小池百合子「豊洲劇場」と、報告書を読まずにいまさら文句を言う有識者問題

小池百合子都知事、豊洲新市場への移転延期を発表、これがまたデスマーチに(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

山本一郎です。レッズというよりはグリーンです。

ところで、さっき時事通信みていたら、共産党都議団が程度の低いことをしていたので興味をもって読んでいたんですよ。

地下水漏れか=豊洲市場の主要施設―共産都議団が現地調査(時事通信 16/9/14)

そもそもコンクリートと接する水はアルカリ性になりますし、海水もそれなりのアルカリ性なんですが、どういうことなんでしょう。

その場でリトマス試験紙を浸すと青色に変わり、強アルカリ性であることを示した。

リトマス試験紙を使って酸性かアルカリ性かは分かるんですが、強アルカリまで調べられるとはさすが共産党の科学力はソ連一です。TBSのビデオ見ると、せいぜいph10ぐらいに見えるんですが、大丈夫なんでしょうか。ちなみに、コンクリートは元々pH値が12~13の強アルカリ性であります。

一般論としてですが、構造物の地下ピットにはそもそも結露する水が入ることが多いわけでして、侵入経路は断定するのは本来むつかしく、雨水かも知れないので微妙なところです。リトマス試験紙の結果を見ただけで地下水だと強く疑う共産党の素敵な科学知識に驚くわけであります。せめてベンゼンその他の簡易検査でもしてくれれば良いのですが。「検査機関に提出。その結果は16日ごろに出る」そうなので、ぜひどの検査機関に提出したのか、調査地点の明示や結果も含めて情報公開していただければよろしいのではないかと存じます。

ついでに、なぜか時事通信の記事中に「畑明郎元日本環境学会長」とかいう人のコメントも触れられていますが、この日本環境学会は先日「原発再稼働をやめ、安全で持続可能なエネルギー社会を目指すべきである」とかいうレッズ方面も含めた愉快な人々が大集合している組織ですので、むしろ共産党のプロパガンダの片棒を猛然と非署名記事で担いでいる時事通信が心配になります。意図的ではないとは思いますが、赤旗時事通信支部みたいな感じですか。

さて、先日の記事でも触れましたが、ようやく技術会議でのトラブルも話題になるようになってきました。

地下利用の危険性、都は07年から認識 豊洲市場(朝日新聞 16/9/14)

豊洲市場問題 独断の方針変更に専門家「驚きと憤り」(NHKオンライン 16/9/12)

小池百合子都知事、突然「都庁全職員を粛正」ヒステリー発言の波紋(ヤフーニュース個人 山本一郎 16/9/11)

築地市場は早々に移転するべき(ヤフーニュース個人 山本一郎 16/8/29)

ネタとして面白いのは、朝日新聞が「地下利用の危険性」やNHKが「こうした結果になって憤りを感じる」と技術会議の参加者が書いている内容については、議事録を見ると全然違った話になっている点です。

土壌汚染対策の具体的な工事方法などを検討した「技術会議」の委員の1人で、産業技術大学院大学の川田誠一学長は、「専門家会議で出された提言を実現するのがわれわれの役目であり、提言通りに盛り土がなされていると認識していたので、全く違う結果に驚いている。仮に変更することがあったとしても議論する必要があるが、議論や都からの説明もなかった」と話しています。

そのうえで「こうした結果になって憤りを感じる。都はまず、なぜ盛り土の工事方針を変えたのか、検証することが求められる」と述べました。

出典:豊洲市場問題 独断の方針変更に専門家「驚きと憤り」(NHKオンライン 16/9/12)

そもそも盛り土は問題か、という点でいうならば、概ね4つの論点があります。

1) 建屋の下に盛り土がないことそのものが欠陥工事ではないか

2) 盛り土がないことによる汚染対策不備は大丈夫か

3) 盛り土がないことで建屋の耐震性など強度に問題があるのではないか

4) 盛り土がある前提で都が広報を行ったことが問題ではないか

このうち、共産党が必死に追及しようとしているのはまず(2)ですが、共産党がベンゼン持ってきて自分たちでブチまけないかぎり、報告書の通りなら現段階ではベンゼンは地表にない前提なので可能性が薄い状態です。もし出たらいままでの環境調査は何だったんだという話になりますね。これはこれで興味津々です。

