いまさらですが、ハードとソフトを分けて考える時代はそろそろ終わりのようです

山本一郎です。いろんな意味で、高速回転中です。

ところで、AppleがWWDCという開発者向けイベントにおいて注目された次期iPhoneなどのハード関連についてほとんど何も発表しなかったが故に、世間の一部では不評を買っていたようです。その一方で、OSをはじめとしたソフト周りについては随分と濃い内容の発表が次々となされ、これまた世間の一部では随分と好評を博したようにも見受けられます。本来が開発者向けの技術発表会的な催しであることを考えれば、後者のような反応だけがあればそれで十分のはずですが、Appleというブランドがもはやギークだけのものでなくなった昨今の状況を考えると、広く世間一般に向けてのアピールとしては弱かったのかもしれません。

今回のAppleがとくに開発者向けに伝えたかったであろうポイントについては、以下の記事などがかなり分かりやすくまとめて解説されていると思いますが、どうしてもこのような内容では一般エンドユーザーからすると技術的な話ばかりでハードルが高いととらえられがちです。

WWDC 2014 開発環境編:「機器の外の魅力」で戦う準備を進めるアップル(AV Watch 2014/6/6)

では、どのような話なら一般エンドユーザーにも興味をもってもらえるのかといえば、やはり具体的なモノ、つまりハードの話になりそうです。

真打ちアップル、腕時計型で健康管理(日本経済新聞 2014/6/6)

米アップルが計画する健康管理サービスの概要が5日、明らかになった。10月にも腕時計型のウエアラブル端末を発売する見通しで、睡眠や血中の酸素濃度など生体情報を集める方針。米有力病院や米ナイキとも提携する。腕時計型は韓国サムスン電子やソニーなど参入が相次ぐ激戦区。「真打ち」アップルの登場で有望市場の勢力図はどう変わるのか。

出典:日本経済新聞

日経がいつもの得意のパターンで、Apple新製品の次の発売は10月の見通しと読者の心を鷲づかみにきています。残念ながらネット公開されている記事は会員登録しなければ先が読めない形になっていますが、その内訳はハードの性能や量産規模といったモノを中心にした視点でカバーされ、ビジネス勝負の決め手はデバイスの価格と機能・デザインのバランスだろういった落とし所になっています。確かにこういう見方は旧来の工業製品メーカー的な立ち位置であればそれでも良いのでしょうが、今の時代にハード面のみにプライオリティを置いて考えるのはややナンセンスです。

もう語り尽くされた話になりますが、Appleが携帯音楽プレーヤーのiPod以降に大きく成功してきたのはハードよりもソフトとその製品をとりまくエコシステムをどう整備してきたかに負っており、iTunesという音楽管理ソフトとiTunes Muisc Storeという音楽配信サービスがなければiPodの成功もあり得なかったのは今さら説明するまでもないと思います。

もちろん日経の上記記事でも、新製品が健康管理アプリとの連携をするといった言及はありますが、それらの話題は主ではなく従といったニュアンスであるように見えます。しかし、Appleがこれから本領を発揮するであろうと期待されるところは、そうした他サービスとの連携部分を他社製品よりも使いやすい形で実現する能力にあります。

で、先に紹介したAV Watchの記事は、まさにどうやってAppleがそうした自社製品以外のハードやサービスとの連携を実現するか、そのための新技術について延々と説明しているわけです。そうした技術は具体的な製品が出てこないと消費者からするといまひとつピンと来ないのですが、なぜかいざハードに載せられて使ってみると使いやすくて魅力的なものに仕上がっている。そうした一連の組み合わせと演出がAppleは上手なんだと思います。片やGoogleは最先端へ突っ走って一般ユーザーはやや置いてきぼり感を覚えてしまうのでしょうが、そこがまたギークには魅力的でもありますね。

そうなりますと、使い古された議論の延長線上ではあるのですが、そろそろ日本のメーカーはスペック的に優れているハードを作っているだけでは食っていけなくなるだろうということです。以下の記事などはそうした事態を象徴しているように思います。

過去最高実績の裏で、課題事業になるPC(PC Watch 2014/6/6)

2013年度(2013年4月~2014年3月)は、Windows XPのサポート終了に伴う買い換え需要や、消費増税前の駆け込み需要によって、国内PC市場は、過去最高の出荷台数を記録した。だが、その一方で、一部PCメーカーは赤字に陥るなど、厳しい状況に陥っている。なぜ、こうした状況が生まれているのだろうか。

出典:PC Watch

こうした今の状況に対する一つの論考としては下記などが面白いです。

iOS8が加速する家電メーカーの新陳代謝(Life is beautiful 2014/6/5)

「日本は独自企画にこだわったから負けた」と思っている人が多いのですが、それは誤解です(日本の携帯電話市場のことを最初に「ガラパゴス」と呼んだのは私ですが、当初はポジティブな意味で使っていました)。一番の問題は、携帯電話メーカーの経営者たちがソフトウェアの重要性を理解していなかったことにあります。(中略)どの事業を捨てて、どの事業に集中するのか。勝負の鍵を握るソフトウェア技術者をどうやって社内に育成するのか。Apple や Google などの企業と、どんな距離を保って戦って行くのか。ここから1~2年の経営判断が、日本の家電メーカーの死活を決めることなるのです。

出典:Life is beautiful

もちろんここまで言ってしまうのはやや極論かもしれませんが、日本のハードメーカーにおいてソフトが蔑ろにされてきた傾向がいまなおあるのは事実でしょう。ハード的にスペックが優れていれば多少使いにくくてもユーザーが操作を習得して慣れてしまえば問題ないという事例は日本の家電製品、とくにデジタル家電と名が付くようなものにおいては決して少なくなかったと感じます。

もはやハードとソフトを分けて考えるのも意味がない時代になってきましたが、そうした現実をしっかりと踏まえて新しいことに挑戦できる企業だけがこれからは生き残っていくのでしょう。そういう意味では「感情のあるロボット」とマンガみたいなことを言い出した孫正義という人はやはりすごいのかもしれません。しかし、あのラップはちょっと趣味の悪いお笑い番組みたいな演出で今ひとつでしたね。

ソフトバンクのロボット『pepper』がラップで観客をdisってる動画(週アスPLUS 2014/6/5)

いまや、AIだロボットだと叫ばれる状態で、私たちが何を目線に「モノ」と付き合うべきなのかはちゃんと整理しておくべきなんだろうと思いますし、漫然と出てきたヒット商品を見ているだけではなかなか見通せない変化はたくさんあるのだと痛感するところですね。

この辺って、もはや哲学の領域だと思うんですよ。

私もあれこれ考えることが多いですが、結論なんてちっとも出てこない世界です、奥が深すぎて。

日々の仕事に追われていると、この辺の本質を考える余裕がなくなっていかんな、と。

全体的に原稿が遅れています、申し訳ございません。