堀江貴文さんら発起人の「予防医療普及協会」が煽る「胃がんの原因の99%はピロリ菌」の是非

山本一郎です。先日来、医療統計や公衆衛生方面で話題沸騰していた「予防医療普及協会」ネタですが、結局のところ「胃がんの原因の99%がピロリ菌という宣伝はおそらく不適切」という結論で落ち着きそうです。

ことの顛末は、すでに朽木誠一郎さんがヤフーニュース個人で書いておられましたが、大筋ではこの通りではないかと思います。

「胃がんの原因は99%ピロリ菌」は誤り? 約1400万円を集めた団体に問い合わせてみた(ヤフーニュース個人 朽木誠一郎 17/3/8)

議論の経緯を3行で書くとこうなります。

・ピロリ菌が単独で胃がんの原因になっている確率は80%ほどなのは確定

・胃がんを防ぐためにピロリ菌除菌が効果的なのは事実だが、99%はさすがにガセネタ

・過剰に危険を煽るクラウドファンディングや学会認定医に送客するのはアウトでは

ただでさえ、医療情報の流通はなるだけ適切かつ正確にという話題が盛り上がっていたところでこの有様ですので、発起人や問題に詳しい関係者の一部から予防医療に関する広報の在り方については内部で議論になっていたそうです。

また、一連の予防医療の問題については、皆さんご存知堀江貴文さんが広告塔の役割を果たしておられます。YouTubeで医師との対談や、書籍の出版までされているわけですから、監修されている医師の指導のもと相応に正しい情報に基づいて広報されているものだと考えるのが自然です。

胃がんの原因は99%ピロリ菌だった。 皆で検査をして予防しよう。(Webarchive READYFOR 予防医療普及協会 16/4/18)

この予防医療普及協会は、クラウドファンディング募集ページには「胃がんの原因は99%ピロリ菌だった」としたうえで「日本で年間5万人近く死亡する胃がん。韓国では国の予防医療が成功」と煽る見出しが掲載され、堀江貴文さんが医師と映るピンナップまで載っています。

実際に、胃がんの単独の原因としてのピロリ菌キャリアが問題であることは間違いなく、啓蒙として「ピロリ菌除菌の大事さを喧伝する」まではとても意義のある重要なことであることは言うまでもありません。もちろん、他の疾病予防とのコストと効果、死亡率、QOLなどの見合いはありますが、ピロリ菌が胃がんに関係しているのは事実ですから、啓蒙することはよろしいのではないでしょうか。

しかしながら、この「胃がんの原因の99%がピロリ菌」の根拠は、先日3月6日、突然釈明のようなページが掲載されていまして、要は胃がん患者を診察してみたら99%以上がピロリ菌キャリアだったという話にすぎません。

「胃がんの原因は99%ピロリ菌」という表現について(予防医療普及協会 17/3/6)

胃がんを検診してみたら「ピロリ菌が陰性の胃がんは1%以下であった」ことが、「胃がんの原因の“99%“がピロリ菌であること」の証明にはなりません。疫学を考える上での人口寄与リスク割合と相対リスクを評価に盛り込んでいない、という指摘が正しいことになります。つまり、「ピロリ菌陽性の胃がん患者のすべてがピロリ菌が原因で胃がんになったとは限らない」という当たり前の事実を見落としているか、宣伝か何らかの理由のために過大にリスクを見積もっているかのいずれかでしょう。

日本人向けの治験でいえば、NATROMさん指摘の「1990年から2004年までの研究に基づけば日本人の胃がんのうち、(511例中478例がCagA抗ピロリ菌抗体を持つ事例を根拠にするならば)ピロリ菌が原因である割合はおおよそ75%~90%ぐらいであったと推定される」ということで間違いなさそうです。WHOの指摘もおおむね一致しています。

WHO報告 胃がんの8割がピロリ菌 | ニュース | 公明党(公明新聞 14/10/1)

