フェイクニュース問題こそ、発信する責任者を明らかにするべきではないか

 メディアで発表する人間には品格が必要だと書くと「お前が言うな」と反応されかねない恐れがあるわけですが、そういうことを気にせずに論じるべき問題がいわゆるフェイクニュース問題であります。

 一連の安倍政権批判においてもメディアによる印象操作にまつわる議論が今後出てくるのでしょうが、政治的な問題はセンシティブである分、同じ事象を論評するのに右からと左からではまったく異なった受け取り方になるニュースになるのは自明です。

 今回のテレビ朝日が放送するビキニ環礁でのアメリカ軍核実験の影響に関する番組では、核実験を意図的に実施したら想像以上に被害が広がった事件と、これとは全く性質の異なる東日本大震災時の津波が原因で大変な事故になった福島第一原発事故とをかけあわせ、さらに「フクシマ」というカタカナでこのビキニ環礁事件とフクイチ事故とを連関させるという大変なタイトルを掲載しています。

ザ・スクープスペシャル ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図~(テレビ朝日)

それは恐怖の人体実験だった!南太平洋の楽園で行われた水爆実験に隠された禁断の真相に迫る。そして、63年が過ぎたヒバクの島はフクシマの未来予想図なのか?

 もちろん、放送前からタイトルだけ見て批判するのはおかしいという議論もあるでしょう。一方で、実は2014年にもテレビ朝日は「ビキニ事件『水爆実験 60年目の真実』」として、現地取材を中心とした番組を制作、放送しています。それだけ報道に意味のある重要な事件だと考えているのでしょうが、なぜ今回はわざわざ「フクシマ」で「ヒバク」の未来予想図とまで踏み込んだのか、謎です。良く分かりません。

 もっとも、テレビ朝日の制作関係者たちに話を聞くと「あれは踏み込み過ぎだと個人的には思う」という類の回答ばかりが返ってきます。受け取る側は「こういう切り取り方をするのはテレビ朝日だからだろう」という穿った見方をしがちですが、実際には当たり前のことですが組織は常に一枚岩というわけではなく、表現内容に異論があったり、踏み込み方に反対があったりもするのでしょう。だからこそ、こういう事例の場合は特に、テレビ朝日の番組だからというより、テレビ朝日の誰が制作の責任者としてこういう放送をすることになったのか、という検証が本来できたほうが良いのではないかと思うわけです。

 また、先ごろNHKで「NHKスペシャル『AIに聞いてみたどうすんのよ!?ニッポン』」という番組が放送され、内容のあまりにも惨さに批判が殺到しました。実は私もチラ見しかできていないのですが、番組の骨子となる結論を見る限り、人工知能であれば客観的に物事を判断できるかのような内容に仕上がっていますが、実際にはそんなことはいまの技術ではあり得ないわけです。

NHKスペシャル「AIに聞いてみたどうすんのよ!?ニッポン」

NHKのAI特番が炎上!「AI崇拝」の危険(ダイヤモンドオンライン 17/7/29)

東京大学・坂田一郎教授、京都大学・柴田悠准教授など、様々な研究者のアドバイスを受けながらNHKが独自に開発した「社会問題解決型AI」です。

 当然、この番組で行ったことはデータを蓄積させた後で多変量解析をやった程度の内容でしかないのは結論から見れば良く分かるわけです。グレンジャー因果性も取っておらず、単位根過程を排除しない、いわゆる「みせかけの相関」にハマっているので「健康になりたければ病院を減らせ」などという荒唐無稽な結論を人工知能の見解として発表してしまうわけです。

 この番組が極めて危険なのは、交絡因子という同じ原因かもしれない問題の症状を並行で並べて、あたかも相関関係が深いと誤認してしまうようなことを平気でやってしまう点です。単純にいえば、「満員電車で混雑している」という原因に対し、「男女が同じ車両ですし詰めになっている」から「痴漢が増える」ことと、「混雑しているから車内が暑い」から「空調が間に合わないのでクーラーを強くする」こととを同列に因果関係だと言っているに等しい番組です。その結果、「クーラーが強い」から「痴漢が増える」と誤認して番組中は「痴漢を減らしたけばクーラーを弱めろ」みたいな猛烈な馬鹿内容をさも「最先端の人工知能が最新のデータを分析した結果です」と放送したようなものです。

 そうなると、番組でキーとなる提言にしている「40代一人暮らしが日本を滅ぼす」というテーマは、単にNHKの特定の担当者がそういう問題提起をしたいがために、架空の権威である人工知能が解析したとでっち上げて社会問題の根幹は40代未婚者や離婚者などだと主張したことになります。このやり方が許されるのならば、人工知能に「NHKの受信料は税金と一本化するべき」とも「NHKはネット放送でも受信料を徴収するべき」とも言わせられることになります。

 この番組の提言が、本当に東京大学坂田一郎教授や京都大学柴田悠准教授の然るべき監修のもとで作られた人工知能によって結論を出されたのだとするならば、むしろ番組の作り手が責任もって説明するべき状況になるのではないかとさえ思います。明らかに存在しない人工知能の解釈性を使って社会的に政策論を主張したことになり、フェイクニュース以外の何物でもなくなります。

 ビキニ環礁での核実験による事故にせよ、発展途上の人工知能をイタコ代わりにした件にせよ、そこにあるのは「福島原発事故と関連付けて現状の原子力発電に関する問題に一石を投じたい」とか「独身問題や高齢者医療問題について鋭い見解を述べたい」などという制作者側の意図であろうと思います。

 しかしながら、ビキニ環礁と福島は放射性物質が出たことしか関係がなく、敢えて「フクシマ」での「ヒバク」の未来予想図と言うなら福島県民に対するレイプに他なりません。また、人工知能にどうデータを食わせるとラブホテルの件数が女性の活躍に資する因果関係が導かれるのかさっぱり分かりません。もしも周辺にきちんとした専門家がいるならば、そのような番組はフェイクニュースになりかねないので控えるべきだとアドバイスする必要があります。

 テレビ朝日にせよNHKにせよ、必ず社内に「そのような番組作りをしては駄目だ」という人も少なくない数いたと思うのです。だからこそ、フェイクニュースの問題についてはもっと真摯に捉えるだけでなく、責任ある制作者は誰なのか対外的にきちんと公表していくべきであろうと考えます。

 やはりある程度は外から内容が検証できる状況にしてこそ、報道だと思うのですが。