ベクトル社西江肇司社長「ノンクレ記事はPR業界の商慣行!」PR協会「知らんな」

往々にして、調子に乗ってコンテンツに手を出すとそこが黄金期の終わりだったりする

山本一郎です。商慣行上、梯子を外されたのを確認してから火を放つ傾向にあります。

ところで、先日来、週刊ダイヤモンド→CNETのコンボが炸裂しているようで、傍観者の私はただただ静かに事の成り行きを見守っておるわけですけれども、このほどベクトル社がノンクレ記事を仕切っていたことを認める発言をしたということで興味関心が集まっております。

PR会社ベクトル、「ノンクレ記事」複数認める--当たり前に存在していたと「商習慣」強調(CNET JAPAN 15/11/10)

西江肇司(ベクトル代表取締役社長)インタビュー(週刊ダイヤモンド 15/11/2)

【ステマ症候群:拡大版】 iPhone商戦の陰で広がる ステマ記事発注の舞台裏(週刊ダイヤモンド 15/11/2)

週刊ダイヤモンドの名指し記事が出た直後は、ベクトル社も素敵な開き直り方をしていたのが、なぜかその週末には一気にトーンダウンして塩らしい、もとい、しおらしいお詫びのプレスリリースが掲載されております。先週までオープンカーをアロハシャツに半ズボンとサンダルでブイブイ転がしていたのが、翌週には喪服を着て霊柩車で乗り付けるスタイルでありまして、これはこれで趣があって面白かったのではないかと思います。

一連の報道を受けてのお詫び(株式会社ベクトル 15/11/6)

ベクトル社が名指しステマ記事にホームラン級にアレな反論をして広告業界大困惑の巻(ヤフーニュース個人 やまもといちろう 15/11/3)

で、CNETでの反論のなかで、気になる文面が多数盛り込まれておりました。不肖、この山本一郎の感性にジャストフィットする感じの多い日も安心的シチュエーションがあったため、興味を持ったわけです。

担当者は「ベクトルが編集協力費の名目で媒体社に金銭を渡して記事化の進行を図った事案が複数見つかった」としながらも、具体的な件数は「調査中」だとして明かさなかった。また、それらの事案のうち、「どこまでがノンクレジット(ここでは、ベクトルが媒体社に編集協力費を支払っているにも関わらず、媒体社が広告表記を付けていない記事)かを判断するまでには調査が進んでいない」とし、現在判明している案件の内容については「個別の案件」だとして回答を控えた。

私が申し上げるのも心苦しいのですが、このあたりはすでに外部的に調査がとっくに済んでいるところであります。ベクトル社が取材に応じたご担当者のいう「どこまでがノンクレジットか判断するまでには調査が進んでいない」のであれば、アンティル社というベクトル社の子会社で業界から「ステマの女王」とまで呼ばれた仲山何某女史など、営業の窓口となっていたご担当者さまのメールを過去に遡ってすべて調査すれば、対象となった媒体からクライアント、金額、担当ライターまで把握できるのではないかと思料するところであります。

JIAAがガイドラインを改訂する3月以前に、いつからそのようなプロモート活動をしていたかとの問いに対しては、「商習慣」であったことを強調し、「普通のこととして存在していた。調査ではさかのぼれない」と答えた。

なるほどなるほど、PR業界の商習慣だったわけですね。なるほどですね、参考になります。「調査ではさかのぼれない」とのことですが、私の持っておりますステマフォルダに素敵な資料がいくつかあるんです。例えば、ベクトル社から、とある製薬会社さま向けに(正確には広告代理店向けのクレジットも記載されている)ノンクレ資料が2008年の日付で存在しているようです。作成者は、ベクトル社取締役、子会社プラチナム代表取締役社長でいらっしゃる吉柳さおり女史が作成者と見られます。大海を泳いだ鮭ですら産卵のために生まれ故郷の河川をさかのぼることを考えますと、ベクトル社もぜひ眦(まなじり)を開いて過去と向き合っていただきたい、そして鮭と共に黄河を上りきり立派な昇り龍となって、世界に冠たるPR会社としてmixiと並び称されるマジ尊敬企業に成長していっていただきたいと願う次第であります。

ところで、そんな誠意大将軍企業の筆頭各を目指すベクトル社が語った「ノンクレ記事はPR業界の商慣行」という話ですが、CNETがこれを面白がる記事を出す前の11月4日にPR協会に質問状として「ベクトル社の西江さんがこんなこと仰ってますけど、やっぱマジなんすかね」という連絡を入れておりました。

そうしましたところ、PR協会からマジレスが返ってきましたので主要部分を引用したいと思います。

この度、山本様からお尋ねをいただきました「PR業界としてこのような商習慣は実際にあったと認識されるのでしょうか」につきましては、当協会は会員個社の事業内容、個別の取引の内容や事実関係等を第三者としてそれを知り得る立場にはなくコメントする立場にはないものと考えております。「貴協会としてはクライアントからの具体的な金銭や経費等が支払われている場合にはクレジット表記をされないケースは容認されるとお考えなのでしょうか」とのお尋ねにつきましても、個別の会員個社におきましてご指摘のケースに該当するような事象や取引があるのかどうかにつきましても把握しておりませんのでコメントは控えさせていただきたく存じます。また、当協会に加盟している会員個社の事業に伴う取引や事実関係につきましては個社が責任をもって対応すべきものと考えております。

