ドローン規制について、一部の経産省の人が何か言ってます

 山本一郎です。ネット炎上が規制されたら人生の楽しみの半分は無くなりそうだと思う派です。

 ところで、首相官邸屋上事件や未成年暴走事件に端を発して俄に盛り上がるドローン規制を巡る議論ですが、ここに来て産経が炎上を目論んだ釣りネタらしきものを投入してきたので、素直に釣られてみることにします。

「ドローン規制はナンセンスだ!」焦りにじませる経産省 このままでは燃料電池車の二の舞に…先端技術の海外流出も(産経新聞 15/6/2)

ドローンの危険性がにわかに問題視され、内閣官房が大慌てで規制に動き始めた。だが、これを内心快く思っていないのが経済産業省だ。ドローンなどの無人機やロボットの普及・開発を支援し、新たな市場形成を目指す同省にとって、規制強化はその流れに逆行しかねないからだ。無人機の開発技術では米国や中国に水をあけられているだけに、過度な規制に「待った」をかけたがっている。

出典:産経新聞

 この記事、「経産省のある職員」という肩書きのもと、かなり言いたい放題です。

ドローンの運用規制をめぐり、内閣官房を中心に登録制や免許制で取り締まる動きがあることに、経産省のある職員は「登録制や免許制はナンセンス。効果はほとんどないだろう」と断言する。

(中略)

免許制についても「操作が簡単ならば誰でも免許が取得できる。免許制にして何を制限できるのか。ユーザーの不満をかき立てるだけだけだ」と手厳しい。

(中略)

官邸屋上でドローンが発見された問題について、「はっきり言って規制不備による問題ではなく、警備上の問題」と一刀両断。

出典:産経新聞

 いいですね。かなりの本格派の馬鹿が経産省におられるらしく、好感が持てます。

 酔っ払った御仁がどこかの飲み屋で世を憂えてぶつぶつ言っているだけなら取り立てて気にする必要もないわけですが、経産省の中の人という立場をわざわざ明らかにした上でこうした意見を述べておられるということであれば、色々と諸方面に影響が及ぶことを意図しての発言と考えるべきなのでしょう。

 記事の中で取り上げられているドローンですが、これは個人が趣味で飛ばすレクリエーション用途のものではなく、営利事業で扱われる商用・産業向けドローンについての規制ということで議論されているものと解釈されます。では、はたして本当に商用・産業用ドローンに登録制や免許制はナンセンスなのでしょうか。

 ドローンは無人の飛行物体で、その運行は遠隔操作もしくは自律動作によります。この運行の仕組みですが、実は他にもよく似た乗り物が最近よく話題になっています。何かというと自動運転車です。自動運転車は理論上、人間による運転操作を全く必要とせず自律した形で走行し、また人間のようなケアレスミスによる事故が起きることもないと言われています。例えば、Googleはこれまで過去6年間に渡って公道での実験走行を行っていますが、その間に起きた11件の事故原因で自動運転車に問題があることは1度もないそうです。

Googleの自動運転カー、6年間のテスト走行で遭遇した事故は11件(Techcrunch 15/3/13)

遭遇した11の事故のすべてにつき、責任は自動運転カー側にあるのではなく人間の側にあるのだとのことだ。

出典:Techcrunch

 しかし、それだけ優れた性能を発揮できそうな自動運転車でも、現時点ではまだ完全無人による公道運転実験はむつかしいようです。

世界で初めて商用の自動運転トラックが公道での走行を認可される(GIGAZINE 15/5/11)

ナンバーを取得した自動運転トラックは高速道路で自動運転走行を行なうことになりますが、ドライバーは常時運転席に座ってシステムを監視する必要があり、必要に応じて運転操作も可能となっているので、トラックが誰も乗せずに街中を暴走……という心配は無用です。

出典:GIGAZINE

 また、Googleは人間が操作するためのハンドルやアクセス・ブレーキペダルを一切排除した自動運転車を公開して話題となりましたが、カリフォルニア州ではそうした車の公道実験を許可しませんでした。

グーグル「ハンドルなし」自動運転車に壁、カリフォルニア州の新規則(ウォール・ストリート・ジャーナル 14/8/22)

米グーグルは5月、ハンドルやブレーキ・ペダルのない全自動運転車を披露して注目を浴びた。だが全自動運転車を走らせるという目標の前には、カリフォルニア州の新規則が立ちはだかっている。

 9月16日に施行される規則は、公道を走行中は運転者が必要に応じて自動車の「即時の物理的制御」を行えることを義務づけている。つまり、規則策定に関わった高官バーナード・ソリアーノ氏によると、自動車にはハンドルとブレーキ・アクセルのペダルが必要になる。

出典:ウォール・ストリート・ジャーナル

 一般的に新しい技術の実用化に熱心かつ積極的であると言われる米国においてさえも、実社会の中で人命に直接かかわるような事柄については慎重であることが分かりますし、自動運転車の走行には道交法の厳守も求められているわけです。誤った運用をすれば重大事故を起こし得る乗り物に関して社会的な運用ルールが必要なのは当然ですし、全く同じ理屈からドローンについても米国では航空法などの枠組みでどう問題を解決していくべきかが議論されています。そのあたりの話題については過去に当ブログでも記事として取り上げました。

ドローンの商業利用ルール案が米国で発表されましたがこのままでは宅配に使えないようです(15/3/25)

 翻って、日本においてはそういう運用ルール作りが技術や経済の成長を妨げる大きな要因となっておりナンセンスだとするのが一番最初に挙げた産経記事の主張で、経産省の中の人達がそうした言説の首謀者に仕立て上げられてしまっているのですが、これはそのまま素で受け取めていいものなんでしょうか。どうも無責任な誰かのポジショントークとしか読めないんですよね。記事の中盤で触れられている燃料電池の話にしても、裏を考えるとどこまで真面目な話なのかもよく分かりません。

水素社会は切り札論、急浮上の不可思議(日経テクノロジーオンライン 15/5/20)

 理想を言えば、経産省だけではなく各関係省庁がお互いに自らのメンツや利権だけを主張しあうのではなく、しっかりと国民の安全を確保しつつ、新しい技術や産業の実験ができる機会や運用ルールを一つ一つ積み重ねていけるように歩み寄っていただきたいと願うばかりです。でも、それはやっぱりむつかしいのですかね。

 ところで、最近何やら騒がしい中村伊知哉せんせが、こんな記事を寄せていました。

IT政策研究会:ドローンとIoT --- 中村 伊知哉

 そうですか。