大熱戦『衆議院選挙2017』、大荒れ選挙戦の見どころ

(写真:ロイター/アフロ)

 大型台風の上陸が目前に迫った今回の衆議院選挙2017、期日前投票が概ね有権者の間で浸透したこともあって、過去最高の期日前投票者数となったことで投開票日当日の落ち込みを見事にカバー、最終的に53.83%ということで、ひょっとしたら過去最低の投票率になってしまうのではないかと見られていた件については杞憂で終わったようです。危なかった。

 今回は主に東京、千葉、神奈川、山梨の各小選挙区と比例東京ブロックと南関東ブロックの推移を見ておったのですが、全体の流れは実にダイナミックでした。細やかな数字については追って記事にするとしても、非常に特徴的な推移であったように見受けられます。

 東京都知事・小池百合子さんの「希望の党」の挑戦から民進党代表・前原誠司さんの乾坤一擲、大博打の希望の党への合流、そこから「排除」された民進党左派各議員が立憲民主党や無所属に転出し、希望の党への声望が急速にしぼむ一方、急ごしらえの中、勢いで反自民票、現状批判票を取り込み、希望の党、維新の会、共産党などが一緒に埋没するという結論となりました。

 今回、特に見ていきたいと思っているのが「有権者の考える選挙で求めている争点」と「永田町の論理で話された各種政策」との落差です。情報収集の経路や質問事項・文章、選択肢の細やかな項目は異なるでしょうが、概ね有権者の考えている争点は「年金・社会保障」と「医療・介護」がワンツーであって、追って「経済・雇用」と「景気対策」といった上位に国民の暮らしぶりに直結する内容が来ます。次いで「出生対策・教育・子育て支援」や「国家財政・消費税」「安全保障」といったものが並ぶのですが、今回の選挙で与党自民党は「この国を、守り抜く。」という安全保障というか北朝鮮のミサイルを念頭に置いた選挙スローガンを策定。対抗の希望の党は公式サイトからノークリックで政策やスローガンが分からない、読めないという斬新な選挙広報を採用しました。立憲民主党は左派政党としてオーソドックスな政策パッケージを提案するなかで、なぜか国民の関心事からはすでに遠い原発問題を掲げておられます。

 組織力で選挙戦を戦う公明党、共産党はいずれも無難な表現を採用しており、政党の主張においては政策が大事だと言われる割に、テレポリティクスにネット対策が組み合わさって、ワンフレーズ化、分かりやすさ優先の選挙が各政党で主眼に置かれていることが分かります。また、同じく国民の間ではほとんど話題に出ることのない「憲法改正」は政界では与党再編も辞さないぐらいの大問題になっていて、これもまた政治の論点と有権者の論点とで大きな差が出ているようにも思います。メディアの側も途中で憲法改正が有権者からの反響が薄いことに気づいたのか、あまり強く打ち出さなくなってきた印象があります。

 有権者に個別の政策を問いかけ政党に対して支持を求めるよりも、分かりやすさや勢いで有権者にアピールしながら票を確保していくほうが、公示から13日間という短期決戦で票を確保していくには最適な選挙戦術なのでしょう。それまでに、政党として、あるいは顔となる議員のイメージを貫徹させたり、浸透させることでオプションが増えるという意味合いもあるかもしれません。

 そういう追い風があれば、言い方は悪いですが古い酒でも飲まれることになります。相手が弱いというのもありますが、東京1区の海江田万里さんも東京18区の菅直人さんも、いままであれだけ苦戦してきたにもかかわらず通ってしまいます。逆に言えば、穏健な無党派層はそれだけ雰囲気で票を投じているということであって、雰囲気作りに失敗すると我が世の春を謳歌し急造の政党でも政権交代目指すぞとかいうピークを迎えていた小池百合子さんの希望の党はあっという間に凋落し、同じく排除された側であるはずの枝野幸男さんの立憲民主党は三倍増も視野に入る選挙戦ができてしまうことになります。

