最近のスマホアプリ環境ではリタゲが効かないらしい件

 山本一郎です。最近、Twitterであまりにも「レイバンのサングラスを買え」というスパムがしつこいので、ついECサイトへ「レイバン」の検索で飛んでいったところ、某楽天から大量の「レイバンどう?」「レイバン興味あるんでしょ?」「レイバンは? ねえ、レイバンは?」という広告が貼られるようになってしまいました。買う気もないのに検索した私が悪ぅございました。余計なことをしたなあと反省しております。

 ところで、スマホが普及して多くの人がブラウザではなく各Webサービスの専用アプリを使ってネットへアクセスするようになることで、これまでのネット広告業界の常識が色々と通用しなくなってきているという話が一部で話題となっておりました。

深刻になってきたwebビュー問題(インターネット広告について考えてみた 15/3/11)

以前は検索流入が大半を占ていたが、facebookのようなソーシャルメディア、Smartnews、Antennaといったキュレーションメディア、naverまとめやヤフーさんなどからの外部リンク=参照流入と呼ばれる種別の流入が増えてきている現状があります。

(中略)

そういった流入は、あくまでも各社のアプリの中でのアプリ内viwer=webビューによって作られていることは余り意識されていないと思います。(かく言う自分もそこまで意識できていませんでした)

(中略)

webビュー上ではリターゲティング広告が効かないのです。(これは広告マネタイズを担当している人には大きい話ですね)

出典:インターネット広告について考えてみた

 簡単かつ乱暴に話をまとめると、これまで稼ぎ頭の一つだった広告手法がここに来て使えなくなってきたということです。上記記事の中にある「リターゲティング広告」とは何ぞやということですが、これも簡単には以下のような説明になります。業界の中では略して「リタゲ」と呼ばれることが多いです。

ネット広告の手法の一つで、自社のサイトを訪れたことのある人に限定して、再訪を促すような広告を配信すること。

(中略)

自社のサイトに一度でも来たことのある人は関心の高い層である可能性が高いため、商品の購入などの成約に結びつく効果の高い手法であるとされるが、やりすぎると「しつこい」と思われてかえって敬遠される危険性もある。

出典:IT用語辞典 e-Words

 リタゲがどれほどネット広告業界で盛り上がっていたかは、4年ほど前の業界向け記事見出しを見るとよく分かります。

リターゲティング広告――マーケチームが歓喜する高パフォーマンスの活用法と注意点(Web担当者Forum 11/5/9)

最初にリターゲティングのテストをしたときは、それはもう目がキラキラと輝くような結果だった。そして、それ以降も、リターゲティングのパフォーマンスにびっくりし続けている。

出典:Web担当者Forum

 この文章だけ読んでいると正に夢のアドテク到来といった趣を感じさせ味わい深いです。これだけ美味しい手法だったのですから、それが通用しなくなるとすれば中の人達もガッカリでしょうが、考えてみれば移ろいやすいネットの世界で4年も通用したのですからそれで十分ということかもありそうです。

 で、すでにこうした事態が起きるであろうことを踏まえて、次の技術も色々と研究されており、ほぼ実用の域に達している手法も登場してきております。

リワード広告におけるCookieも端末IDも使わないFingerPrintを使った計測方法について(That's the Way to GO! 13/10/23)

FingerPrintは「アクセスする端末のブラウザから取得できる情報(ブラウザのバージョンやプラグイン、解像度、IPアドレスなどなど)から端末を推測する技術」です。

(中略)

精度的にはテスト的にプロモーションを何度か行ったのですが、ほぼ100%に近いかたちでの照合が行え、「リワード広告におけるID利用は可能」と判断しています。

出典:That's the Way to GO!

 確かに不可能ではなさそうなんですよね。

 まあ、広告事業者側とすれば、これまでのブラウザだけを相手にしていれば良かった状況に較べると手間も費用もかかるので大変というのはあるのかもしれません。

 一方で、このFingerPrintという手法を高度化させていくと、エンドユーザー側では広告事業者等からの追跡回避が困難になるという問題も生じてきています。

Canvas Fingerprintを試してみる(Gateway Staff Blog 14/7/29)

この手法はユーザー側では「トレースされている」ことが分からないですし、cookieと違い、ローカルには何も残らない&この機能だけを止める方法がないために基本的に防ぎようがありません。Javascriptそのものを無効にする方法もありますが、今どきのwebサイトでJSを止めるとほとんど何もできなくなってしまうので現実的ではないでしょう。

(中略)

「トレースされて実害はなに?」と感じる部分もあろうかと思いますが、ある人がポルノサイトにアクセスしていて、それをトレースされ、バックでそのIDが売買されるようになると、この人が昼間仕事でどこにアクセスしてもポップアップやサイドバーの広告にアダルト商品が表示される、そんな可能性もあり得るわけです。

出典:Gateway Staff Blog

 はい、仰るとおりですね。プライバシーフリーク的視点で考えるとこれはかなり嫌な技術です。Canvas Fingerprint自体はまだ100%完璧ではないようですが、これが完成した暁には色々と困る人は少なくないかもしれません。なんとも情け容赦のない技術であります。広告事業者はそこまでユーザーを追い込みたいのかという疑問が無きにしも非ず。リタゲ的な技術を利用した広告サービスが必ずしも悪ということはなく、エンドユーザーにとっても十分にメリットがあるものは認める次第ですが、その紐付けについてはユーザー側が主導権を持ってオプトインできるような形であれば誰も文句は言わないのではないでしょうか。まあ、そこのバランスを誰にとっても納得できる形で実現するかが一番むつかしいわけですが。

 こんなものがうっかり普及してしまうと私への広告のかなりの割合がレイバンになってしまうのではないかといまから戦々恐々です。どうにかならないものなのでしょうか。