朝日新聞「手首を骨折しても本塁打」美談報道と前橋育英の問題の根深さ

(写真:岡沢克郎/アフロ)

 これ、事実だとするならばとんでもないことだと思うんですけど、あまり騒ぎにもならずそのままになってしまっているんですよね。

 で、どうやら事実であって、骨折したまま出場し、実際にホームランを打ったということだそうです。

手首を骨折していても本塁打 前橋育英、信頼応えた4番(朝日新聞 17/8/9)

 「これが高校野球なのだ」と言う人も少なくないようですが、骨折した選手をそのまま起用する監督も問題なら、結果オーライで本塁打を放った本件を美談として報じる朝日新聞もどうかしています。故障して痛みのある選手が10スイングもできない状況で試合に出す精神性もさることながら、「信頼」や「男気」で済ませる根性論でいまなお高校野球を語るとするならば、高野連が目指す教育と修練の場というのはとんでもないブラック体質であると批判されても仕方がないところではないかと感じます。

 スポーツライターで近畿大学非常勤講師の菊池慶剛さんも、オーサーコメントの中で怪我の程度が不明確としつつも明確に懸念を指摘しておられますが、トレーニングやコンディショニングの見地からも「10スイングで痛みが出るような選手を出場させること」に関しては明らかに望ましくないと言えます。

https://news.yahoo.co.jp/profile/author/kikuchiyoshitaka/comments/posts/15023038578003.bbea.17802/

 勝負事であるので、故障した主力選手が「出たい」といえば出してやりたいのは人情としては分かります。ただ、大人としての分別や、管理者に求められていることはしっかりと踏まえて対応をしなければならないことはあるはずです。

 また、故障した選手を強行出場させたことを「良いことである」と報じる姿勢はもう少し考えたほうが良いのは言うまでもなく、ただでさえ時代遅れで野球全体の人気が低迷しかけている現状でこの報じ方、この扱いというのは悩ましく思います。美談として報じる側も故障者を出場させる側もおそらくは「悪気はない」のでしょう。だからこそ、問題が根深いんじゃないのと思うわけです。

 で、このニュースについては高校野球がお好きな方ほど「素晴らしい」とか「感動した」などといった反響を寄せているように見えるのが気になります。いろんな意見がある世界だとは思いますし、オールド体育会系では「俺もそうだった」という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ただ、常識的にはスイングに痛みがある状況で出場を強行させるのは選手にとって危険ですし、後遺症が残る可能性も少なくありません。しかも、故障部位が手首であることを考えると、二度と野球ができなくなるレベルではなく、日常生活に支障をきたすような悪化の仕方も充分に考えられるものです。

 むしろ、この朝日新聞の記事が「症状を盛っている」「感動を呼ぶために大げさに書いた」ことを期待してしまうほどです。ホームランが打てるぐらいですから、実は骨折ではありませんでした、という方がいろんなものが救われるのではないかとすら感じます。

 野球に限らず、いくら大切な試合だからといって、体調が悪いときや故障のあるときに無理をして出場するのは本当にやめましょう。信頼だ気合だ根性だ男気だというのは、大事があってからでは遅いのです。それが選手を預かる管理者(監督)の責任であり、報じる側の倫理だと思うのですが。