日本人の「公正性」やプライバシー問題への向き合い方

山本一郎です。ヤフーニュースでこんなことを書くのもどうなのかと思いながら雑記調に記すわけですが、表題のように日本のデータ資本主義周りの議論でどうしても抜け落ちがちなのは「日本人のデータをどう社会が守っていくのか」や「データの利活用をどのように法整備していくべきなのか」というあたりです。

何なのかというと、以前、ネイティブ広告関連の記事を出しました。続報を書こうと思っているところではありますが、アメリカではFTC(米国連邦取引委員会)がストレートな議論を先導しており、議論になっているところであります。

「いいね!」ボタンを押させる行為を米国連邦取引委員会が明確に規定(日経ITpro 熊村剛輔 15/06/02)

企業やYouTuberに暗雲、FTCがガイドラインでTwitterや動画も明確に規定(日経ITpro 熊村剛輔 15/06/30)

Yahoo!ニュースへの広告記事配信、規約で禁止も抜け道探しは止まず(日経デジタルマーケティング 小林直樹 15/6/22)

ヤフーニュースでこんなことを書くのもどうなのかと思うところではありますが、SNSやニュースメディアを通じた広告、それを活用して企業がユーザーとコミュニケーションを取っていくにあたって、何が公正かを良く考えるべきだと強く思います。例えば、ある感動的な記事や動画が企業スポンサードであったとき、そのメッセージ性ある感動を提供しようとした企業側の思惑は明確です。ただし、それを実施するにあたって企業から金が払われているということが明示されないまま、感動的な記事や動画の作中に当該商品の画像やカットが入っていたとき、それは好ましいコミュニケーションであり、公正なものだと思えるかどうかという話です。

それは、SNSで行われる宣伝、ネイティブアドの広告クレジット外しのような古典的ですでに現行法でも抵触が疑われるものだけでなく、今後主流になっていくであろう動画リワードも含めたよりリッチな宣伝をも同じように公正さが求められた結果、一定のルールをしかなければ駄目でしょうという方向に行くはずです。そして、それはいみじくも熊村さんが書かれた「企業やYouTuberに(とって)暗雲」なのかという話になります。

さらに、これらの問題は欺瞞性の高い取引の温床になっていると指摘されます。小林さんの記事にもあるとおり、本来であれば企業広告であるにもかかわらず、あたかも中立でノンペイドな記事だと思わせておいて、実は企業から戦略PR会社や広告代理店などを通じて抜け道を探しながら広告記事を配信してしまうという具合です。さらには、大手YouTuberでも、かねてから指摘されていることですが「メールでやりとりせず、契約書を取り交わさずに支払われる金」で企業が人気YouTuberを起用し、実質的なペイド広告動画をYouTubeやニコニコ動画に中立を装って掲載する事例は横行しています。そのうち実名で記事にしたいとは思っておりますが、書くのが面倒くさいンゴねぇ…。

で、なぜこのような欺瞞的取引が横行するのかというと、そういうスレスレなことをやるほうが効果があり、有利だと思われているからです。

欺瞞的な取引によって収益を上げることを企図している企業やYouTuberからすれば暗雲でしょうが、薄く広く騙されているのは文字通り消費者であり、そのような不公正があった場合、しかるべき消費者行政のあり方を模索し、実態調査をして問題業者については警告、場合によっては摘発し、取引環境を正常の状態に戻していこうという努力をするのは当然のことです。

そして、今回はFTC、FCCともに不公正な取引、欺瞞的取引の解消を行うためにまず企業からのリレーションシップが明示されない場合のレギュレーションを発表するものであって、順当かつ適法に広告宣伝を行い、妥当なレベルでのユーザーの個人情報を収集しビジネスを行っている大多数の企業にとっては何の問題も制約もありません。ただし、今後は動画広告・リワードや、個人情報取得と運用に関する線引きが出てくるでしょうし、もう少し踏み込んで話が進んでいくのではないかと感じます。

裏返せば、企業か個人かにかかわらず、金をもらって記事を書いたり発表するのであれば、金をもらっていると明示するべきで、利用者の個人情報を回収するのであれば何故回収し、どう使うのかを明らかにしろ、そしてそれを守れというだけの話です。当たり前の公正な取引を行って透明性のある市場にするために当局が消費者保護のルール作りを行うことは必要なことなのでしょう。

別に「だから、日本人は遅れている、知るべきだ」とか「日本の消費者行政はもっとしっかりするべきだ」などというわけでもなく、海外の動向をきちんと見ながら、日本人が日本社会における決め事をしっかり議論して決めていければいいんだと思うんですよ。産業界も消費者団体も法曹界もいろんな意見があるでしょうし、何を日本人の正義として物事の改善に向け活動していくのか、というプリンシプルが問われているのだ、と考えています。

ヤフーニュースでこんなことを書くのもなんですが、ある種のリトマス試験紙として、このニュースを見て「アメリカは凄い、もっとやれ。日本でも悪質な事例はたくさんあるだろう、日本でも消費者保護のための懲罰的賠償金制度を作るべきだ。総務省頑張れ」となるか、「アメリカはやりすぎだ。そうはいっても現実の問題として通信量が増えすぎて中立性問題が深刻になれば通信業者はデータを大量に使う一部のユーザーのお陰で潰れてしまう。公平性は分かるが現実に配慮すべきだ」と考えるかは、読者次第だということです。

FCC、AT&Tの「無制限」データプランに罰金1億ドルの裁定(TechCrunch 15/6/18)

もちろん、私としては全人口の8%ぐらいしか使わないソーシャルメディアの重要性を必要以上に喧伝し、メディアリレーションの健全化を阻害するような議論をするのは良くないとは思っていますが、まあここは価値観や立場、考え方それぞれ。日本にとって、最適な結論がちゃんとでればいいなと思っております。