PR協会からのご返答はアウトボクシング的なディフェンス重視の姿勢を垣間見せる渋さ
PR協会からのご返答はアウトボクシング的なディフェンス重視の姿勢を垣間見せる渋さ

このPR協会から送られてきた文面からほとばしる「自分のケツぐらいは自分で拭け」という会員社ベクトルに対する精気滾るメッセージに、目頭が熱くなるばかりです。そりゃ協会としてもいちいち会員社がしでかしたことに対し、力強くスルーしたい気持ちは、ビンビンと伝わってくるのであります。「あちゃー」と思いつつも、協会の中で迂闊な言質を返して祭られたくはない、しかし情を知って完全なる無視を決め込んでしまうのは業界団体として無責任の謗りを免れ得ないという、ギリギリの攻防を経て捻り出されたワードであろうと考えるのであります。この全幅のありがとう感はある種の阿吽の呼吸の粋であって、やはり自分が相手の立場になって考えると「ああ。こう答えるしかねえよなあ」と思わずにはいられないのです。

パブリックリレーションズに係る関係者は情報の提供においては社会の利益と安寧に資する情報を自らが良く吟味し、正確で公正・公平な情報の提供に努めるとともに、その行動の規範となる倫理と公正の原則を遵守することが重要と考えています。ステルスマーケティングをめぐる議論につきましては、このような観点から考えていく必要があるのではないかと思料いたしております。

この「何度読んでもその通りなんだけど、何をしたいのか良く分からない」感じが最高です。これこそ、ベクトル社が為すべき危機管理対処のための文書の見本なのではないでしょうか。大事なものを遵守するのが重要だという観点からステマを議論すべきだが、ベクトル社がやらかしたことに関しては腹の底から「知らねえよ」とフルスイングで言い切るPR協会は、本当に分かってるなあと思うわけであります。

最後に、上記吉柳女史が欧米型PRに注力とか豪語されていたので、私の専門とする米FTC(連邦取引委員会)方面の議論を整理してみましょう。

欧米型のPR戦略浸透に注力 プラチナム・吉柳さおり社長 (1/4ページ)(産経新聞 15/6/8)

ごく最近の事例では、マイクロソフトが主力ゲーム機であるX-Box向けソフトのレビューや動画をアップしていたたYoutuberが 実はMachinima経由で多額のお金を渡していたことが判明し、ステルスマーケティングにあたるとして米FTCから通告を受けています。

つまり、お前らの目指す欧米型のPR戦略は、肝心の欧米では違法だということです。

この通達の根拠になっているのは、2009年の米FTCによる「インターネットを含むクチコミと推薦に関するガイドライン」連邦法16 C.F.R. part255であり、以後、何度かの微修正を経て現在に至ります。

Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising(FEDERAL TRADE COMMISSION 16 CFR Part 255 09/10/5)

Web広告に関する米国法規制の現状と違反事例について調べてみました(前編)(netpr.jp 15/7/2)

「ステルスマーケティング」は「コンプライアンス違反マーケティング」であるということ(minako's blog 15/11/8)

いうまでもなく、ステルスマーケティングは場合によっては日本における景品表示法違反事案であり、優良誤認を導くものであって、広告における不実記載・虚偽広告にあたります。ただちに違法かどうかというよりは、コンプライアンス違反であって、神原弥生子女史の指摘が見事に当てはまります。

不実記載に関しては、同じくアメリカFCC(連邦通信委員会)が虚偽の通信速度を広告にして打ち出したAT&Tに対して100億ドル以上の懲罰的罰金を課した事例は、以前も当欄で触れました。本来であれば、そのぐらいに重要な問題であって、消費者保護のために絶対的に留意しなければならないことなのです。

FCC to Fine AT&T $100 Million for Slowing Mobile Data(bloomberg business 15/6/18)

したがって、問題は不実記載、優良誤認を導くかどうかであり、根底はそういうステマ記事を読んだ読者が不当に心を動かされて商品やサービスに好感を持ったり購入したりすることがフェアなのか、という話です。

ベクトル社が「商慣行だった」「『編集協力費』を、交通費など取材時に必要となる費用の一部をベクトル側で負担」したというのはそもそも言い訳になりません。泥棒の動機が遊興費目的なのか生活苦なのかは無関係に見つかれば逮捕されるのと同様、クライアントから金が払われて手配した記事については原則としてすべて関係性明示をしなければ消費者に対してフェアではない、ということを常に認識するべきです。

PR協会が回答で示した「行動の規範となる倫理と公正の原則を遵守することが重要」というのは本来は”消費者を騙さない”ということであり、たぶん当該組織はいまもなお、何が問題とされているのか分かってないんじゃないかとまで感じる次第であります。まだまだこの問題は目が離せないですね。

もう帰ります。