また、(3)はそもそも盛り土が耐震性その他建屋の強度に関係するわけもないので、ここは除外で問題なかろうと思います。森山高至さんが本件でガセネタを週刊誌に流していたようですが、これはいずれ誰かが何とかするでしょう。

そうなると、(1)のように施主たる東京都が、有識者を交えてより安全、安心に建設を進められたかどうかという話であって、会議議事録を見ますと見事に工事完了報告書が提示され、その場では誰も異論を唱えていないという素敵な会議の様子が見られます。

技術会議における土壌汚染対策工事官僚確認状況のまとめ(第18回技術会議)

建屋建築予定地は丁寧に「AP+2.0m」つまり盛り土なしで報告されている図面。
建屋建築予定地は丁寧に「AP+2.0m」つまり盛り土なしで報告されている図面。

ということで、工事の完了報告書が技術会議第16回から第18回にかけて回覧され、これといった議論もなく了承されているんですが、この地盤工事完了の図面を見れば、建屋の下に盛り土なんざ積まれていないことがすぐに分かります。

第5街区もご丁寧に排水施設の下まで盛り土なし。
第5街区もご丁寧に排水施設の下まで盛り土なし。

ちなみに、第5街区、第6街区の処理が報告されている第16回と第17回の技術会議に川田さんはご臨席されておりますが、名前を挙げられてご挨拶されているのみで、質問振られても「本日の会議では特に、質問はございません」と応答。その後一切具体的な議論に参加しておられない完璧な置物ワークが楽しめる会議録は以下リンクからどうぞ。また、第18回も、川田さんは「大気の計測の高さは人の頭ぐらいか?」などと比較的どうでもいい質問を一度二度したのみであります。もしもNHK報道の通り憤っておられるのであれば、この時点で「なぜAP+2.0mまでしか盛り土がないのか」指摘しないとおかしいわけですね。

議事録を見る限り、おそらく、川田さんを含め一部の有識者は、会議に参加していたにもかかわらずここの資料をきちんと見ていなかったか、問題視していなかったことが分かります。後から(比較的どうでもいい)盛り土の話が急に降って湧いたため、それは私の責任ではないという意味で「なぜ盛り土の工事方針を変えたのか」と憤ってみせただけではないかと思うわけでございます。保身は大事ですよね。工事方針が本当に変わったとするならば、なぜその結果である工事結果の報告書が出た会議のその場で質問ひとつしなかったのか、誠意ある回答が求められる局面ではないかと感じます。

第7街区。小さな建物も下には盛り土なしで、これ気づかない専門家とかマジ超専門家
第7街区。小さな建物も下には盛り土なしで、これ気づかない専門家とかマジ超専門家

技術会議 第17回会議録

○矢木委員(山本註:第18回から座長に就任)  私も提言に基づいて浄化が着実に実施されているということを確認をさせていただきました。ただ、これはまだ完全に終わったわけではありませんので、終了した後も2年間は地下水なんかは継続して調べなきゃいけないということですので、もう終わった地点については何箇所か、ぜひ地下水を早目にですか、もうスタートされているかと思いますが、調査を始めて、次回にはどんなになっているか。その後の経過がわかればいいなと。完成してからになるのか、その辺のところを早目にスタートしていただきたいというのが1点です。

○原島座長 それでは、ほぼ議題が終わりましたので、一言だけコメントを申し上げますと、今日の技術会議としては、対策の実施内容等の説明を受けまして、5街区全体及び6街区の水産仲卸売場棟の敷地及びその周辺のエリアを対象として、ガス工場の操業に由来する土壌汚染及び汚染地下水の対策が確実に完了したことを確認いたしました。また、7街区におきましては、液状化対策や盛土などを含めて土壌汚染対策工事全体が完了したことを確認した。引き続き請負者においては確実な施工を、また都にあってはしっかりした工事監督をお願いしたいということです。