もちろん、これだけでも充分ピロリ菌を除菌することが胃がんリスクの低減に大きく寄与することは間違いないのです。その意味では、予防医療普及協会の主張も決して無駄ではありません。であるならば、予防医療普及協会が抗弁するような99%にこだわる必要はそもそも無いのではないでしょうか。

なぜか頑なに「99%はピロリ菌が原因だった」と書いている公式サイト。
なぜか頑なに「99%はピロリ菌が原因だった」と書いている公式サイト。

しかも、前掲の朽木誠一郎さんの指摘後にも、予防医療普及協会はホームページ上でいまなお「胃がんの99%はピロリ菌が原因だった」と掲載しています。他にも予防医療普及協会が提唱している大腸がん早期発見のための「毎月うんちで9割予防」活動までほぼ似たカラクリで展開しています。「予防医療の重要性を呼びかける、医師団と各分野のスペシャリストが参画」と銘打っているのであれば、疫学を語るうえで初歩的な人口寄与リスクの算定ができない人の集団とはとても思えません。これらの活動に本当に意義を感じているのであればなおのこと「告知されている内容が本当に事実か」について、関係者各位が胸に手を当てて特定の人物や組織のビジネスや宣伝のダシに使われていないか考える必要があるのではないかと感じます。

最後に、これらの予防医療普及協会のピロリ菌除菌については、ガイダンスがしっかりしているので好印象ではあるのですが、なぜか関連リンクで一般社団法人日本ヘリコバクター学会の認定医コーナーに飛びます。もちろん、ヘリコバクター(ピロリ)感染に関する専門家のための学会ですから、それ自体は問題ありません。

ただ、ピロリ菌除菌は公的保険が適応しませんので、全額自己負担になります。この手の予防医療は本来国が政策として行うべきだという主張はもっともなのですが、現状では、検査からピロリ菌陽性と分かり一般的な二次除菌療法を実施するまで(潰瘍が見つからないけどキャリアだった場合)は、17,800円から19,800円ほどの費用が自費でかかります。一般的には人口10万人に対し、男性80.4人、女性29.5人が胃がん患者であり、発症例は50代から男女ともに急激に伸びていきます。逆に言えば、現在低リスク群である20代から40代に早いうちから啓蒙するのは大事でも、本来の予防医学的に言うならばピロリ菌キャリア検査と同時にピロリ菌の感染経路に陰性の人たちを曝露させないことも重要になります。

公益財団法人がん研究振興財団

これらの発症確率が低いであろう30代40代のうちから、ピロリ菌キャリアであるかどうかを確認するための4,000円を払わせることよりも「胃がんの原因の99%がピロリ菌」と喧伝する前にピロリ菌にはどのようにして感染するかのほうが大事です。「韓国旅行をしたり、韓国産の食品を生食しない」とか「井戸水は飲まない」などの啓蒙のほうが、金をかけて認定医に自費治療を促したり検査キットを胃がんリスクの低い若い人たちに薦めるよりも公衆衛生上良い可能性だって考えられます。

このような前提条件をすべて飛ばして「胃がんの原因の99%がピロリ菌」と煽ったうえで検査キットを売り、ヘリオバクター学会認定医のところに自費治療の送客をするのは、単に予防医療の啓蒙というよりは単なる営業に過ぎないのではないか、という指摘をされてしまうのも仕方がないことではないかと感じます。

つまりは、ピロリ菌感染による胃がんというのは、韓国から日本にかけての風土病の一種だというバックグラウンドを含めて啓蒙するほうが、ただ闇雲に「胃がんの原因はピロリ菌だから除菌しましょう」よりも有効じゃないかとか、他の予防するべき疾患とリスクを提示することも大事ではないかと思うわけですね。逆に言えば、厚生労働省も疫学統計についてはかなりきちんと分かっているから優先順位がワクチン接種ほどには高くないのだ、ということは理解してよいのではないかと感じました。