「首相夫人はバックドア」安倍昭恵女史の懸念と「AO義塾」の後始末

「赤絨毯」のうえで、未来の指導者をイメージさせる高校生たちがほほ笑む(サイトより

山本一郎です。牛乳を飲むとバックドアが全開になります。

ところで、2020年に大学入試改革の一環で大きく大学へ進学するときの経路が変わります。基本的には、日本人の子供たちが世界に通用するような学力を身に着ける目的で、記憶力偏重の一発勝負的な大学入試ではなく、問題解決型で、自ら進んで議論をし、課題に取り組んでいくような方向へと教育がシフトしていきます。

日本の教育改革という点ではまさに明治、戦後直後に並ぶ大転換とも言えるもので、移行するにあたっていろいろ混乱や問題は起きるかもしれませんが私はこの方針を強く支持しています。文部科学省や関係団体、大学他教育機関の間で高まる危機感がひとつの力になったものと素直に評価したいです。

2020年度大学入試(2021年1月実施)から、新入試へと変わります(ベネッセ 進研ゼミ)

「2020年教育改革」で潰れるのは、どんな塾か 「ゆとり教育」大失敗から文科省も反省した(東洋経済オンライン 16/10/14)

その過程で、すでに各大学が取り組み始めたものとして重要な入学手段として「AO入試(アドミッションオフィス入試)」という方式を採用する大学が増えています。これは、各大学が望む学生像を設定し、高校時代などそれまでの学生生活を通して3年間の学業成績に加えてその学生の向学心や態度、活動、実績などを評価し、本人のプレゼンテーションを吟味することで、学力だけではないその学生の人物像全体で合否を判断するという入試の仕組みであります。

慶應義塾大学など偏差値上位の大学でもAO入試の幅は広がり、また通常の学力入試で大学進学してきた学生とAO入試の学生との間での4年間の就学率、成績にそれほどの差はないことが分かってきています。ただし、予備調査では偏差値的に中堅以下の大学や、医学部推薦入試では通常の学力入試のほうが上になるケースもあるなど今後も試行錯誤は必要になるのではないかとは見られます。

そうなると、突破する方法の一つであるAO入試のほうが、高校生の気質的に良いと考える家庭や生徒は率先して一流校のAO入試を目指すことになります。学業成績は上位にあるだけではなく、その大学が求める学生像に、自分を“近づけるように努力する“ことが求められる以上、それに見合った活動と成果を高校時代に挙げていなければならないのです。

ところが、一般的な高校生活において、NPO活動への参加や社会貢献が大事と言っても、身の回りにそのような団体や大人が好都合にいる場合は少ないでしょう。最近では、地元の町内会の付き合いさえ保護者が持っていないケースも多く、地域社会から分断されることの多い現代では、なかなか社会貢献を高校時代に行ってこれをアピール材料として難関のAO入試突破の材料にすることは困難と言えます。

そこで出てくるのがAO入試専門の「予備校」です。望む大学が設定する「望ましい大学生像」に自分を近づけるために、何をするべきか、どのような実績を高校時代に立て、どんなプレゼンテーションを行い、推薦状を書くのかというのがこのAO入試予備校の重要な役割です。もちろん、これが新たな大学入試の在り方であると志して精力的に取り組んでいる学習塾もありますし、DVDばら撒いたりネットでビデオ見せたりして「質問は随時受け付けるから頑張ってください」というスタイルの予備校もあります。ただ、どこも共通しているのは2020年大学入試改革に照準を合わせて、その前からAO入試枠を拡大している先進的な一流大学や専門性の高い大学への入学突破率で競っているという点です。

■いろんな意味で熱視線が送られている、斎木陽平さん率いる「AO義塾」

その競っているAO入試専門の予備校の一つに、斎木陽平さんという方が率いる「AO義塾」があります。

この斎木陽平さん、まさにそのAO入試(FIT入試)で2009年、難関校のひとつである慶應義塾大学法学部に入塾されておるわけですが、その慶應義塾のアドミッション・オフィスに提出した自己推薦書(II)では、文字通り安倍晋三さんとのツーショットで「日本を変えたい」と熱く主張し、無事合格しておられます。