 「政治の争いはメディア対応がすべてだ」というのは、たぶん事実だと思うんですよ。とりわけ、今回のようにテレビ番組での上げ下げが如実に数字に反映する選挙が当たり前になってくると、そういう追い風づくりを考えながらやっていく一方、有権者が本来必要と考えている政策に関する論争はかなりおざなりになっていきます。もちろん、個別の議論では政策を訴える局面はあったと思いますが、では街頭演説で、メディアでの取り上げられ方で、具体的な政策の内容について皆さんのご記憶の中にどれだけあるのか、という話になります。

 加えて、メディアでの扱われ方が空中戦とするならば、本当の政治家の自力は街頭演説や商店街・駅前などでの有権者との握手、声掛けなど、地上戦の地道な努力が必要になります。何よりも、投票に対する傾向については議員との接触回数が綺麗な正相関で継続的な得票に結びつくことはすでに分かっています。簡単に言えば、駅前で議員と握手して「あら、ポスターやテレビで見るよりもいい男ね」となってくれる確率が上がるほうが大事だということでもあります。ドブ板を踏んだ数だけ、駅前で声を枯らした分だけ、手が真赤になるほど握手をした分だけ、政治家は有権者に信頼されて、メディアの逆風にも負けない地力のある政治家へと成長していきます。

 そういう陣取り合戦の中で、選挙分析をやるにあたり情勢調査は支持団体の有無、投票所ごとの得票傾向、開票する順番は誰の地盤から結果として出てくるのかを細かく判断して情報を作っていきます。今回も次の選挙も国会議員の定数が削減されたり移動するたび、区割り変更が政治家の得票傾向に大きな影響を及ぼします。道路一本隔てた向こうの有権者は自分の票になりません。しかし、支援してくれる市議町議区議と肩を並べて選挙戦を戦い、支援団体からのバックアップを受けてポスターを貼り、近所の学生ボランティアさんを集めたりワゴンで移動したり、そういう活動を支えてくれるのは結局は資金と支援団体をどう取り付けるかであり、地方議員との連携がどこまでうまく取れるかで決まる部分があります。結局は、順調でも逆境でも無難に勝てる議員というのはそういう足腰を持っているからこそ大物であり、20時1分でゼロ打ち当選できる人材であって、自分の出る選挙区だけでなく政党の顔として新人や若い議員を支え、中長期を見据えた政策を担える人材になっていくということでしょう。

 翻って、民進党のままであったほうが議席を確保できたのではないか、という議論はあります。これはもう「たられば」の話ではありますが、近い将来、この辺の分析が進んで、本当の意味で英断をした前原誠司さんの意義も浮沈も見えてくるのではないかと思います。個人的には、動こうにも動けない、弱いバラバラの野党と、右から左までいる第二自民党のような民進党とで織りなす閉塞した状況が安倍晋三さんの「低支持率なのに選挙では支持される」という状況を打破しようとしたのは高く評価されるべきと考えます。そこで、小池百合子さんが排除などと言わず、政策で真の同志となれる人と手を組んでやっていくとしたうえで、将来の合流も含んで民進党左派は無所属でというアプローチであれば、立憲民主党は設立されず、今回のような希望の党への逆風も立憲民主党への追い風も無かったのではないか、とすら感じるわけですね。

 これは以前から言われていることですが、反自民票というのは常に自公の票よりも多いのです。したがって、自民党の戦略は野党の中で政策的に親和性の高いところを取り込むこと、次いで野党を分断して政策の違いにつけ込んで分裂したままにすることとが戦略として大事だったわけですよ。今回の小池・前原野合で、自民党の戦略にどういう変化が起きるのか見ていきたいと思うんですけど、本来国民の生活に直結する社会保障や出生、教育、移民といった問題よりも憲法問題を重視して野合するというのは本当に大丈夫かってのは感じますね。この辺に、安倍政権の不支持率の源があるような気が致します。