休眠口座の資産を「NPOの社会活動に利用」という謎の仕組みが問題視される件

山本一郎です。昨日、人生でついに「素でバナナの皮を踏んですべって転ぶ」という偉業を達成しました。定番表現ですが、実際に起きるんですね。感動しました。次回は「誰かに開けられたドアに鼻をぶつける」という事案に挑戦したいと思います。

ところで、昨今一部界隈で話題になっておりました「休眠口座」活用の話ですが、どうもザル法が通りそうで問題じゃないかと議論になっております。

と言いましても、話の発端はとても道理の通ったもので、いまの行政組織では目の届かない社会活動を担っているNPOやNGOに対して、休眠口座の資金を利用し活動を支援・助成できる仕組みを用意することで必要な社会起業を側面支援していこうという内容です。お話の発端は、病児保育のNPOを運営されるなど活動的な社会起業に従事されているフローレンスの駒崎弘樹さんが、韓国やイギリスなどで活用されている「休眠口座の資金を社会活動に従事するNPOなどに支援する枠組み」を日本でも実施してはどうかとかねてから検討を重ねてきたものです。

「休眠口座基金」を貧困・被災地支援対策にフローレンス代表・駒崎弘樹氏インタビュー

日経でも休眠口座に関する社説が掲載されました

ところが、法案の中身が判明し、超党派議員が議員立法に向けて動き出すところで微妙な話がたくさん見えてくるようになりました。

つまり、

『韓国(イギリス)では、休眠口座で消失した資金をガバナンスのしっかりしたファンドや国債など安定財源で運用し、その利益をNPO/NGOなどに分配する』

話だったのが、なぜか日本では

『発生する休眠口座の資産をそのまま管理団体に払い込み、NPO/NGOに分配する』

話になってしまいました。

意味が分かりません。年間800億円ほど発生する休眠口座のお金(実際には払い戻しがあるので年間450億円程度)が、NPO界隈に分配されるという話があるとすると、ただでさえその活動の政治性や妥当性に問題が指摘されることの多いNPO/NGO界隈が、にわかに一大利権ビジネスになってしまいます。

法案の概要絵巻。誰がどう決算報告するのか良く分からないピタゴラスイッチ状態。
法案の概要絵巻。誰がどう決算報告するのか良く分からないピタゴラスイッチ状態。

もちろん、駒崎さんの運営しておられるフローレンスをはじめ、日本にはたくさんのまともなNPO/NGOがたくさんあります。また、これらの活動の大きな庇護者として、日本船舶振興会(競艇)を後ろ盾にした日本財団が多くの意義ある活動を助成し、日本社会の優れた面を引き出して貧困問題や弱者に対してかけがえのない活動を促してきたことは重大な貢献でありまして、これを否定するものではありません。

しかしながら、社会起業、社会活動であるからといって、これらの活動が一般の法人と比べて緩い監理や規定で実施してよいとする考え方(アファーマティブアクション)を適用するのは適切ではありません。手弁当でやる小さな組織活動ならいざしらず、億単位でお金が動く組織である以上、きちんとした管理がなされなければ不正や事故が増え、信頼を低下させてしまいます。なにより、休眠口座の本来の資産の所有者、つまり預金者に対しどのように信頼性を担保し保全するのか考えなければいけません。チェック機能が乏しい現行の法案が実行に移され、例えば不良NPOに対して助成を行うことに対するガバナンスがどう機能されるのか良く分からないということですね。

さっそく、言論NPOが問題を討論しておりますが、本来は第一条件である預金者保護がないがしろにされ、チェック機能が不備のまま法案が通った場合の課題について議論されています。

成立目前、休眠口座活用法の実態とは

休眠口座の活用案

「休眠口座基金」創設の提言と調査依頼

で、法律案の全文と概要を入手したので吟味してみたのですが、金融機関から出た休眠口座を預金保険機構が預かり、これを「一般財団法人」たる「指定活用団体」に交付する手続きになっているのですが、いきなりこれが一般財団法人である理由が分かりません。

前述フローレンス駒崎さんにもお話をお伺いしましたが、公益であると使途や活動が所轄官庁に縛られることが多いので一般財団法人にされたという経緯を伺いました。もしもそれであればなおのこと、公益性を担保できる仕組みを用意しなければならないのではないでしょうか。

