人工知能に感情分析を任せる社会は健全なのでしょうか

(提供:アフロ)

 私達人間は常に感情に支配される存在ですが、人工知能(AI)を使って、表情からその人の感情を分析しようという研究が進められているそうです。

 「来るべき日が来たな」という感じもしないでもありませんが、興味深い報道が立て続けに来ているのが印象的です。

AIで日銀黒田総裁の表情解析 金融政策変更前に「怒り」増大(ITmedia 17/10/23)

日銀総裁の記者会見での表情をMicrosoftのAIで解析した結果、大きな金融政策変更を行う前には「怒り」「嫌悪」の割合が増大していた――こんな内容の論文が公開された。

出典:ITmedia

 野村証券と米Microsoftの関係者による研究だそうですが、なかなか不気味なのはこの研究成果から「表情解析に基づく情報が金融政策の先行きを考える上で有用な材料となり得ることを示唆している」と考察しているところでして、穿った見方をすると、経済界に影響のある人物の表情をAIで分析することで、本人が言葉にしない感情を推測して今後の動向を占おうという意図があるように解釈できます。論文の抄録を見る限り、相応の再現性も確保されているものである以上、あまり冗談のレベルで済ませて良い類のものではないようにも見えます。

 あくまでもAIによる深読みなので、この分析の精度を高めて実用化したとしても法的なことには抵触しないということなのでしょう。「有力者は表情を出すな」というわけにもいかず、日銀のように具体的な政策会合の結果がどうなりそうかとか、サプライズの有る無しとか、強気なのか弱気なのかといったところが日銀トップの表情から読み解けるのであれば、それはそれで重要な情報です。

 もし、AIでヒトの感情の動きをほぼ完璧に推し量ることが可能になるとすれば、世間における各種の取引や交渉の場において色々と応用されることはまず間違いないでしょう。

 感情表現というものは文化が異なればそのあり方もかなり変わってくるものですし、中には表情を自在にあやつれる能力を持つ人もいます。最近はあまり見なくなりましたが、竹中直人さんは笑いながら怒る人というネタが達者でしたが、ああいう演技についてまでAIがそのウラの本当の感情を読み取ることができるのかどうかというと、課題はそれなりにありそうです。実際、表情を読み取ることを謳うAIの精度はまだ悲しいほど低く、同じ人物の表情であっても往々にして読み間違えるレベルであって、限界があるのではないかという論考も出ているようですから、とりあえずはいまの日銀対応ができるぐらいのものでしかないのかもしれません。

 しかし、感情をAIで読み取るという能力はそれなりに期待されているようで、他にもこんな開発が進められているようです。

複数の人の感情読み取るロボ発売 接客や話し相手に(日本経済新聞 17/10/23)

ユニボは顔認証機能を持ち、人工知能(AI)を使って日常会話などから、複数の利用者ごとに感情まで読み取って、学習する。ホテルのロビーや金融機関の窓口、医療・介護施設などでの用途を見込む。

出典:日本経済新聞

 人の気持ちを読み取ってそれをサービスに活かすというのは、一見いい話のようにも見えますが、その気持ちの読み取り方が浅かったり間違っていたりすると、かえって相手の気分を損なうことも十分にあり得ます。なかなかむつかしいところです。つまらない気持ちの行き違いみたいなものがロボットを相手にして生じてイライラしてしまうのであれば、いっそのこと感情など一切入らないビジネスライクで冷静な対応をしてもらうほうが気持ち良いという結果になりそうな気もしないではありません。

 往々にして日本社会では相手の気持ちを忖度したり、過剰に「お客様は神様」的なサービスが求められがちですが、そうした人の感情を推し量るのがむつかしいのでそこをAIで補おうという考え方は、はたして健全なものなのでしょうか。なんでも人工知能に任せておけばどうにかなるという方向で考えているとすると、もしかしたら社会自体が相当に病んでいるのではないかと不安になるものがあります。

 人間同士でも相手の気持ちを分かり合うのはそれなりに人としての経験やセンスが大いに問われるものですが、AIでならできるだろうというのは、まさにAIに神を求めるような行為なのかもしれません。

「人工知能で神を」 元Googleエンジニアが宗教団体を創立(ハフポスト 17/1013)

 AIも使いようだとは思うのですが、そこに神を求めるような考え方はそもそもが間違っているしセンスが欠けているような気がします。

人工知能「アドビ先生」を使った“未来のPhotoshop”がすごかった 音声操作も可能に(ITmedia 17/10/19)

「AI(人工知能)のことを人間のかわりだと思っている人がいる。でも、それは違う。“先生”は、必要なときに使い、いらないときは使わない。人間のクリエイティブとインテリエリジェンスを引き出すためのものだ」

出典:ITmedia

 人工知能にも、得意なものと不得意なものがあります。先日のNHKの人工知能番組で「炎上」したように、別に人工知能が何かを判断してくれるわけではないという前提に立って、道具として人工知能の使える面をしっかり使いながら人類社会をより便利なものにしていく、というぐらいの発想でいたほうが、いまの段階では健全だと思うのですが。