安倍晋三さんとツーショットで大学AO入試を突破する斎木陽平さん
安倍晋三さんとツーショットで大学AO入試を突破する斎木陽平さん

そ、そうですね。

そして、斎木陽平さんご本人が、ネットで安倍晋三さんの「遠戚」であるとお話しされています。外形的には、斎木陽平さんのご家族が安倍晋三さんの父である政治家、故・安倍晋太郎さんの後援会長であったことまでは確認が取れますが、血縁関係にあるかどうかは良く分かりません。ただ、ご本人がそう仰るのであれば、そうなのでしょう。

斎木陽平さんは安倍総理の「甥」でも「親戚」でも「縁戚」でもなく「遠戚」です -Togetterまとめ

僕ははっきり、何度も(やまもと註: 安倍晋三首相の)縁戚であると明言しています。僕自身がそう言っているのに憶測も何もないのではないかと思うのですがね苦笑

https://twitter.com/YoheiSaiki/status/711198452990873600

そうですか。

で、このAO義塾はまだ斎木陽平さんが高校生の時代に仲間を集めて結成されたもので、斎木陽平さんは大学に入る前から高い政治志向とベンチャー精神を兼ね備えた人物であることは良く分かります。大学関係者でも彼を高く評価する者もおり、お話を伺う限り意識のとても高いタイプの御仁であることはよく理解できます。

その優秀だという声とは裏腹に起きている問題は、このAO義塾の教材パクリ問題です。

ある意味当然とも言えるのですが、社会知識の乏しい高校から大学に入ったばかりの人物が、大学の求める人間像を推察して、AO入試を志す高校生に指導・教育し、カリキュラムにそってきちんと教育体系を整えるというマネジメントをするのは困難です。いくら斎木陽平さんに優秀の呼び声が高かったとしても、夢の大きさで一気に実現できるようなものではありません。

結果として、もともと彼がAO義塾の立ち上げと並行して通っていたAO入試も対応している塾である「洋々」という教育団体で知り合った高校生などに依頼し、ほかのAO入試対応をしている予備校のカリキュラムや教材、授業・レクチャーの録音などをAO義塾に持ち込ませます。しかも、それらの教材がパクられ流用されていることを知った大手予備校は斎木陽平さんのAO義塾に抗議をしたところ、あろうことか斎木陽平さんは「洋々から許可を得て使ったものだ」と回答してしまったようです。

慶應義塾大学法学部FIT入試合格!斎木陽平さん

3. 斎木さんの塾は洋々と連携をしているのですか?

一切しておりません。以前、他の大手塾さんが斎木さんの塾に対してその大手塾のメソッドを無許可で使っているのではないかという問い合わせをした際、「洋々から許可を得て使っているものだ」という返答を受けたということで、その大手塾さんから洋々に対して「本当に洋々が許可をしたのか」という問い合わせを頂いたことがあります。洋々に個別相談にお越しいただいた方からも何か関係があるのかということをよく聞かれますが今までメソッド等について「許可」をしたこともなければ、いかなる形の「連携」もしておりません。

この内容をAO義塾に問い合わせると、管理部ディレクターの三國研太さんは取材に対して「AO義塾が利用許諾を得てない他者の内部テキストやカリキュラムを利用している事実も一切ございません」と全否定しておられます。

しかしながら、一連の顛末は前記の通り洋々のホームページにも一部掲載されていますが、詳細を聞くために洋々の代表・清水信朗さんに連絡してお話を伺ったところ以下の回答を得ました。

この度は洋々にお問い合わせいただき誠にありがとうございます。

以下の3点については事実として間違いありません。

- 斎木陽平さんは洋々の元受講生である。

- 斎木さんから洋々にお支払いいただいた授業料の総額は100万円ではなく、その3分の1程度である。

- 洋々からAO義塾または斎木さんに対してカリキュラムや教材について何かを承認したことはない。

また、AO入試カリキュラムや志望理由書の文体が酷似しているとして、大手予備校のWやO、さらに中堅予備校などが斎木陽平さんのAO義塾にクレームを入れた件について取材を申し入れたところ、片方は「現在係争中のため回答できない」とされる一方、予備校関係者で事情を詳しく知る片山隆さんは取材にお応えいただいたところ、以下のようにご回答をいただいています。

