米国がネット中立性という建前論をやめるようですが我が国への影響はどうなんでしょうか

米FCCがネット中立性に関する新規制案を承認したとのこと(写真:ロイター/アフロ)

 山本一郎です。アメリカ政治の常ではありますが、米国のネット行政がオバマ政権からトランプ政権へと移行したことにより大きく様変わりしつつあるようです。

個人情報保護巡る米プロバイダー規制撤廃、大統領が法案に署名(ロイター 17/4/4)

オバマ前政権下で連邦通信委員会(FCC)が昨年10月に承認したこの規制は、米グーグルなどインターネット検索エンジンやフェイスブック(FB.O)のようなインターネット交流サイト(SNS)よりも厳しい個人情報保護をプロバイダーに対して求めていた。

具体的には、利用者の位置情報や金融に関する情報、健康データ、ウェブサイトの閲覧履歴などを広告やマーケティングに利用する際に、許可を得ることを義務付けていた。

出典:ロイター

 これまで米国では「ネット中立性」という思想に基づき、言い方を変えると建前論をもってして、ISPのビジネス行為について厳しい規制を敷いてきたわけですが、それが今回から無くなるということになります。

 興味深いのは、今回の規制撤廃についてFCC委員長自らが「これらのプライバシー規則は欠陥のあるものだった。インターネットを利用する消費者ではなく、一部の優遇された企業に有利なものだった」という発言をしている点です。規制が無くなる今後、ISPはユーザーの個人情報を自由に売買することが可能になるわけですが、そうした状況がインターネットを利用する消費者にとってプラスになるという解釈になるのでしょうか。

 このあたりを忖度してみるに、ユーザーの個人情報が売買されることでその対価としてサービス利用料金が今よりも割安になったりするのであれば、それは消費者にとって結果的に良いことだと判断できるのかもしれません。ちなみに米国のISP大手は今のところユーザーの個人情報を売ることはないと言っているようですが、将来的にどうなるのかは神のみぞ知るといったところでしょうか。

米大手ISPが次々とプライバシー保護を表明--規制撤廃の可決を受け(CNET Japan 17/4/3)

 ネット中立性については以下の解説が比較的丁寧で分かりやすく示されていますので、興味のある方はリンク先をご覧いただければと思います。

ネットワーク中立性問題について(日本ネットワークインフォメーションセンター)

 上記で詳しく説明されていることですが、米国においてネット中立性が殊更に議論の対象となった理由は、特定少数のISPによる市場支配力が大きすぎたという背景があるわけです。そして今後日本ではモバイルからのネット接続が主となる状況において、米国で過去に問題となったような特定の通信会社による支配力が巨大になりすぎる可能性を考える必要が改めて生まれてくるのかもしれません。

 今後の課題として大きく注目されるのは記事後半に出てくる「ゼロレーティング」でして、すでに国内MVNO各社が顧客獲得施策として続々投入している現状があります。

月間のデータ利用量制限を持つISP (典型的には携帯電話事業者)が、特定のコンテンツやアプリケーションを指定し、当該サービスに関するトラフィックをデータ利用量カウントから除外するものです。これにより、利用者はそのサービスについてはデータ量を気にすることなく思うままに利用できます。

(中略)

ネット中立性の観点から問題にされているのは、ゼロレーティングの対象となるコンテンツやアプリケーションの選択が携帯電話事業者によって恣意的に行われると、不公平な競争になるのではないかという点です。

(中略)

ゼロレーティングの是非、特にネット中立性の観点からの適不適は、それを実施している携帯電話事業者に一定の市場支配力があるか否か、つまり、市場支配力を利用して消費者にとって害を成すサービスの提供を行うか否かによって決定されるべきです。

出典:日本ネットワークインフォメーションセンター

 今のところゼロレーティングによって特定の通信会社に支配力が偏るといった流れは見えません。ただし、懸念すべき材料は山ほどあるというのが現実です。このところ大手キャリアがサブブランド的な形でMVNO事業を立ち上げつつ資本にものをいわせて大量の広告投下で顧客獲得に走っている姿を見ると、なにがしかの影響がそのうち出てきてもおかしくないと感じさせるものはあります。

 実質0円禁止などで頑なにキャリアの動きに干渉的だった総務省が、MVNO各社のゼロレーティング施策や大手キャリアのサブブランド戦略には今のところ黙認しているように見えるのは、先のあれでやり過ぎたという反省があったりするのでしょうか。総務省の中の人もキャリアのぼやきも聞こえてきますが、正直どこを着地点にして競争戦略を消費者のために実現しようとしているのか、いまひとつよく見えないなというのが実情です。それとも、何らか口実を見つけてそろそろ横やりを入れる準備をしているのか。いずれにしても米国における事実上のネット中立性放棄が今後日本を含めた他国のネット行政に影響を与えるのかどうかは気になるところです。