また、その「指定活用団体」から「資金分配団体」へ小分けにされ、さらにそこがNPO/NGOに対して活動資金を拠出する内容になっていますが、活動内容に対する監査をどこが行うのかまったく記述がなく、法律上も監督・報告義務が上位団体に対して発生するだけで通常の監査が行われるのみの内容になっています。そして、指定活用団体や資金配分団体の監査に関する説明もありません。

「毎年発生する休眠口座のお金を毎年全力でNPO/NGOに振り分ける」という掟破りな感じの法案ですし、これらのNPO/NGOにお金が入り始める基準も書いておらず、利益相反に対して何の規定も無いというザル法で良いのか理解できません。これであれば、問題が起きるたびにNPO/NGOに対する評判が悪くなって、加担した議員も一緒になって馬鹿にされるだけの内容になりはしないか、非常に不安であります。

自民党や民主党議員に渡された資料も全文を入手し、また駒崎さんや民主党本部からも内容の確認をしましたが、どうも諸外国での事例において重要な記述が一部省かれています。

それは先に述べたとおり、まず充分な預金者保護が行われている前提で、組成された基金の「運用益」をNPO/NGO活動に対して寄進され、またNPO/NGO活動そのものについて一般法人と同じく活動実態を監理されるというガバナンスを整備しているという点です。

綺麗事を言って議員を乗せて騙したわけではないと思いますが(とりわけ公明党に対して)、基金に交付された金を全額助成に使うのと、決算報告がきっちり行われるファンドを経由して社会事業を行ったり、安全な金融商品(国債など)で運用された利益を活用するのとでは、全然事情は異なります。この説明、議員は分かってますでしょうか。

今回の法律では、指定活用団体(韓国では「基金」にあたる)が原資とする休眠口座のお金を交付されるや「使いきり型で分配」されるので、毎年お金が不当に積み上がったり、分配されたりします。基金のどれだけが資金分配団体に使われるのか、その活動の成果をどう統括し管理するのか、法律からはコンプライアンスがまったく見えません。預金保険機構から休眠口座の資金を交付された一般財団法人が、毎年その金額を使い切らずに財団内に資産を積み立ててもOKという、国立競技場問題を引き起こしたJSCのような話になって、NPO御殿とか呼ばれる豪華なビルが建ちかねません。

日本において、硬直化した行政の下にある社会企業(NPO/NGO)に対し、しっかりとした収入の基盤を用意し活動が必要な人たちの扶助を進めるのは極めて大事なことですので、駒崎さんや日本財団、内閣府各面々の真摯な活動には頭が下がります。そういう重大な活動を担う人たちであるからこそ、運用や責任について事態を想定した明確な法律で実施されることが求められると思います。

必要なことは、NPO/NGOという衣を着た王や貴族を作ることではなく、日々の生活に困っている本当に活動が必要な人たちに然るべきサービスを提供できる枠組みを構築することだということを、関係各位には改めて理解を求めたい次第です。

活動自体が性善説であることは何も問題が無いのです。善意でないと取り組めない仕事ばかりですから。ただ、仕組みを作る場合には、とりわけお金が流れるルートを構築する場合は性悪説であるべきです。問題が起きて、制度やNPO/NGOへの信頼が失墜してからでは遅いのです。また、日本船舶振興会が活躍できていたころは、まだ日本が終戦から戦後成長の神話の中でどさくさに紛れることのできていた時代でした。いまはそうではありません。そのあたりもきちんと踏まえて、NPO/NGOのような社会にとって重要な活動をする日本人のための制度を構築していただきたいと願っています。

<補足>

当原稿を掲載するにあたり、有識者の間で見解が分かれている部分があります。

1. 韓国もイギリスも交付された資金の運用益だけではなく、基金となる財団の運用財産も使ってNPOに直接助成を行っているのではないか

韓国・微笑金融財団も一部の有力な政府系金融への融資・助成が行われた事業もあり、途中で、最高裁に違憲と判断されたため、集めた休眠口座の元金を使用できなくなりました。そのため運用益のみで活動することになった経緯があります。

韓国の休眠預金と日本の休眠預金の動き(女性・市民コミュニティバンク

理事長 向田映子女史)

イギリスBSCについては、IFRS準準拠として、ソーシャルインパクトの評価額の下駄さえも履かずに財務報告している状態で、これでさえ、イギリス国内でソーシャルプロパティを拠出する適格条項に抵触しているのではないかということでaudit(監査)強化の話が出ている状態です。