「AO義塾の当時取締役であった与田良介さん(現・DeNA勤務)が当のAO入試の講座に通って慶應義塾大学SFCに進学したため、指導の内容を知っていてもおかしくはありません。ただし、ノウハウでビジネスしている世界ですし、その後、当社とAO義塾両方に通う学生を通じて、AO義塾への学生の“引き抜き”を画策したため、トラブルになったのは事実です」

- しかし、斎木陽平さんは洋々から承認されたメソッドを使ったとお話をされたのですね。

「斎木さん本人から、そのように伝えられましたので、間違いありません。当社から洋々には何度か問い合わせさせていただき、真摯にご回答いただきましたが、私どもはAO義塾の問題だと認識しています。経緯はどうであれ、AO義塾にカリキュラムや指導法が流用され、通っていただく学生に引き抜き行為があったのは事実ですから」

■安倍昭恵女史口利きの「全国未来高校生会議」と営利事業

そのAO義塾の斎木陽平さんが仕掛けているのが「全国高校生未来会議(以下、高校生会議)」です。AO義塾とは別に一般社団法人リビジョンを立ち上げ、そこのイベントとしてぶち上げられたものです。

この一般社団法人リビジョン、設立は2014年1月で、ごく最近立ち上げられた団体であることが分かります。過去の開催実績は正式設立前の2013年12月に「女子高校生未来会議」と「未来創造甲子園NES2014」プレイベントが開催されたとあるのみです。

なんでこんなおいしい並びの画像を彼らは作ってしまうのか
なんでこんなおいしい並びの画像を彼らは作ってしまうのか

16年12月、高校生向けの起業家イベントに模様替えした「NES2017」、5周年と銘打ってイベントをやるようですが、巷で話題沸騰中のDeNA南場智子女史をはじめ、素敵な面々がそろい踏みするようです。

NES2017

問題となるのは、斎木陽平さんの主催する「全国高校生未来会議」の問題です。

我が国最高峰のクオリティを誇るウェブニュース「リテラ」でも過日報じられた通り、自称安倍晋三さんの遠戚を自称し安倍家の後援会長の系統であることを踏まえると、何らかの政治的配慮が働いたかのようにも見えます。一報、楊井人文先生は、必ずしも安倍家べったりではないと擁護しておられます。

「高校生未来会議」はやはり安倍政権の高校生取り込み装置!? 仕掛人は安倍首相の地元有力後援者の息子(リテラ 16/3/22)

「高校生未来会議は首相シンパが支援」 東京新聞報道に学生「傷つけられた」(上)(ヤフーニュース個人 楊井人文 16/2/17)

しかし、今年の「全国未来高校生会議」で後援を出した文部科学省に取材をしてみると、少し様相が異なった内容が聞かれます。このイベントが開催されるにあたって、個人的にも金銭的な支援をし、その実現に奔走したとされる現役官僚A氏や、高校生の活躍の舞台を広げたいという斎木陽平さんの熱弁を受け、それであれば協力しようと考えた人物は複数いるとされます。公式の文部科学省の見解は「イベントの後援申請があったため、厳正な判断で後援を出すことに決まったもので、何らかの配慮を行ったわけではない」との内容です。

しかしながら、イベントの公認化に関わった人物らは、口を揃えて「安倍昭恵さんからこのイベントを支援してほしいという具体的な要望があり(一部略)、イベントでの政治家の起用や登壇を行えるよう手配をする手助けまで安倍昭恵さんがやっていました」と言います。

また、このイベントの実施について「もう3年か4年やって、実績ができたところで文部科学省の後援が得られればと考えていたのに、安倍さんの働きかけで後援が得られたと喜んでいたので、逆に大丈夫なのかと思った」(元イベント関係者)、「活動は数年行われているのみで、それもイベントばかりで具体的な活動経過が見当たらない(一般社団法人)リビジョンのイベントに文科省後援を出すのは、(文科省の担当)部内でも異論が出たと聞いています」(文科省関係者)とのことで、他ならぬ“首相夫人”安倍昭恵女史の後ろ盾で文科省後援の座組が取れたと言っても過言ではない状況に見えます。