○矢木座長 わかりました。技術会議の場合には、地下水と土壌の現在汚染しているものを完全にきれいにするんだというところまでが役割でございますので、そういう意味ではクリアできたのではないかなというふうに考えております。先生方、よろしいでしょうか。

(各委員 首肯)

○矢木座長 それでは、以上をもって議題のほうは全て終了いたしましたので、全体を通して本日の会議を振り返りましてまとめを一言申し上げさせていただきたいと思います。

本日、土壌汚染対策工事については、第16回、17回の技術会議で確認が終わっていなかった6街区東側ですね、これの汚染土壌対策及び汚染地下水対策の完了を確認いたしました。それからまた、5街区、6街区におけます液状化対策、そして砕石層の設置などについても確認を行いました。これによりまして、ここにいる皆様方と一緒になってつくり上げ、技術会議として提言いたしました土壌汚染対策工事が全街区において全て完了したことになります。

(略)

このような対策というのは世界に類を見ないまさに環境基準もクリアするということは健康で過ごすことができるという基準でございますので、ここまで徹底した、こういう対策をとったというのは世界で類を見ないことだと思います。

今回の対策は、個々の技術の中にも日本の最先端の技術を取り込みまして、いろんな技術を組み合わせております。今できる日本の最先端の技術を皆まとめてここでやらせていただいたと、そういったようなものでございます。

したがいまして、人がこの豊洲で生活していく上で健康影響が生じることがなく、生鮮食料品を扱う市場として用地の安全性が確認できたものと、そういうふうに考えております。

 このように、いずれの会議も大きな異論もなく、淡々と工事の推移を見守り、地下水のモニタリングがきっちりできるよう注文を付ける程度です。つまり、工事完了報告のところで、建屋の下にAP+2.0mという盛り土のない図面をすべての委員が見て、その場で何の反論もなく、議事としては「工事成功したね、良かったね」といって、技術会議は第18回を締め括っているわけです。図面が読めないのか、図面を見ていなかったのか、認識していたけど問題だとは思ってなかったか、のいずれかです。

 ただただ、部長課長以下、よどみない都職員の説明だけが光る資料です。これらの議事録も捏造でもされているんでしょうか。

 もしも本当に小池百合子女史の指摘する情報公開や会議議事の進め方の問題があるならば、この瞬間に誰かが「あれ? 建屋の下の盛り土がなんで2mしか積まれてないの?」と質問するべきであり、そのための有識者じゃなかったか、という話になります。

 これを、各報告を行った部長、課長以下、都職員の責任に帰して、技術会議に出席した専門家や設計者、関与した建設会社が問題だ、とするのはやや無理筋です。

 せいぜいいうなら、各会議体同士の連係ミス、工法に関する対外的な説明不足や、間違った概要図についての問題までであって、これは汚染対策や建屋の安全性、耐震性に関わるものではないことは言うまでもありません。

 なので、「なぜそのような工法をしてしまったのか。情報開示の在り方をもう一度見直せ」というのは正論でも、「再調査をかける。安全性を確認できるまで築地市場からの再延期を検討する」はギリギリのところであり、一部有識者の言う論点(1)の「不正工事であるから、すべて工事をやり直せ」というのは極論であると言えましょう。

 会議議事録を見る限りでは、(4)の広報問題であることは理解できようと思います。工事方向書を技術会議で説明して了承され、その時期には専門家会議は解散しておりますので、諮問先としての技術会議がこうである以上、やはり都民に対する説明の内容を間違った、そこは反省するべきだ、という議論になります。

 もっというと、盛り土問題ってのは盛んに言えば言うほど、たいした問題ではないことがご理解いただけると思います。4.5m掘って汚染された土壌を入れ替え、管理水面2.0m上まで埋め戻し、0.5mの砕石層を入れているわけですから。