通常の上場企業と同等の決算報告書や助成された事業に対する細目だけでなく、SRoI(Social return on investment)と呼ばれる社会活動そのものがどれだけ社会に貢献できたかを示す指標も明示されており、社会事業投資という観点からすれば利益相反が起きにくいか、外部からのチェックが充分に可能な状態になっています。

イギリスの立て付けについては、預金者の資金であるという財産権の面を配慮して預金者が気軽に休眠預金を確認できる検索リストを作成し、資金分配団体は、複数の銀行代表者からなるシェアホルダー(80%の投票権)によって、統治されています。NPO/NGOへの助成はこれらの銀行代表者や事務局が基礎基金の運用利回りを見ながら休眠口座全体の利益を喪失しない規模で行われており、実質的な投資額のシーリング(上限)となっているのが特徴です。

イギリスを単純に比較対象に出来ない理由は、立命館アジア大学の上原優子女史が発表したレポートにも書いてありますが、上記BSCに拠出をするBig Lottery Fund(英国国営くじが原資)が元請になり、またBSCへの投資もこのBLFと銀行団の協調出資が行われて透明性が担保されているという点です。

英国における休眠預金の現状

韓国の場合もイギリスの場合も、休眠口座の財産権を厳重に管理し、リスクのない運用を行うという大前提からスタートしており、日本での現行法案のような「とりあえずやってみよう」というイージーな話ではないことはご理解いただけるのではないかと思います。

2. 休眠口座のお金は毀損しないから大丈夫じゃないか/休眠なのだから財産権に過剰に配慮しなくてよいのではないか

指定活用団体以下NPO/NGOの事案に何らかの問題があり、賠償責任等が発生して財源が毀損する可能性は指摘されますが、原則として預金者保護には問題がないとされています。

ただし、それは預金保険機構が補填するからそう言える話であって、コンプライアンス的に大丈夫なのと、仕組み的にセーフティーネットが働くのとでは話は異なります。

また、休眠口座の預金は過剰に財産権を護持しなくてもよいのではないかというお話がありますが、全銀協に取材をかけたところ、これらの休眠口座からの復活は基本的に預金者本人が亡くなられて相続などで金庫を開けたとき休眠していた銀行通帳が見つかったなどの事例が多数あり、故意や過失で銀行口座に資金があることを失念することは一般的であるという認識があります。だからこそ、イギリスでは気軽に銀行口座を外部から検索できる仕組みが併設され、預金者保護や状況確認の環境を整えて、財産権の侵害が行われない確認が充分担保できてから一連の事業がスタートしているわけです。

また、議論としてよく出るのが「休眠口座」は死蔵されている資金だという認識です。当然のことながら、休眠口座は預金ですので、金融機関からすればこの資金を貸し出しや運用に回して商業銀行としての活動を行っています。つまり、わざわざNPOやNGOなどの社会事業への助成をしなくても死蔵されることなく運用されています。

考えるべきは、これらの資金が通常の銀行業務で得られる社会的リターンよりも、NPO/NGOでの社会企業への助成、投資によるリターンのほうが大きいかです。この辺はほとんど神学論争であり、立場によって見え方は変わります。私個人としては、NPO界隈がこれらの政府資金がついてお手盛りになり、新たな利権構造となることを避けるためにも透明性を確保するべきで、監査を充実させガバナンスを効かせる方法を最初に考えておかないといんちきが横行した後で「やっぱり駄目だったね」となっても引き換えしができない「もんじゅ状態」になることを恐れます。最初から、どうガバナンスを考えるかはちゃんと考えておくべきではないでしょうか。

(追記 17:00)

当事者のフローレンス駒崎さんから、応答のブログエントリーがありました。

ご関心のある方は、こちらも併せてお読み戴ければ幸いです。なぜか記事期日が8月2日になっているのは、本記事を私が駒崎さんに事前にお送りしていたときに予定稿でも書かれたからでしょうか。

やまもといちろうさんの休眠預金に関する記事について(駒崎弘樹BLOG 15/8/2)

本件内容については「これから細やかなところは内閣府令で決めていく」という話がメインになっていますが、韓国の事例は日本の本件検討では参考にならないと思います(韓国のような社会事業がそもそも貧困なところを基準に日本の政策を考えるのだという話なら別ですが)。ヒヤリングをかけた限りでは、NPO学会が持つ懸念について駒崎さんの例示された参照先ではまったく払拭されないと思うので、継続した議論をしていただきたいと思っております。