日本人の有給消化割合が少ないのは、低スキル労働者が解雇を怖れる合理的行動の結果

山本一郎です。さすがにロシア出張中にウォッカを飲みすぎたので、3泊休肝日を設けました。そば茶、おいしくて最高です。伊藤園万歳。

冒頭から華麗に無償ステマを決めたところで、表題クソみたいなアンケートを元に国際比較をやらかしているサイトがMLで回覧されてきました。

6年連続! 有給消化率ワースト1位は日本!(エクスペディア)

こんな微妙なアンケート6年間も継続してたんですか。まあ、旅行会社が銭払って喧伝している「お前らもっと休め。んで、旅行へ行け。もちろん俺のサービスでな」というマーケティングの一環なのでしょうから、それを突っ込むのも野暮だと思ってスルーしておったわけですが、どうも真面目に信じている人たちがたくさん出てしまったようです。こんなものを読んで「これだから日本は」と嘆いている前に、さっさと上司に有給申請の紙でも出しにいけば来年はこんな数字劇的に改善するというのに、いったい何をしているのでしょう。こういう人たちがノマドに憧れたり、スローライフを賞賛したりしてるんですかね。知りませんが。

なんかまるで日本人が休んでないかのように言われるわけですけれども、

そもそも日本はフランスよりも国民の休日が5日多い

です。もともと日本人は休んでるんですよ。もちろん休日出勤に勤しむSEの皆さまなど辛い環境で頑張っておられる方もたくさんいらっしゃるとは思いますが、素敵な笑顔でその辺は無視してですね。すいませんね。

6 労働時間・労働時間制度

むしろ、問題になるのは時間あたりの生産性です。

日本人の労働時間が長い原因は残業を「評価」する誤った精神論にある(出口治明の提言:日本の優先順位)

「平成25年版労働経済の分析」を公表 ~分析テーマは「構造変化の中での雇用・人材と働き方」~(厚生労働省)

効率よく働く仕組みが無いので、サービス残業があったり有給休暇が取りづらかったり手取りが増えなかったりするのでしょう。出口さんの一連の論述で問題点はほぼ網羅されているように思いますし、厚労省も一連の問題については然るべき議論を経てしっかりとした提言は行っています。

そして、この手の話をするのに欠かせないのが失業率です。

OECD諸国の失業率は2014年にかけて高水準で推移、若者と低技能労働者への影響が深刻(OECD アウトルック2013)

わざわざOECDに言われるまでもなく、我が国は表面上は完全雇用に近い状態ですが仕事に対する満足度(充足度)は低いままです。また、現状での日本経済は80年代以降サービス産業への雇用シフトが続き、いまでは七割以上の労働力がサービス産業に従事しています。低いスキルの労働力が経済全体の生産性を引き下げ、低い利益率しか実現できない産業から順番に中国などに出て行きました。製造業で減った雇用がサービス業で吸収できて内需の割合が比較的高いのが日本経済です。

有給いっぱいとって喜んでるスペインとか失業率がすげえことになっているわけです。失業率25%とかいってマジヤバイ。仕事しんどくて有給取りたいのでスペイン行きたい人、どうぞどうぞ。

UPDATE 1-スペイン失業者数、10月は増加 高失業率続き回復基調弱い見通し(ロイター)

そのような国際競争下で日本型組織がどのように戦い抜いているのかという点で言うならば、低い生産性でも長時間働いて競争力を維持しようというマインドに他なりません。ある意味で、労働者に無給で働かせる時間が長いほど、それを強いたマネージャーや経営者が他社に比べて利益を出し成長して表彰されるというインセンティブになっているわけです。

そしてブラック企業化する組織が社会問題になるんですが、しかし、サービス産業が主体の時代になると、労働時間イコール生産性イコール収益性という図式ではなくなってきます。儲からない事業で従業員がうんうん言って頑張って働いたところで利益は出ません。この辺の議論ははまちゃんこと濱口桂一郎先生が詳しいですが、サービス業では価値生産性が命なので、残業すればするほど生産効率は悪くなっていってしまうわけですね。「意味のある仕事をしたら、とっとと帰れ」というのが知的労働全盛を迎える日本が為すべきガバナンスでもあります。

