電通やFacebookを筆頭にネット広告界隈でなぜか同時多発的に大失態発生の妙

いつか登ってやるぜ… このカレッタ汐留とかいう男坂をよ…(写真:アフロ)

山本一郎です。オーストラリアと聞いて思い出すのはコアラでもエアーズロックでもなくコロニー落としです。

そのオーストラリアの広告業界向けニュースで、なぜか電通の不祥事がすっぱ抜かれておりました。

Dentsu Japan admits 'inappropriate transactions' in Toyota overbilling scandal(AdNews 16/9/21)

The irregularities only relate to operations in Japan and have no link to any other part of Dentsu Aegis Network, including its Australian group. They also don't involve Toyota Corporation in Australia, which is served outside of Dentsu Aegis Network by independent media agency The Media Store.

出典:AdNews

この報道で興味深かったのは、このスクープ案件が日本国内で起きている不祥事についてであり、オーストラリアやその他の国の広告事情とは一切関係ないというところでした。なぜ、日本国内のみで起きたネット広告にまつわる事件が比較的大きな扱いで取り上げられたのかは、おそらく電通が世界トップクラスの規模を誇る広告代理店であり、被害にあったクライアントの筆頭のトヨタがやはり世界トップクラスの自動車メーカーであったことなのかなと感じましたが。

で、この記事が発端となり、欧米のメディア多数が一斉にこの件を報道したわけですが、日本国内で起きているこの事件が日本のメディアで報じられるにはそれなりの時差が必要だったのも不思議ではあります。おそらく国内メディアで最初に本件を報道したのは日経ですが、すでに2日前から色々とあった海外報道に比べると記事の内容は漠然としたもので基本的には電通からの公式発表を待つというのんびりした対応でした。

電通、ネット広告不適切取引 社内調査、きょうにも公表(日本経済新聞 16/9/23)

電通がインターネットでの広告掲載について、不適切な取引をしていたことが22日、明らかになった。

出典:日本経済新聞

面白いですね。先のオーストラリアの報道は21日付けで、当然ですが日本と時差はほとんどありません。まあ、日経なりに裏をとっていたら22日になったということなんでしょうが、裏の取れた22日には報道しなかったのも含みがあるようで味わい深いです。

で、電通の正式な報告はウェブにもリリースとして発表されています。

日本国内のデジタル広告サービスにおける不適切業務の発生について(電通 16/9/23)

当社は、この事態を厳粛に受け止めており、本件判明後、速やかに8月の中旬に社内調査チームを組成し、不適切業務が発生した原因の解明を含む業務実態の把握、検証を企図した調査に着手し、現在もそれを継続しております。

出典:電通

なるほど、すでに8月中旬には問題が発覚していたということですね。それから本件が多くの人が知ることになるまでには1か月以上を要し、しかもそうなる原因の一つはオーストラリアの業界紙のすっぱ抜きであったという。もしかしたら、文句を言っても事態の改善がまったく進展しないことに腹を立てたクライアントの誰かが国内メディアではダメだから海外メディアに事の次第をリークして外圧をかけたという可能性もあったりするのでしょうか。この辺の事情はぜひ聴いてみたいところです。

今のところ電通がしでかした不祥事の内容については以下の記事が一番分かりやすいので、一体何があったのか気になる方は是非ご覧ください。

電通「不適切と表現したが、まあ、不正です」 「過大請求」記者会見の一問一答(日経ビジネスオンライン 16/9/24)

上記は長くて読むのが面倒という場合は以下がコンパクトにまとまっているかもしれません。

電通の不正行為で信用失墜の恐れ、業界に怒りの声が広がる(日経デジタルマーケティング 16/9/23)

一番の問題は「担当者が故意に数値の改ざんなどを行っていた」という事実であり、確信的に嘘をついて広告費を水増し請求していたという点にあります。これはひどいですね。

しかし、水増し請求していると覚しきネット広告案件は何も電通だけの専売特許ではありませんでして、Facebookも同じようなことをやっていたようです。

Facebook、動画広告の視聴時間過大算出で謝罪(CNET Japan 16/9/26)

