傷からフェイクニュースまであらゆる問題の責任においてデジタルミレニアム著作権法(DMCA)によって守られ、積極的な対処を行わなくても被害を受けた側が申告をするまで原則放置の姿勢で良いという状況が更に悪化したからだと見るべき部分はあります。

 ただ、一連の政治宣伝広告の本当の問題は「政治宣伝広告が有権者に対して有効だったから」に他なりません。我が日本でも、ネットでの工作に限らずメディアの報道でいまだに「従軍慰安婦は実在したのか、実在したとしたらどのぐらいで、どういう悲惨さだったのか」という事実認定のレベルで轟々たる議論が続いているのが現状です。

 今回はFACEBOOKがロシアからの情報介入によってアメリカ人、とりわけ経済的に取り残された白人アメリカ人の政治志向、投票行動に大きく影響したのではないか、という指摘が重ねてあるのが実情です。

FBはトランプとロシアにどう使われたか?(日経ビジネス 17/11/13)

昨年の米大統領選で、ロシア政府につながりのあるメディアや機関がFBで広告やコンテンツを投稿、米国の民意をゆがめたと批判されている。

出典:日経ビジネス

 一国の元首を決める選挙において他国のプロパガンダ広告がSNS上で広く流布したことが選挙結果に影響を与えた可能性があるということでして、まあこれは大きな騒ぎにならざるを得ません。また、直接の選挙結果のみならず、アメリカ国内の世論が大きく分断され、オンサイト・プロパガンダとかデジタルゲリマンダーなどの呼称でおどろおどろしく論じられ始めているのが実態です。

 さらに、こうしたSNS上でのプロパガンダ工作は英国のEU離脱投票でも行われていたという話が出てきました。

ロシアのフェイクアカウント、英のEU離脱投票への介入ツイートも判明(新聞紙学的 17/11/11)

英国の欧州連合(EU)離脱に関する国民投票(ブレグジット)をめぐっても、これらのフェイクアカウントが介入を試みていたことが明らかになった。

(中略)

工作の規模はどこまで広がっているのか。英議会も実態調査を進め、ツイッターなどに資料の提出を求めている。

出典:新聞紙学的

 はたしてどこまで真相が明らかになるのかはまったく予想がつきませんが、米国や英国などの政治状況を脅かす手法として、こうしたSNSを使った情報工作は現実に兵器などを使って物理的な破壊工作を行うよりもずっと手軽でなおかつ比較的低予算に実行可能であるあたりなかなか恐ろしいものがあります。

 また、構造的に「単純にみんなが信じたくなるようなガセネタを大量に流しさえすれば良い」というものではなく、同意され、フレンド間でシェアされ、連帯をし、長い時間その問題について考えて感情が揺さぶられるところまでいってしまうというのがミソです。

米フェイスブック、国内1000万人がロシア関連広告を閲覧と発表(ロイター 17/10/3)

フェイスブックは先月、ロシア関連とみられる偽アカウントが10万ドルの広告料金を支払い米国向けに政治意見を発信していたことが分かった

(中略)

ロシア関連広告の99%は1件当たりに支払われた料金が1000ドルを下回ったという。

出典:ロイター

 米国ではリアルイベントも実施していたようなのでもう少し予算は注ぎ込まれたようですが、それでも本物のミサイルを1発撃ち込むよりはずっと安く済んでいるのではないでしょうか。

ロシア関連のFacebookアカウント、対立を招くイベントを支援していた(CNET Japan 17/10/31)

ロシアが運用するFacebookアカウントに関わる人物らが米国で、対立を招く話題をめぐるイベントの主催を支援したり、資金を援助したりしていたという。

出典:CNET Japan

 さらに、スペインで揉めているカタルーニャ州独立運動絡みでもロシアがSNSなどを通じて介入していた疑いがあるという報が入ってきました。そもそもこの手の分断工作はロシアがもっとも得意とするもので、ロシアのなにがしかの国家戦略による緻密な計算で介入したというよりは、岩場に隙間が空いていたのでつい手を突っ込んでみたくなったというレベルのものかも知れず、この手の話題にはロシアが関与していて何も珍しくないと感じてしまうのが実情です。

カタルーニャ州独立投票、ロシアが介入=スペイン政府(ロイター 17/11/14)