■そもそも論

 「豊洲の汚染は問題だ!」という議論については、後日ゼロリスク症候群と絡めて説明記事を書きますが、論点としては2つあります。

a) 築地は汚染含めもっと状況がひどいのでどうしようない。

b) いまの工事でさえ、過剰な環境対策をすでに施し終わっている。

 (a)については、築地市場の環境問題に直結するところですけど、詳細は東京都のHPに書いてあります。さすがにそこに広報ミスはないと思うので。

豊洲市場へのあゆみ

 (b)については、なぜかあんまり騒がれないことではあるのですが、法令上の基準という意味では、東京ガスから移転候補地として選任されたところですでに環境基準をクリアしています。土壌汚染対策法と、東京都の「環境確保条例」および「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」によって策定されている内容です。

土壌汚染対策法

環境確保条例

都民の健康と安全を確保する環境に関する条例

 しかもこれは、売り主(元の豊洲の土地所有者)である東京ガスに義務付けられるもので、実際に、売却にあたって予備工事を東京ガスが1999年より開始し、東京ガスの建屋解体とともに徐々に汚染土壌の入れ替えを行っています。この工事が完了した段階で、本来は環境基準はクリアしています。

 それでもこれだけの大工事を行った主な理由というのが、一部の都民からの「一切の汚染も許さない」という強い希望であったことは言うまでもありません。私だって、汚染物質がゼロならそれに越したことはないですが、そもそも新鮮な魚介類を口にしたってややこしい物質の一つも入っているわけで、それだけの汚染物質ゼロにこだわるコストよりは多少現実的な費用で市場が建ってくれたほうが本当は良かったと思います。

 ただ、石原都政時代に「新しい時代の市場のあり方」という素敵な記者会見をやって、記者からの質問にブチ切れていたり、健在だったころの石原慎太郎節を堪能することができます。この記者会見、わずか19分程度の間にどんどん石原慎太郎さんの熱量が上がっていくあたり、やはり芸達者だなあ、伝統芸だなあと思うところですので、一部抜粋はしますがぜひ全文ご賞味ください。

「築地市場の豊洲移転」について(石原都知事定例記者会見 10/10/22)

築地市場を取り巻く厳しさは、政治の不決断を決して許さないと思います。築地市場は、僅かな震度の地震でも、屋根の一部が落下するまで老朽化しておりまして、かつ、お世辞にも、清潔とは言えないと思います。パリの新しい市場を見てみますと、競りにかかるような大事な商品というのは、番号を振って、ガラス越しに見えるようになっていて、今の築地でやっているみたいに、外気にさらされて、持ってきて、地面へ転がして、それ見て値段つけるみたいな、そういう原始的なことはやっていないんだ。そんなものを含めて、私は、新しい市場が、新しい機能で、安全に清潔に、運営されるべきだと思います。

 まあ、偉そうな話をしている裏ではどこぞで談合でもあったんじゃないかと思うわけですが、それはそれとして、一応は「旧弊最たる築地市場を早々に廃して、青果や鮮魚が最新鋭の設備で流通させられる最先端の市場を作ろう」という意志は伝わってきます。

 この事案を、いまさら盛り土問題ごときでひっくり返すってのも微妙で、また現状では調査を何度もやってベンゼンは基準値以下であるのに再調査がどうこうというのも無駄な話でして、恐らくは、東京都庁の担当された役人さんが更迭されて処分された後で、その遺体の上に安全宣言でも出されて遅れ馳せながら豊洲新市場への移転を最終判断するかどうかという流れでしょうか。

 この小池劇場は、以前もそうでしたがいちいち役人の血を吸わないと物事が前に進まないという欠点を持っているように思いますし、共産党都議団の微妙ネタに乗って騒いだ後で落としどころが全部他人のせいという話になりますと面倒なことになるんだろうなあと感じます。

 東京五輪がちゃんとできるといいですね。