通販の「おまけ」にさせられた物流の逆襲と、ZOZOTOWNの「送料自由」に対する懸念

(提供:START TODAY CO., LTD./アフロ)

 ネット通販がここまで国内で拡大したその背景には、購入された商品を送り届けるための流通を担う運輸会社のたゆまぬ事業努力に負うところが大きいのは誰もが認めるところでしょう。さまざまな通販が顧客へのサービスの一環として「送料無料」を打ち出すケースはかねてからあり、安い配送費が消費者の利用への心理的ハードルを下げ、ネットに馴染みのない高齢者層にもネット通販が拡大することで市場全体が広がっていきました。そして、通販事業者同士が厳しい競争に突入することで、結果的に運輸業界へそのツケが一気に押し寄せたような格好となったのは、なんとも皮肉なことです。

“はやくて安い” ネット通販に危機が!? ~宅配サービス・過酷な実態~(NHKクローズアップ現代 17/3/2)

ヤマトホールディングス 芝健一専務執行役員

「ボリュームディスカウント(大口割引)するような、通販事業者の数量が増えてきて、全体として単価が下落傾向にある。

われわれの努力だけで、なんとかしてというところは限界がきている。

出典:NHKクローズアップ現代」

 こうした話は様々な形で報道され、本来はあまりそういうことを気にする必要がないはずのエンドユーザーにも周知されることとなりました。まあ、誰が裏で働いているかを知ることは社会勉強としては良いことかもしれませんし、日頃感謝する機会が少なかった「縁の下」の配送会社の人たちを見るたび、心の中で「ありがとう」という機会も増えました。

 いずれにしても、宅配事業を提供する運輸業界としては「もうこれ以上の負担は無理なので運賃を値上げしますよ」という流れになってきました。当然ですがそうしたコストは最終的にエンドユーザーにまで波及することとなります。

ネット通販 相次ぐ配送料値上げ 広がる消費者へ価格転嫁(毎日新聞 17/9/29)

宅配最大手のヤマトホールディングス(HD)が28日に発表した法人向け運賃値上げなどの影響で、インターネット通販各社の送料値上げが相次いでいる。アスクルは10月から、千趣会は11月からの送料一部値上げを発表。宅配費用の値上げ分を消費者へ価格転嫁する動きが広がってきた。

出典:毎日新聞

 エンドユーザーの立場としては、こうした値上げを仕方ないと受け取るのか、それとも営業努力が足りないけしからんと怒るのかは人それぞれだと思います。ただ、現状では「これ以上はもたない」のは衆知となってきました。あれだけテレビや新聞、その他色々な形で宅配サービスの現場が大変だと知らされたのですから、運賃コストについては必要コストとして大目に見ようじゃないかと考える人は少なくないでしょうし、大変な宅配サービス現場の人に何かの形で還元できれば良いと思うのも人情なのかもしれません。

 で、そうした人情の機微に訴える微妙な商売を考える人も出てきたようです。

ゾゾタウンで「送料自由」を試験的に開始(日本経済新聞 17/10/1)

衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイは1日、配送料を顧客が自由に選べる取り組みを試験的にスタートさせた。顧客は商品の購入代金にかかわらず、無料~3000円まで配送料を自由に選べる。

(中略)

前沢友作社長は同日ツイッターで「自由に価格を決めていただくことで、運ぶ人と受け取る人との間に、気持ちの交換が生まれればすてきだなと思います」とコメントしている。

出典:日本経済新聞

 こんなことをすれば普通の感覚であれば誰もが無料を選ぶような気もするのですが、「運ぶ人と受け取る人との間に、気持ちの交換が生まれればすてきだ」と言われると、高めの送料を払わないといけないように感じてしまうユーザーもいるのかもしれません。家族と夢の世界を楽しみにディズニーランドへ行こうとしたら、駅前で動物介護のボランティアの人が寄付を募っている状況に直面するような感じでして、非常にムズムズするものがあります。

 この送料自由というシステムが一体どういう勘定で動いているのかという素朴な疑問にツッコミを入れた報道もありました。

「送料自由」がバズってる ゾゾタウンの新送料は、配送会社へ還元されるの?(ハフポスト日本版 17/10/2)

同社の広報担当者によると、新設定の送料は「増収を見込んだものではない」という。

(中略)

送料を多めに支払ったということが配送員に伝わればいいのに、という意図のツイートに対して、前澤氏は「考えてみます」と応じた。

(中略)

ハフポスト日本版では、自由設定で支払われた送料が、スタートトゥデイと配送会社との間でどのように分配されるかについて同社広報に問合わせているので、回答があり次第追記する。

出典:ハフポスト日本版

 この時点では広報からの回答が無いため、ユーザーの支払った送料が一体どのように分配されて誰が儲かるのかは不明でしたが、その後別のメディアによる取材で方針が明かされております。

送料自由化のZOZOTOWN、運送会社への支払いは?「上回った金額分は投資へ」(弁護士ドットコムNEWS 17/10/2)

無料を選ぶ人が多ければその分負担が増すことになる。その場合の送料について、「お客さんに設定してもらった送料とヤマト運輸さんに支払う料金とでマイナスが出た場合には、弊社がその運賃収入のマイナス分を支払う」と話した。

(中略)

上回った金額分については、「お客様からいただいたお気持ちを真摯に受け止め、宅配会社様ご協力のもと、今後の物流サービス全般のレベルアップ、サービス向上・改善のための投資とさせていただく予定」だとしており、運送会社に直接還元されるかどうかは不透明だ。

(中略)

前澤氏も自身のツイッターで、「今後の物流サービス拡充のための軍資金として有効利用させていただきます。ありがとうございます」とコメントした。

出典:弁護士ドットコムNEWS

 なるほど、今のところはユーザーがたくさん送料を支払ったからといって、配送現場の人にまでその気持ちが現金として伝わる仕組みでないあたりはかなり残念な感じですね。あくまでも、送料を高めに払ったユーザーは「自分では良いことをした」と自己満足できる気分みたいなものを買う形になるのでしょうか。

 その昔、前澤さんは送料の件でユーザーに向かって暴言をツイートしたために大炎上させた過去もありますが、その炎上劇も実は送料無料施策を導入に向けて仕組まれた上手なPR活動だったのではないかという詮索を呼んだ御仁でもあります。もちろん、悪意なき正直な感情を吐露したら燃えてしまった、というたぐいのものでしょうが。

社長の炎上騒動から僅か10日、「ZOZOTOWN」の方針転換にユーザは驚嘆(livedoor NEWS 12/10/31)

この炎上騒動から僅か10日――、「完全無料化」ニュースが報じられると、ツイッターでは、「これってアノ事件がきっかけだろうか?」「これの宣伝のため社長わざとキレただろw」と勘ぐる声が続出した。

出典:livedoor NEWS

 同氏は人の心に刺さるマーケティング技を繰り出すのが抜群に達者な希代の商売人という印象ですが、今回も諸々綯い交ぜての施策ということなのかもしれません。さすがだなあと感心するところもありますが、願わくば、たくさん送料を支払ったユーザーの心意気がそのまま気持ち良い形で宅配サービス現場の人達にも伝わる仕組みであると良いのになと思う次第です。