APAホテル「南京大虐殺否定本」の中国炎上と、言論の自由

南京事件式典の様子(写真:ロイター/アフロ)

山本一郎です。大浴場が好きです。

ところで先日1月17日、APAホテルの客室において、南京大虐殺を否定する内容の書籍が自由に読める状態で置かれていたとのネット投稿が中国で注目を集め、炎上状態になっておりました。一連の問題を受けてもAPAホテル側は公式サイトで謝罪を行うことなく、また本の撤去などはしない、という対応を取り、これはこれで騒ぎになっています。

APAホテル公式 客室書籍について

何ぶん、その問題となる書籍の執筆者がAPAホテル代表の元谷外志雄(もとや・としお)さん(73)で、モノも『理論近現代史学』というシリーズ本であって、各種の問題の火種となった田母神俊雄さんと近しく、また安倍晋三の後援会「安晋会」の副会長という立場でもあります。

ある意味で安倍政権の一面を象徴するような民間人・経営者であるため、あっさり外交問題に発展しそうな勢いでして、中国外務省も報道官の華春瑩さんまで出てきてわざわざコメントをするという事態に発展してしまいました。

【歴史戦】アパホテルを中国外務省が批判 客室の書籍「南京大虐殺」を否定(産経ニュース 17/1/18)

華氏は「強制連行された慰安婦と南京大虐殺は、国際社会が認める歴史的事実であり、確実な証拠が多くある」と主張した。

ただでさえ韓国国内の民情激化に伴って慰安婦少女像問題が揮発性高くなっているところで本件問題が起きて、寝た子が全員起床するような形になって微妙なところではあります。

私自身は、南京大虐殺の問題については、政府の公式見解である「日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」を支持するもので、APAホテル代表の元谷さんが主張するような「南京大虐殺は無かった」という議論に賛同しません。

気になるのは、確かにAPAホテル側の主張通り民主主義国家である日本では「言論の自由」を認めていて、多様な言論を保障してはいるんだけど、政府見解や歴史的事実を充分に織り込むことなく誤解を受ける可能性のある書籍を商売と結び付けて批判を受け、結果として日本全体の国際的威信に傷が付く形になることの是非です。単純に、成功したホテル経営者が個人の意見を個人の資産で喧伝するならともかく、多数の宿泊者がいる自分のビジネスで展開したら、そのような主義主張に賛同しない人たちの目に留まり物議を醸すことは当然に考えられることです。

逆に言えば「よくいままで炎上してなかったな」というレベルなのかもしれませんが、話がここまで広がった以上、南京大虐殺はなかったというのは日本人の共通した見解とは必ずしも言えない、一部の人の意見なのだ、と火消しする必要は出てくるかもしれません。一方で、述べた通りAPAホテル代表・元谷さんは、現在の首相安倍晋三さんの後援会副会長というポジションであって、言論の自由以上に配慮するべきものがそこにはあったはずだと思うわけです。

APAホテル公式の声明の中には「事実に基づいて本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています」とありますが、最近でも清水潔さんがテレビの調査報道をまとめた書籍を上梓され、国内資料や証言だけでも南京事件の事実関係は相応の確度で確認できるものであって、元谷さんの主張は容易に退けられるべきものであるとは考えます。

『「南京事件」を調査せよ』清水 潔| 単行本- 文藝春秋BOOKS

それもあって、まあ起きちゃったことは仕方がないし、言論の自由はあるんだろうけど、ホテルに聖書代わりのつもりでアレ本を置いたり、首相後援会の要職にある人が慎みなく微妙な主義主張をすると、結局日本人全体がカップリングされて「日本はやはり誠実に戦争責任を受け止めていないのではないか」と言いがかりをつけられかねないので困ったもんだな、と思うわけであります。

なお、おかきで著名な我らが播磨屋のトラックは先日も元気に溜池山王を走ってました。

いろんな意味で頑張ってますね。

うっかりググるとSAN値が削られる諸刃の剣
うっかりググるとSAN値が削られる諸刃の剣

世の中にはいろんな人がいて、いろんなことを言っていいとは思うんですけどね。