デコスペダル国防相は「(介入の)多くは、ロシアの領土から行われたものだ。こうした公共・民間のグループは欧州の不安定化を狙っている」と発言。

ダスティス外相も「証拠はある」とし、ロシアにこの問題を通知したことを明らかにした。

出典:ロイター

 「カタルーニャ州の独立支持派は、ロシアの介入を否定している」とのことで、こうしたスペイン側の見解がどこまで本当なのかは外からは判断しかねるところですが、こうしたSNSを利用したプロパガンダ工作のような事態は今後世界的に増えていく可能性は考えられます。とりわけ、利用者属性が公開されているFACEBOOKやTwitterなどのツール類は、常に利用者の動向や書き込みが可視化され、多くのユーザーが反応する書き込みだと判断されるとニュースサイトなどが取り上げて輻輳し、さらにGoogleが検索エンジンでクロールして拡散するというSNS独自の拡散プロセスが介在します。つまり、一定の話題になるようにFACEBOOKやTwitterで拡散できる仕組みさえ用意できれば、あとはそういうニュースに敏感な属性を持つ個人を如何に多くリスト化しておけば良いかを考えるだけだとも言えるわけです。確かにロシアがやりたがりそうな情報戦のようにも見えます。

 しかし、一方で米大統領選や英国のEC離脱国民投票においてロシアの介入などはあり得ないと断言するデータ分析会社もあります。

トランプを勝利させた「謎のビッグデータ企業」CEOの激白(Forbes JAPAN/Yahoo!ニュース 17/11/15)

ロシアが大統領選をハイジャックしたという考えは実に馬鹿げている。ロシアが我々に匹敵するテクノロジーと知見をたった数か月で構築できるはずがない

出典:Forbes JAPAN/Yahoo!ニュース

 このデータ分析会社はこれまで関わった選挙で無敗の記録を持つと豪語し、その実力で「米大統領選や、ブレグジットを選択した英国民投票で大きな役割を果たした」そうでして、ある意味ではロシアよりも恐ろしい存在なのかもしれません。なにせ同社は「データを使って聴衆の行動を変えることができる」とも公言しています。

 どこまで真に受けるべきなのか判断に困るところですが、いずれにしてもネットの世論を操作することで世界の流れが変わる可能性のある時代が到来しつつあるということなのでしょうか。

 ネット世論ということでは、国政とはちょっと趣が異なりますがTwitter規制というニュアンスの話が我が国の政府からも出たりする昨今です。

「Twitter規制も検討の対象になるだろうと思う」――座間事件で菅官房長官(Engadget日本版 17/11/10)

 単に規制すれば事が済む話ではないと思いますが、たとえば今後憲法改正にまつわる国民投票などが実際に行われることになるとすれば、当然ながらネット上での議論なども過熱することでしょう。そうした状況に乗じて何者かが政治的プロパガンダをネット上に流布させて国情を不安定な状態に陥れようと画策する可能性は否定できませんし、政府としては先に挙げたような優秀なデータ分析会社を起用することで世論操作を試みるという可能性も否定できません。

Twitterの犯罪対策を検証、何ができて何ができなかったのか(日経ITpro 浅川直輝 17/11/24)

 日経コンピュータの浅川直輝さんの記事では、児童ポルノや未成年売春などの書き込みに対して「実質的なペナルティなし」に運用できるTwitterが野放しになって悪用された結果、犯罪収益に転用される恐れのある性的な児童略取や違法物売買の温床になりかねないという実態も論考されています。日本人が国内事業者で出会い系サイトやサービスを運営する場合は、非常に厳しい警察庁の指導下にあるにもかかわらず、告知媒体としてのTwitterが優良であればあるほど犯罪に巻き込まれる件数が増えていくという状況は認知していかざるをえないでしょう。

 これらの問題は、Twitterが良いか悪いかは別としても取りも直さず「SNSの重要なプラットフォーム機能を海外の主要事業者に握られてしまっているので、日本国内でどんなに対策を打っても無意味」になる恐れがあるばかりか、日本人の行動やモノの考え方などの情報が海外事業者に流出していってしまい、勝手に解析されて今後トランプ政権のロシア介入のような政治宣伝広告の餌食に日本が晒されることも絵空事ではない、という事実も突きつけます。

 日本では細々とフェイクニュース対策やヘイトスピーチ問題が取り上げられて地道な努力をしている状況ですが、大きな枠組みにおいては日本人の情報を海外に握られてしまっては簡単に左右させられかねない危機に直面している可能性さえもあります。これはメディア産業固有の問題というよりは、グローバルなネット戦略や情報管理政策で日本が立ち遅れていることに理由があるので、FACEBOOKやTwitterが善か悪かというような単純な話ではもはやないというのが実情ではないでしょうか。

 なんとも後味の悪いSF話が現実となりそうな不安感を覚えてしまう今日この頃ですが、第一次世界大戦前夜みたいな話にならないといいなとかなり本気で願ってしまう状況です。