トヨタが電気自動車の量産化へ舵を切った件

そろそろGAZOOはナニではないかと思いつつも、世界で頑張るトヨタ(写真:ロイター/アフロ)

山本一郎です。自家発電はほとんどしないクチです。

ところで、次世代に向けた新しい自動車市場開拓商品としてハイブリッド車(HV)と燃料電池車(FCV)の二本立てで意欲的に頑張ってきたトヨタですが、遂に電気自動車(EV)の量産化を目指すと発表して話題となっております。

トヨタ、電気自動車を量産 平成32年までに本格参入…バッテリー性能向上で走行距離改善(産経WEST 16/11/7)

トヨタ自動車が平成32(2020)年までに電気自動車(EV)に本格参入し、量産を始める方向で検討していることが7日、分かった。トヨタのEV生産の具体的な計画が明らかになるのは初めて。

出典:産経WEST

こうした動きをとることについては以下のような見解が表明されています。

トヨタ副社長「電気自動車」検討を表明 投資費用捻出が課題(日本経済新聞)

伊地知副社長はゼロエミッション車について「究極のエコカーはFCVとの考え方は今も変わっていない」と強調する一方、「地域ごとにエネルギーの課題やインフラ整備の状況が異なる」と述べて、EVとの両にらみが必要との考え方を示した。

出典:日本経済新聞

この表明をかなり恣意的に意訳すると、FCVで商売するのがトヨタとしては理想的だが、現時点で燃料電池に必要なインフラを整備するのは絶望的な状況なため、グローバルスタンダード化しつつあるEVで商売することにしましたということになるのかもしれません。これについては、自動車業界に詳しい人でも意見が多様に分かれるところなので、外部からはやはり難解なのかもしれませんが。

また、燃料電池車の燃料補給に必須となる水素ステーションですが、我が国でもその数はまだまだ少なくとても実用に耐える感じではありません。

日本の水素ステーション一覧(燃料電池.net)

経産省が2015年に発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」によれば、水素ステーションの整備目標は、2020年度までに160箇所程度、2025年度までに320箇所程度となっています。ちなみにガソリンスタンドの総数は2016年3月31日現在で3万2333箇所という経産省のデータがありますから、数百箇所程度の水素ステーションが整備されたとしても、日本全国で燃料に心配することなく燃料電池車を走らせるのはなかなかむつかしそうです。こういう状況であればトヨタが電気自動車の量産化を検討するのも無理はないのかもしれません。世界初の燃料電池車量産に漕ぎ着けたトヨタとしては相当に悔しいでしょうが、この普及スピードでは待つわけにもいかず、背に腹は代えられないという流れでもありましょう。

また自動車ほどの工業製品になってくると市場は一国内に留まりませんし、まして世界のトヨタともなれば当然グローバルな対応が迫られるという話でもあります。

トヨタがEVを投入せざるを得ない事情(日経ビジネスONLINE 16/11/10)

トヨタがEVも強化する路線を敷いた背景には、ZEV規制、欧州のCO2規制、中国の環境規制と補助金政策などがある。しかし、それだけではない。日米欧韓の自動車各社がEVを商品化して市場に出してきた場合に、消費者にとってトヨタのEVが選択肢にないことは、エコカーの覇権を世界で握りたいトヨタにとっては許されないのだ。

出典:日経ビジネスONLINE

なるほど。

世界のトヨタとしてのメンツをかけた勝負もあるということですね。で、世界のトヨタが動けば自動車産業全体のエコシステムにも大きな影響が及ぶことになります。

トヨタ、「EVピラミッド」築くか 市場は関連企業に注目(日本経済新聞 16/11/7)

EVの普及はエンジン部品などを手掛けるメーカーへの逆風になるとの見方がある一方、主要部品である電池などの関連企業にとっては追い風だ。新たなEVの産業ピラミッドを築くか、株式市場も固唾をのんで行方を見守っている。

出典:日本経済新聞

上記記事では、EVの実用化がここにきて高まってきた理由の一つに電池技術の進化があると解説しておりまして、これがちょっと違った意味で気になる話でもあります。電池の高性能化は確かにこのところ目を見張るものがありますが、一方でそうした電池の高性能化の恩恵をもっとも受けているであろうスマホ市場において電池が原因と考えられる深刻な事故が増加しているように見えます。

サムスン、米紙に全面謝罪広告 ノート7爆発問題で(AFP 16/11/8)

サムスン「Galaxy J5」も爆発--AP報道(CNET Japan 16/11/8)

【危険】iPhone 7が発火し車が大破!でも原因は自業自得かも…(かみあぷ 16/10/21)

最終的にリコールにまで発展したSamsungのGalaxy Note7は現時点でいまだ詳しい原因が解明されていませんが、いずれにしても高性能な電池は取り扱いを誤れば火災や爆発といった事故に結びつきやすいため、拙速な製品開発は自動車の場合かなり怖いです。まあ現行の自動車はガソリンという危険物を抱えて走っているわけでして、それと比べればあまり違いはないのかもしれませんが、世界的に大ヒットした電気自動車のバッテリーに欠陥があって今回のGalaxy Note7と同じような事故が頻発するといった未来はやって来てほしくないですね。

どちらにせよ、トヨタにしかできない仕事が世の中にはあるんだな、ということを一人のドライバーとして強く感じるわけであります。強いからこそ、責任がある、みたいな。