海外クレジットカードのキャッシングに対応していたATMが攻撃された件

振り込め詐欺にひっかかる寸前の高齢者のイメージ写真ですが本記事とは関係ありません(写真:アフロ)

 山本一郎です。「組織的な犯罪」といわれると、真っ先にサン電子(サンソフト)の往年の名作『いっき』を思い浮かべるタイプです。

 ところで先日、相当に大規模かつ組織的な形で不正クレジットカードを利用した詐欺事件が起きました。

コンビニATMで14億円不正引き出し 2時間余で1400台 偽造カードか(東京新聞 16/5/23)

十五日午前の二時間余りの間に、東京や大阪、福岡など十七都府県で金が引き出されていた。いずれも限度額の十万円が引き出され、取引は計一万四千回以上に上る。セブン銀行のATMが使われ、同行の被害相談で事件が発覚。カード会社から現金を借りるキャッシング機能が使われた。

出典:東京新聞

 被害が発覚してから対応に動き出すまでに普段よりも時間がかかるであろう休日の早朝に比較的短時間のうちに広く日本全国で同時多発的に犯行が実行されていることから、相当に用意周到な形で計画され事が進められたということが想像されます。もっとも、コンビニは防犯カメラが充実している環境でもありますから、少なくともATMを操作した実行犯については簡単に足がついてしまう可能性もあるわけでして、いわゆる日本のオレオレ詐欺的な犯行パターンに比べると少々荒っぽいやり方に見えなくもありません。

偽造カードを使ってATMから不正に現金を引き出す事件を巡っては、二〇一二~一三年に日本を含む二十数カ国の金融機関から約四十五億円が不正に引き出されており、警視庁がルーマニア人グループの男らを国際手配したことがある。

出典:東京新聞

 ちなみに、このルーマニア人グループの一部は、泣く子も黙る世界規模のスパムメールのシンジケートを経営していたファミリーも混ざっており、この手の犯罪がいかに世界規模なのかを思い知らせてくれます。

 南アフリカの銀行が発行したカード情報が利用された事実や過去の事例から推測するに、今回もまた外国人犯罪グループによる可能性は高そうです。それにしても同時多発的かつ何度も執拗に引き出しを繰り返した犯行が実行されたあたり、その統率力の高さは驚くべきものがあり、なんとも軍隊的な匂いを感じなくもありません。実際に引き出しが行われた状況はどんな感じだったのか気になるところです。

 デジタルな時代になりネットワークを経由してサイバー空間だけで大がかりな強盗が成立する時代に、今回のようなある意味でアナログな人海戦術による犯行が起きたというのは、もしかしたらちょっとした盲点だったのかもしれません。

国際金融揺さぶる盲点(日本経済新聞 16/5/22)

昔、銀行強盗といえば目出し帽をかぶり、トンネルを掘ったが、もはやそうではない。3カ月前、世界は史上最大の銀行強盗を経験した。窃盗団がバングラデシュの中央銀行から1億100万ドル(約110億円)を盗んだのだ。

出典:日本経済新聞

 さて、今回の事件の舞台となったコンビニATMですが、こうしたものが普及してきた背景には以下のような事情があります。

セブンはATMで稼ぐ!手数料無料を生み出すビジネスモデル(便利すぎるセブン|セブンの借り入れコンビニ事情 15/1/6)

いわゆる銀行業務ではなく、提携銀行から手数料を稼ぐためATMの提供がメインのビジネスなのです。

一般的に銀行は融資業務を中心としていますが、それと比較してセブンは売上の約9割がコンビニATMの手数料、という業績からもその特異性がわかります。

出典:便利すぎるセブン|セブンの借り入れコンビニ事情

 つまり、コンビニ側にとっては取りっぱぐれのない、かなり美味しい商売だったということですね。しかも、セブン銀行のATMは「海外で発行されたクレジットカード、キャッシュカードにも対応、英語のほか中国語、韓国語、ポルトガル語にも対応している」ことが売りですから、今回の事件ではもしも多国籍な犯行グループによる組織的なものだったとするならば、まさに狙い目だったということになります。まあ、他のコンビニチェーンもインバウンドブームでこうした施策は今後どんどん推進されつつありますから、同じような犯罪の手口で狙われる可能性も考慮する必要が出てきそうです。

郵政とファミマの海外配送サービス、ATM設置…訪日客の取り込みへと動く(Economic News 16/4/24)

 ややこしいのは、海外クレジットカードの普及が観光客来日を促進するのは良いとしても、このように現金を引き出せるサービスと連携してしまうと”現金主義”日本は格好の換金場となる虞が強いことにあります。現金が普通に流通する平和な国が、文字通り逆手に取られて現金引き出し犯罪のメッカに堕してしまう結論になるとすると、これはさすがに考え物です。

 海外クレジットカード対応は思い切って廃止してしまうというのも安全策としては簡単かつ効果もそれなりに望めそうですが、今の海外観光客をいくらでも呼び集めたい状況からすると、あまり手を出したくない手段でもありましてなかなか悩ましい話です。今回の事件の犯人がすぐ捕まることを願いたいところですが、さてどうなることでしょうか。

 なお、この方面のセキュリティクラスタでは、中国人の闇の仕事BBSで、かねてから多数の「出し子」募集の掲示が破格の報酬と共になされていたという情報もあり、関税強化で衰退しつつある「爆買い」がカジュアルな旅行客を媒介とする「爆引き出し」にならないよう強く願う次第であります。