ソニーの電子書籍事業が北米市場から撤退という話でちょっと考えました

山本一郎です。あまりにも多忙すぎて、諸事書類や連絡が遅延しておりまことに申し訳ございません。順番に連絡差し上げますので、いましばらくお待ちください。

冒頭に存分にお詫びしたところで、ソニーの話です。ソニーが決算説明会において、1100億円の赤字とPC事業売却やテレビ事業分社化などを発表し大きな話題となっています。

ソニー、1100億円の最終赤字に PC売却で損失(日本経済新聞 2014/2/6)

ソニーの今期は2年ぶり最終赤字に、パソコン撤退・テレビ分社化へ(ロイター 2014/2/7)

ソニー「苦渋の決断」 平井社長が話したPC事業とテレビ事業(ITmedia 2014/2/6)

しかしながら、PC事業の売却に関してはその前から観測記事としてLenovoへの売却説などが流れ、さらには日本産業パートナーズの名前もリークされていましたから、まあそうだよねという感が無きにしも非ず。また、テレビ事業についても地デジ移行の頃にはすでにコモディティ化することが明かで今後どうやって清算するかは家電業界の中の人にとっての長年の宿題でしたから、その回答を出す時期が来ただけということと見えなくもありません。ただ、しかし、日本人にとってソニーはAV家電・ITブランドの代表的存在ですから、その企業がPCやテレビから距離を置くという発表はそれなりの大きなインパクトがあるのは当然なのかもしれません。

ウォール・ストリート・ジャーナルは、こうしたソニーの施策を前向きなものと評価する記事を掲載しておりますが、まさに今度こそ良い方向への変化を期待したいものです。

ソニーの再生、今度こそ(WSJ.com 2014/2/7)

同社はようやくにして正しい方向に向かい始めた。投資家は、この変更を早くも称賛しているようにみえる。経営陣は今度こそ計画を実行しなければならない。さもないと、またもや偽りの再生となってしまう。

出典:WSJ.com

で、そうした決算発表の後、ソニーはさらなる発表を米国で行いちょっとした波紋を呼びました。

ソニー、電子書籍ストアを北米市場から撤退。ReaderユーザはKoboへ移行対応(Engadget日本版 2014/2/7)

米 Sony Electronics の発表によると、ソニーは米国およびカナダで電子書籍ストア Reader Store を3月下旬にも閉鎖する予定。既存の電子書籍端末 Reader や Xperia スマートフォン、タブレットなどのReader アプリユーザーに対しては、楽天傘下の Kobo ストアへの移行をサポートします。

出典:Engadget日本版

日本国内での決算発表時には全く触れられていなかった話だけに、ネットでもこのニュースはかなりの衝撃をもって受け止められたと思われます。で、ジャーナリストの西田宗千佳氏がいち早くソニーの広報へこの件を問い合わせて実情を確認され、素早くTwitter上で事の経緯を報じられております。

ソニーから電子書籍事業についての返答が来た。 ・日本を含む北米以外では事業を継続。 (要は今まで通り。撤退は北米だけが対象) ・米国では昨年秋の新端末(T3)を導入してない。カナダではT3を販売中。 (すななち、昨年から実質的に北米は撤退状況だった)

出典:Munechika Nishida

ソニーに電話取材したので補足。 ・日本の電子書籍ビジネスはこれまで通り継続。 ・端末も適切なタイミングで出す可能性がある。 (まあ、遥か先の新製品を予告するわけにはいかんので、こんな回答でしょう) ・海外事業は、展開済みの国々でのビジネス基盤拡大を優先。 だそうで。

出典:Munechika Nishida

SNS時代のリアルタイムなジャーナリズムの良さが発揮された事件でもありますが、一方で、Engadget日本版はここまでをフォローするような記事にならなかったのがやや残念でもあります。まあ、タイミング的に確認しきれなかっただけかもしれませんが。

なお、ソニーでは北米市場向け発表で不要な騒ぎが起きるのを防ぐためでしょうか、その発表前に今後の国内向け電子書籍事業の展開予定をWeb上に公開していたようです。

今後ご提供予定のサービスのほんの一部をご案内(ソニー Reader Store 2014/2/7)

2014年、Reader Storeはお客様にもっと本を楽しんでいただけるように、他にもいろいろな新サービスを予定しています。

出典:ソニー

まぁ、このメッセージを文言通りに素直に受け取るか、それとも裏に何かあるのではと勘繰るかは読む人の自由です。

ただ、ここで気にしておきたいことは、ソニーの運営する電子書籍事業だけがどうこうというよりも、広く電子書籍をとりまくビジネス環境全体がかなりの勢いで淘汰の時代に入ったのだなと改めて感じることです。

今回の件を受けて西田氏は以下のような発言もTwitter上で残しています。

「権利処理も含め、いちばんやりやすいから」と北米に出て行って電子書籍ビジネスの再構築をし、寡占状態が厳しくなって事業が苦しいので最初に北米から出て行く、ということになるのか>ソニーの電子書籍事業

出典:Munechika Nishida

北米市場に関しては電子書籍市場が現在やや停滞気味である一方、市場動向についてはAmazonの一挙一動に振り回されており他社がなかなか太刀打ちできないような状況になりつつあるという話もあります。

アメリカ在住の文芸エージェント・大原ケイ氏による、アメリカ電子書籍の最新事情 ―― JAGATセミナーレポート(後編)(見て歩く者 by 鷹野凌 2013/12/23)

出版社にとってAmazonが恐ろしいのは、毎年交渉によって卸値をギューギュー締めてくることだそうです。そこでアメリカの出版社も対抗して、ペンギンランダムハウスのように合併して巨大化を図っているそうです。数は力ですね。

出典:見て歩く者 by 鷹野凌

国内でもうまくいかない電子書籍事業者が徐々に撤退戦に突入しはじめた印象が濃厚となってきました。

地球書店終了、電書サービス負の連鎖はいつまで続く?(All About 2014/2/5)

地球書店のサービス終了がアナウンスされました。今回は姉妹サイトコミックシーモアへのポイント付与による引き継ぎが案内されていますが、やはりユーザが置いてきぼりである感が否めません。

出典:All About

撤退するのはいいのですが、エンドユーザーにとって納得しがたいようなサービス終了の形が多いようですと、今後誰も電子書籍を利用したいと思わなくなるわけでして、この辺りは業界全体でもう少し何とかする努力が求められてもいいのではないかと感じます。

なお、上記記事で面白かったのは、現時点で成功していると考えられるスマホ向け電子書籍事業はガラケー電子書籍ユーザーの取り込みが上手なところという話でして、どうやったらそういうユーザーに受けるのかのポイントがなかなか身も蓋もない内容となっています。

結局のところ、現在の電子書籍市場もガラケー時代と同様に ・コミックで ・売れ筋4大ジャンルで ・買いやすい決済方法で ・ガラケー電子書籍ユーザーを取り込み ・莫大な広告費を投入することで 成功するのではないでしょうか。

出典:All About

ちなみに、上記にある「売れ筋4大ジャンル」とは「エロ」、「BL」、「TL」、「ハーレクイン」だそうでして、電子書籍ビジネスもなかなか大変というか面倒そうですね。

というか、本来人間が金を払って読みたいものというのはおおよそ己の欲望に属するものばかり、というのは仕方がないことなのかもしれません。だからこそ、そのあたりも充分に踏まえて電子書籍事業やコンテンツ配信事業を構築しないと成功は覚束ない、ということなんでしょうね。

なんだこの夢も希望もない汚れた世界は!!!