Facebookは2年間にわたり、同プラットフォームにおけるユーザーの平均動画視聴時間を過大に算出して広告主に伝えていた。

(中略)

広告枠を買う代理店に送られた書簡をThe Wall Street Journal(WSJ)が見直したところ、この計算ミスによって、平均視聴時間が60~80%水増しされていた可能性があるという。

出典:CNET Japan

言い方は悪いですが、ネット広告業界ではこの辺の問題は横行していて、言われているほど倫理的にクリーンでもなければ数字も正しくなかったということなのかもしれません。

こうした事態がなぜ起きてしまうのかということについては、電通の事件を機にすでに様々な論考が出ていますが、どうやらリアルに業界の中の人達が匿名で熱く語っている文章がありましたのでご紹介しておきます。

電通の不正請求は広告業界全体の問題(はてな匿名ダイアリー 16/9/24)

ネット代理店の中の人として補足。(はてな匿名ダイアリー 16/9/25)

ネット広告の幻想の終わり。(はてな匿名ダイアリー 16/9/25)

はてな匿名ダイアリーがこういう場面で使われるというのがちょっとアレですが、アドテクの闇みたいなものが今になってあぶり出されつつあるのかもしれません。個人的にははてな匿名ダイアリーは本当にきわどいことを書くと簡単に個人情報が出てきてしまう媒体なので、ご利用は計画的にという気持ちもないでもありませんが、業界内での評価も、この記事はまあまあ正しいのではないか、ということで落ち着いています。

突き詰めていけばネット事案に限らず広告の評価測定はどうやったらできるのかという話になっていくのでしょうか。広告の作品としてのヒットにしてもそうですが、広告で人の心に刺さるための最適解など誰も知る由はないのですが、それをあたかも熟知しているように見せてお客様から代金をいただいてきたのが広告業界。さらにITの力で理詰めに正確なデータを叩き出してエンドユーザーに訴求できますと豪語してアドテクの素晴らしさを吹聴してきたのがここ数年だったわけですが、ここにきてその実態がばれてしまったのか、それともアドテクは変わらず素晴らしいのだけれど、そうしたものを運用する側がデタラメだったということなのか。ビッグデータにしてもAIにしても、そのほか諸々、一体何が本当に使えるのかを使う側が考えなおす頃合いなのかもしれません。どんなにテクノロジーが進化しても、結局それを使うのはヒトであり、ダメなヒトが考えることは古来何も変わらないということでもあります。

それにしても、ネット広告というのは、広告配信側のさじ加減でどのメディアに広告が表示されるかがお任せになってしまうという問題がありまして、これが結果として望ましくないメディアに広告が配信された結果、出稿側のブランド価値を毀損してしまうことも起こり得るわけですが、その最悪のパターンともいえそうな事態が起きておりました。

桜井誠・在特会前会長のAbemaTV番組、広告流れたユニリーバ・ジャパンが釈明(The Huffington Post 16/9/25)

これは痛いですね。まさにユニリーバが民族差別主義者の番組をスポンサードしているような見え方になってしまっています。既に問題の番組チャンネル自体は削除されているようですが、過去の放送においてスポンサード企業として見えてしまう形で広告が配信されてしまった事実は消えません。おそらく広告自体は機械的に配信されただけなのでしょうが、やはりアドテク的にはこうしたリスクを事前に排除するようなきめ細かい対応があってしかるべきでしたし、今後そうした対応ができないのであればネット広告の信頼性はどんどん落ちていくしかありません。

以前、私も書きましたステルスマーケティングや、ダウンロード数不正にランキング操作をもたらすリワード広告(お小遣いアプリ)などの弊害は言うまでもありませんが、このあたりの問題について襟を正すにはどうしたらいいのか、技術の未来を語る前にネット広告に携わる電通各位以下全員が胸に手を当てるべき時期に差し掛かっているのでは、と思います。