認知症700万人時代と、認知症患者の免許返納問題

山本一郎です。日本の認知症については、2012年にすでに462万人います。そして、認知症患者の未来推計が2025年700万人前後、2030年840万人前後とかなり悲観的な数字になっていて、しかも実際にそうなりそうな推移のため、認知症対策の在り方についてはかなり考えなければならない局面になってきました。

日経ビジネスでも拙稿でそのあたりの話は触れましたし、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)でもかなり厳しい現実についての話が出てきています。そのぐらい、認知症と暮らす社会になるのは一般的になっていくでしょう。

「認知症700万人時代」にどう立ち向かうべきか 避けられない認知症「破壊的増加」、今こそ抜本的対策を(日経ビジネスオンライン 17/3/17)

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)

「2025年には認知症が700万人を超える」ことはもちろん衝撃的なのですが、それはすなわち認知症を家族に持つ世帯が激増するという意味でもあります。核家族化が進んでいても郷里に住む両親のいずれかが認知症を患ったり、自立不能な状態になったときに放置できない状況になることはあり得ますし、いまのところ認知症患者の面倒を見るのは61.6%(2013年)なので、認知症を患っている人はだいたい6割が配偶者や子供夫婦などの手を借りながら生活していることになります。

医療機関で診療を受けている認知症患者の概ねの入院期間は一か月強とみられているので、基本的には認知症患者は社会に出て家庭や地域が受け止めることが前提となってます。ということは、2030年には300万人以上増える認知症患者を社会がどこかで支えなければならない、ということになるわけです。

そんな中で先日、認知症の当事者団体が自動車免許の返納問題について、困惑するような記者発表をしていました。その発端は、改正道路交通法の議論に伴って、警察庁が取りまとめた高齢の認知症ドライバーに関する統計において、認知症が進行し運転能力に問題があると見受けられる場合、免許の自主返納を求めることを強く打ち出したことが背景になっているようです。

免許保有の高齢者「認知症の恐れ」5万人超(佐賀新聞LiVE 17/3/13)

認知症なら、運転免許は即返納ですか - 当事者団体「議論深め、現実的な方策を」(医療介護CBニュース Yahoo!ニュース 17/3/14)

改正道路交通法では、免許更新の際などに行われる認知機能検査で当該ドライバーに認知症の疑いがあると判定された75歳以上の運転者全員に対して、臨時適性検査の受検や主治医などによる診断書の提出が義務付けられることになっています。

で、その認知機能検査というのは非常に簡便なもので、ご一読いただければ「これをパスできないような人に運転免許証を持たせてはいけないだろう」という風に感じるものであります。

「認知機能検査進行要領」

これから検査を始めます。

私の声が聞こえますか。

聞こえたら手を挙げてください。

これから、いくつかの絵を見せますので、こちらを見ておいてください。

一度に4つの絵を見せます。それが何度か続きます。

後で、何の絵があったかを全て、答えていただきます。

よく覚えてください。

これから、たくさん数字が書かれた表が出ますので、私が指示をした数字に斜線を引いてもらいます。

例えば、「1と4」に斜線を引いてくださいと言ったときは、『表の中から「1と4」の数字を見つけて1行目から』と例示のように順番に、見つけただけ斜線を引いてください。

どれもドライバーとして以前にこれができなかったら日常生活がヤバいレベルの出題内容であることがお分かりいただけるかと思います。

もっとも、認知症の早期診断は確実ではなく、例えばアルツハイマー型認知症の臨床診断基準の感度は81%、特異度は7割程度なので、いわゆる普通の認知機能検査においては誤診や見落としが出てしまう可能性があります。それゆえに、本当に認知症患者かどうか、あるいはドライビング能力があるかどうかを判定する場合は、日本老年精神医学会の主張するようにすべての75歳以上のドライバーに対して免許更新の際に実車によるテストをやるのが望ましいと本来は言えます。

また、認知症患者の運転免許返納についてよく出る話として、自動車に乗らなければならない地域で暮らしている認知症患者から車を取り上げるのは良いのかという主張があります。気持ちはわかるんですが、認知症患者と疑われる人が自爆事故を起こすだけでも大変なことなのに、だれかを巻き込んで犠牲者でも出そうものなら認知症患者や犠牲者だけでなく家族も巻き込んで大変なことになってしまいます。理想としては運転させてあげたいところですが、やはり認知症状が出て運転能力に疑問が持たれる状況であるならば自主返納を求める施策を取ることはやむなしではないかと思います。

また、現在でこそ75歳以上に診断を義務付けとされていますが、実際には65歳以下に発生する若年性認知症があり、およそ2,000人に1人、平均の発症年齢は51歳から53歳ぐらいとみられます。進行が早いケースとそうでないケース様々ですが、一般的な老人性の認知症状よりも早く認知能力に問題を起こしてしまうことは多くあります。やはり、治療の一環としてなるだけ早期に病状の進行を食い止める処置を行うのはもちろんのこと、精神科から明らかに認知症上に問題のある患者に対して運転の有無を聞き、日ごろ運転を行うようであれば何らか連携を取って免許の返納がスムーズに行えるようにしたほうが良いのではないかとさえ思います。

地方で生活するうえで車が必要だから認知に問題があっても車を運転してよいのだ、とはなかなかならず、むしろいままでこの問題を放置してきたことのほうが重大だったと感じます。高齢者が交通事故を起こしてしまう、あるいは巻き込まれる件数をどのようにして減らしていくかを考えるうえで、認知症状が疑われる高齢者の免許返納に関しては仕方がないものだとせざるを得ません。