東京駅開業100周年記念Suicaにケチが付きまくりな件

 山本一郎です。他人にケチをつけるのが苦手です。

 ところで、JR東日本が東京駅開業100周年にあやかって、ちょっとした鉄道マニア向け記念品ビジネスくらいに考えていたであろう企画が、とんでもない厄介事にまで発展したという、ある意味で商売はむつかしいということを改めて考えさせてくれる事例がありましたので、簡単に振り返ってみることにします。

 まず、ことの起こりは東京駅だけで記念Suicaを限定販売しようとしたことにあります。

東京駅開業100周年を記念した限定SuicaがJR東日本から(チェッカーズ 14/9/29)

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、東京駅の開業100周年を記念した『東京駅開業100周年記念Suica』を、2014年12月20日に数量限定で発売する。

(中略)

数量は15,000枚限定となっており、1人3枚まで購入可能だ。

(中略)

発売日時は、2014年12月20日のAM8

出典:チェッカーズ

 で、発売日当日がやって来てみると、予想もしていなかったような阿鼻叫喚の事態が発生。当時の状況は様々なメディアが報じていますが、やはりこの手のニュースは産経が得意なようでして、まさに水を得た魚のように力のこもった記事を掲載しておりました。

「動かぬ群衆はダイナマイト」爆発寸前だった「記念スイカ」販売中止騒動 「正直者にバカ」をみさせたJR東“ド素人警備”(産経ニュース 15/1/22)

 大見出しはもちろん、記事中の中見出しでも「想定は最大5千人…前例踏襲で整理券も配らず、会場整理は制御不能」「ルール破りの徹夜組を黙認…買えなかった来場者から『電車代返せ!』」と乗りに乗っている感があります。

 Suica発売イベントそのものは、深刻な怪我人が出るような大惨事に至らずで良かったというほかありません。結局、購入希望者全員が入手可能となるような販売方法に切り替わるわけですが、その結果、受注枚数はなんと当初予定していた数の300倍以上に膨れあがることとなりました。単純にこの数だけを見てタヌキの皮算用をすれば売上は100億円弱となり、普通ならJR東は万々歳と言えそうなところですが、実はこれでまた問題が発生しております。

年度内発送は約10万枚のみ 499万枚の東京駅100周年Suica、発送完了は来年3月に!(ASCII.jp 15/2/18)

受け付け枚数は499万1000枚。このうち約10万枚は本年度内に発送予定だが、残りは本年6月中旬から2016年3月頃までの発送になるという。

出典:ASCII.jp

 購入希望者のうちラッキーな10万人はあと1か月ほどで念願のSuicaを手に入れられるわけですが、ついてない人の場合はこれから1年以上も待たされることになります。こうなると、もしかすると今度は大量のキャンセルが発生することもJR側は覚悟しなければならないかもしれないですね。

 ほかにも、この想定外の莫大な受注数はJR東にとって色々と負担になっているようです。

JR記念スイカ499万枚、関係者複雑 売れるほど赤字?(日本経済新聞 15/2/19)

記念スイカの値段は台紙付きで1枚2000円。内訳は500円の預かり金(デポジット)と、1500円分の入金(チャージ)。送料は同社負担で、販売に伴う人件費もかかる。

 販売した分だけJR東の利用が増えれば収入増になる。ただスイカは他社線や加盟店舗などでも使え、その場合は同社の収入にはほとんどつながらない。「売れれば売れるほど赤字になるのではないか」。社内からはこんな声も上がる。

出典:日本経済新聞

 なるほど、濡れ手に粟というほど美味しい話でもないようです。面白いのは、日経の記事によると、記念Suicaという性格上使われることなくそのまま保管されて事実上の死蔵となる可能性も高く、Suicaは10年間使われなければ失効となるため、その時には費用を回収できるのではという指摘をする会計士もいるそうです。しかし、10年はちょっと長いですね。

 まあ、JR東としては今回の件は色々な面で勉強になったことと思います。また、同業他社もこれを他山の石として、記念品ビジネスは慎重に取り組まれるのが良いのではないでしょうか。やや古い情報になるのですが、小田急でファン向けのグッズビジネスを担当されている方のブログ記事がなかなか示唆に富んでいるのでご紹介しておきます。

限定版 Bトレインショーティのお話。(小田急グッズショップTRAINSのつぶやき。 10/2/25)

ほかの鉄道会社では販売数を限定しているところもありますが、小田急電鉄オリジナル版は逆に「数量限定は基本的に行わない」というポリシーで製作しています。

出典:小田急グッズショップTRAINSのつぶやき。

 このあたり、ファンビジネス、二次利用ビジネスのむつかしさといったところなのでしょう。一方で、想定が甘く引き換えしがつかない事態になること、それへの誠実な対応をすることで見た目の売り上げ以上のロイヤリティを消費者から得られ、信頼される会社になることも可能でしょうから、Suica利用者情報をきちんと適正に管理してもっと愛されるJR東日本になっていっていただきたいと願う次第であります。