なにい?労働生産性が低いい?なんということだ、もっとビシバシ低賃金で死ぬ寸前まで働かせて、生産性を無理にでも引き上げろ!!!(hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))

しかも、OECDのデータで把握されている生産性というのはカウント可能な労働力(労働ユニット)のインプットとアウトプットであって、海外で行っている生産活動は一部除外されています。また、制度的にカウントできない労働ユニットはそもそも除外されています。つまり、フランスで言うならば

アルジェリアからの移民が担う低賃金の労働者が引き上げた経済効率は部分的にしかカウントされない

あるいはシンガポールで言えば

マレーシアその他からやってきた出稼ぎ労働者の労働成果の一部は、シンガポール人のアウトプットに足されている

構造になっていると言えます。それが良いとか悪いとかではなく、各国には各国の国民がいて事情があり、それに基づいて労働条件が決められている以上、国ごとの規制や労働環境が違いすぎて単純な比較はできないという意味でもあります。我が国でも、中国などから万単位で来ている謎の研修生たちが農家や漁業や旅館などで安い賃金で住み込んで働き日本の地方経済を支えていることは言うまでもありません。ただ、日本の場合は他の国よりも労働者を移民として受け入れる割合が少ないので、基本的にはこの手の労働効率を他国と並べると低い評価へバイアスがかかることは推定できます。

要するに、

安い人件費で有給も取れない働き方を強いられる日本人は、移民労働者レベルの扱い

であって、単純に低スキル労働者で置き換えの効く程度の存在だという話です。そうなると、必然的に雇用側も低い生産性をカバーするために長時間働いてもらうことがやはりインセンティブになります。結局は「日本人は有給を他国に比べて取らない」のも、「取れないのだ。なぜならば低スキルで生産性が低いので長時間職場にいてナンボで、いつ斬られてもおかしくないストレスに晒され、充分な職業訓練も公的には得られず職業選択の余地は基本的には乏しいので、有給申請して解雇されるリスクを負うよりは働き口を確保するためにも我慢する選択をしているからだ」というのが日本人であり、だからこそ仕事に対する満足度が低くならざるを得ないのでしょう。

まあ、乱暴な言葉を使えば経済を円滑に回すためには不人気の産業を担うためのある種の奴隷が必要なのであって、でも日本人、日本社会の選択として移民は増やしたくないので、低スキルで低賃金の仕事は業界ごと海外に出て行ってしまう。それらの企業は海外に進出し日系資本として海外で労働力を使い、そこで得た収益を日本に還元してきて日本経済は成り立っているという話になります。そりゃ生産性は低いでしょう、高い分野は海外で稼いで日本に持って帰ってきているわけですから。

吉崎先生が投資立国を解くのも、知財立国で稼ごうという掛け声も、まったくその通りなわけですよ。

双日総合研究所副所長・吉崎達彦 「投資立国」としての生き方探れ(産経ニュース 正論)

「特許黒字」最高、1兆円に迫る 知財立国には課題 12年2割増、海外子会社からの収入大半(日本経済新聞)

ただし、これらの海外収益で得られる利得、生産性というのは、当然のことながらそのような知的活動で対価が得られる人たちに限られます。真の意味での経済効率を考えると、いまの日本でこういうハイレベルな分野を担って世界で稼いで帰ってこられる人が大事です。

そして、フランス人が有給30日取っててまだ足りないっていうフランス経済を支えているのは、アルジェリアやEU他地域からやってきた労働者ですね。

では、移民を入れない日本人が有給7日しか取れないので倍にしようといったとき、この労働力は誰が支えるのでしょうか。

まあこの辺は言いたいことがいっぱいあるわけですが、エクスペディアは低知能気味の煽り広告で情弱を釣るのは一刻も早くやめて、極東ロシア向けのサービスを充実させて欲しいと願っております。そして、シンガポールなどアジア圏の旅行では大変使い勝手が良く便利に利用させていただいているので引き続き頑張ってくださいとエールを送る系の無償ステマを文末にかましたところで終わりたいと思います。

今後ともよろしくお願い申し上げます。