飲み屋だって図書館やってもいいじゃないかという新しいムーブメントを考える(訂正あり)

 山本一郎です。忙しいときほど余計なことをしたがるタイプです。

 ところで、ある種特殊で意外な差別化を図ることによって高級感を醸し出すイメージ商売とが跋扈しすぎている感がなきにしもあらずですが、このところ有料会員制図書館が静かなブームらしいですね。

有料会員制図書館が続々オープン、なぜ静かなブーム?民間企業が街おこしを担う例も(ビジネスジャーナル 13/12/24)

今、少しずつ増えつつあるのが「会員制図書館」だ。2003年に、森ビルが運営する会員制図書館「六本木ライブラリー」が、六本木ヒルズ(東京・港区)にオープンした。10年が経過したいま、30代のビジネスパーソンを中心に約3,000名の会員が利用している。

 森ビルは、10年7月には「平河町ライブラリー」(東京・千代田区)、今年7月には「アークヒルズライブラリー」(東京・港区)をオープンした。このことから、確実に会員制図書館のニーズがあることは想像するに難しくない。

出典:ビジネスジャーナル

 上記記事では、こうした有料会員制図書館を「隙間産業でも差別化でもない」と評し、「ビジネス然としたものよりも、民間企業が街おこしを担う姿と、街やそこに住む人たちへの愛情だった」とまとめていますが、ある意味でその地域のイメージを特徴的で特殊な組み合わせの施設にリンクさせて付加価値を上げていこうという思惑が読み取れて素敵です。悪い意味ではなく。

 で、こうした有料会員制図書館が増えつつある状況について、弁護士の「複写と著作権について利用者の立場から考えて」おられる末廣恒夫氏が著作権的な視点から論考されておりましたので取り上げておきます。記事が書かれたのは2009年とやや時間が経っておりますが、状況としては今も変わらないことと思われます。(末廣氏をなぜか弁護士の方と一方的に勘違いしておりました。お詫びいたします)

有料会員制図書館の会員向け貸出には貸与権は及ばない(Copy & Copyright Diary 09/6/4)

GIGAZINEのヘッドラインに取り上げられたが。(Copy & Copyright Diary 09/6/4)

つまり、「書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するもの」で無い場合は「料金」に該当しない、ということだ。

年会費という形で徴収している会費が、貸与の対価という性格だとは私庭思えない。

念のため、記事だけじゃなく、宝塚メディア図書館のサイトの記述も見たが、貸し出しサービス以外の特典も多く、年会費は「貸与に対する対価」ではないと思われる。

出典:Copy & Copyright Diary

公立図書館では有料貸出は図書館法違反、私立図書館では有料貸出も適法だ。

グレーでは無い。白黒はっきりしている。

出典:Copy & Copyright Diary

 個人的には「私には」のタイプミスで庭が出てきているところに深い趣を感じる記事です。普段から庭という単語を頻出している落ち着いた生活を感じさせ、好感度が上がります。

 で、こんな背景を理解した上で、渋谷に会員制の図書館「森の図書室」がクラウドファンディングによる資金調達で事業を開始したという話題を読んでみます。

渋谷に深夜まで営業する「森の図書室」が誕生 - 飲食も可能な“本と人がつながる場所”(ファッションプレス 14/6/12)

2014年7月1日(火)、東京・渋谷に深夜1時まで営業する図書室「森の図書室」がオープンする。場所は渋谷駅から徒歩7分という好立地。

(中略)

蔵書は1万冊を予定していて、オーナーが自ら選書。貸出は無料で誰でも利用可能だが、本の管理をFacebookのシステムで行う都合上、Facebookでの登録が必要となる。

そして、図書室のみの営業では運営ができないため、会員制の飲食としての営業を行う。いわゆる“静かに本を読む図書室”ではなく、お酒を飲んだり音楽を聴きながら、和気あいあいとした雰囲気の空間となる。

出典:ファッションプレス

 先に挙げた末廣弁護士氏の論考を元にすれば、私立図書館として運営される限りは利用料等が発生しても問題はなさそうですが、はたしてこの森の図書室がそうした私立図書館として認められるのかどうかが問題となりそうです。政府が定めるところの図書館法によれば、図書館とは以下のように定義されています。

(定義)

第二条  この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。

2  前項の図書館のうち、地方公共団体の設置する図書館を公立図書館といい、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人の設置する図書館を私立図書館という。

出典:図書館法

 森の図書室のWebサイトを見ても、「一般社団法人若しくは一般財団法人」に類する資格は明示されていませんので、いわゆる私立図書館という定義には当てはまらない可能性があるかもしれません。杓子定規に当てはめるのはよくないとは思いますが。そうなってくると、「図書室のみの営業では運営ができないため、会員制の飲食としての営業を行う」という説明からも、森の図書室は飲食事業者という立ち位置にあると判断されることになるかもしれません。では、はたして飲食事業者が集客行為の一環として図書館のような事業を行っても問題ないのかという話になってきますが、その点を論考したブログ記事を弁理士の中山俊彦氏が書かれていますのでご紹介しておきます。

「森の図書室」に関する考察(弁理士『三色眼鏡』の業務日誌~大海原編~ 14/6/18)

気になるのが権利処理の部分。

この点、FB上で色々な議論がでていたので、自分の頭の整理も兼ねて“答案構成”してみた。

※本エントリは、「森の図書室」事業者さま、出資者さま、その他関与される方の利益を損なうことを意図するものではありません。

むしろ魅力ある事業を恙無く進めていくために欠かせないコンプライアンスの観点からコメントするものです。

出典:弁理士『三色眼鏡』の業務日誌~大海原編~

 あくまでも個人的な興味から問題点を考察するという立場で書かれておられるようですが、結論としては以下のような形にまとめられています。

本事業は、形式上著作権侵害に該当し、制限規定にも該当しない。したがって権利侵害の責めを負う懸念がある。

もっとも、ベンチャーである以上一定程度のリスクは織り込みながら展開しているかもしれず、或いは補償金方式で解決しているのかも知れません。

出典:弁理士『三色眼鏡』の業務日誌~大海原編~

 なかなか興味深いですね。これに類似した話では飲食店による音楽利用という事案が思い浮かびますが、そちらは我らがJASRACが権利侵害防止に向けて活躍中であります。直近で裁判沙汰になった例を弁理士の栗原潔氏が論考されているブログ記事をご紹介しておきます。

キャバクラのJASRAC著作権使用料は米国と比べてどうなのか(栗原潔のIT弁理士日記 14/7/2)

著作権法の解釈で言うと、店で音楽を演奏するのは上演にあたりますし、非営利・無料・ノーギャラの要件はどう見ても満足されないので、著作権者(この場合はJASRAC)の許諾がいるのはしょうがないところです。

出典:栗原潔のIT弁理士日記

 せっかくですので、森の図書室も裁判沙汰となるまで営業を続け、現行の著作権法を見直すきっかけとなるような一石を投じるという形で頑張っていただければと思う次第です。

 ところで、アスペルガー市長率いる武雄市の面白図書館はどうなったんでしょうか。

 革命児的な物議の醸し方でネットの話題の一角を占める一方、打つ手が目立つ割にたいした成果を挙げないことがバレ始めて微妙なことになっているようですが、民忠が下がって百姓一揆が起きる的アプローチで発展的出直しになるかどうか興味深く見守ってまいりたいと思う次第です。