さらに、「実績のない団体が行うイベントでは異例」(元イベント関係者)ともいえる、高校生に対する“『総理大臣賞』安倍晋三、『地方創生大臣賞』石破茂、『総務大臣賞』高市早苗“という、重すぎる政治家の肩書を駆使した表彰。これらもすべて、「安倍昭恵さんが直接、石破さんや高市さんに掛け合って(一部略)、明らかに団体の内容、規模や実績とは不釣り合いな状況になってしまった」(元イベント関係者)ということで、「遠戚」斎木陽平さんを高く買っている安倍昭恵女史の口利きで実現したものであると考えられます。

公平中立であることを志し、なぜか現・民進党代表の村田蓮舫女史まで出てきて何か言ってて、ほんとこの人なにしてるんだろうと思うわけですが、単純な安倍シンパによるSEALDsカウンター組織の結成という流れではないとは考えられます。

【全国高校生未来会議】蓮舫参議院議員から高校生へのメッセージ

しかしながら、一般社団法人リビジョンとして「全国未来高校生会議」を実施し、全国から有望な高校生を集めることを企図し、文部科学省の後援を得て、総理大臣をはじめ大臣や与野党代議士まで担ぎ出しておきながら、このイベントの現場でやったことは「AO義塾や提携している武田塾のAO入試セミナーの勧誘」であるというしょうもないオチが待っていたわけです。元イベント関係者は「この全国高校生未来会議でAO義塾がビラを撒いたことは事実」とし、斎木陽平さんからは「勝手に高校生がやったことという形にすればバレない。大丈夫だから」という話をされたと証言します。まさに、大手予備校からカリキュラムや教材のパクリを指摘された際に、平然と以前お世話になった塾から承認をもらったと嘘をつき責任転嫁をしてしまうあたりに、ある種のサイコパス的要因を感じさせるのです。

つまりは、カリキュラムのパクリ問題や学生引き抜きなど予備校界隈で問題をたびたび起こしているAO義塾の営業のために、斎木陽平さんの熱弁に動かされた「遠縁」安倍昭恵女史が担ぎ出され、ここをバックドアとして文部科学省や各政治家に企画営業された結果が「全国高校生未来会議」であったとするならば問題です。

優れた学生を学力以外の点でも探し出して選抜し、良い環境で大学生活を送ってもらおうというこれからの大学入試改革の根幹が、首相夫人の道楽のような無責任な振る舞いで多くの関係者が巻き込まれ、最後は予備校の営業だったという話はげんなりするわけです。高校生の向学心や意欲、周辺の関係者の善意を文字通り食い物にしていることになり、やはりきちんと襟を正すべきではないかと思います。

最後に、取材の中でお話を聞かせてくださった文部科学省の関係者は、このイベントで営業ビラが配られていた件で、イベントの開催に協力したとされる現役官僚A氏が平謝りに近い状況で説明に来たと言います。「文部科学省もしまったと思ったでしょう。ビラが配られたことを知ったとき、後援をいまからでも取り消したいと言っていました」(文科省関係者)。

安倍昭恵女史に対しては、こちらからも取材の申し入れをしたのですが、他からの取材と混同されたらしく、珍しく一切コメントをいただくことはできませんでした。とても残念です。

「日本の精神性が世界をリードしていかないと地球が終わる」 安倍昭恵氏インタビュー昭恵夫人「本当の私見てほしい」(BLOGOS 16/11/9)

安倍昭恵女史と西田亮介さんの対談を見るに、政治家としての鳩山由紀夫さんの女性版とでも言うべきナチュラルボーンなアレであることは良く分かります。これはもう仕方のないことなので、せめてちゃんとバックドアに南京錠でもかけられるようにしておいて欲しいと強く願う次第です。

私もバックドアを守るために毎日ヤクルトを飲み続けたいと思います。