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東京ディズニーリゾートでアプリ活用が加速 その考え方と進化の可能性とは?

山口有次桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授
東京ディズニーリゾートのアプリ活用が加速している(写真:つのだよしお/アフロ)

東京ディズニーリゾート・アプリの導入と進化

 東京ディズニーリゾートでは近年、スマホの「東京ディズニーリゾート・アプリ」を積極的に活用している。このアプリは、2018年7月からスタートした。来園前にアプリで「ディズニーeチケット」を購入しておけば購入窓口にならぶことなく、エントランスでスマホをかざすだけで入園できる。アトラクションの待ち時間や現在位置がわかるデジタルガイドマップ。ショーの抽選やレストランの事前受付。パーク内のショップの商品を、混雑を避けながらゆっくり選び、自宅へ配送できる「東京ディズニーリゾート ショッピング」など、パーク滞在をより充実させる機能を導入した。また、パーク外でも、直営ホテルのオンラインチェックインを可能とした。

 開発当初は、米国フロリダ州オーランドの「ウォルトディズニーワールドリゾート」で、RFIDタグ(非接触型の電子タグ)のブレスレット「マジックバンド」が導入されていたが、同様の機能を格段に少ない投資額で実現できるスマホアプリが採用された。

 そして、2019年7月、ファンが待ちに待った「ディズニー・ファストパス」を取得できるサービスが始まった。ファストパス取得のための時間を削減することで、パークで過ごす時間をより充実させることができるようになった。

 2020年に入ると、新型コロナウイルス感染拡大防止のためパークを休園する直前の2月に、紙の「フォトキーカード」を電子化し、専門フォトグラファーが撮影した写真、あるいは、アトラクション体験中に撮影された写真のデータやプリントをアプリの「ディズニー・フォト」で確認し購入することができるようになった。

東京ディズニーリゾート・アプリ公式webサイトより
東京ディズニーリゾート・アプリ公式webサイトより

スマホアプリ活用の加速とその役割

 さらに、2020年7月からのパーク運営再開にあわせ、新型コロナウイルス感染防止のため、入園者数をキャパシティの半分以下にしぼり、入園時間を3段階に区切ったチケットを販売して入園者の分散をコントロールしている。テーブルサービスのレストランでは、QRコードからスマホでメニューを確認する仕組みを開始した。

 2020年9月からは、新エリアのオープンで人気集中が明らかである東京ディズニーランドの新アトラクションや、人との接触が心配されるキャラクターグリーティングに「エントリー受付」が導入された。入園後に、アプリで時間指定してエントリーボタンを押し、抽選で当たると利用できる(当たらないと利用できない)ようになった。東京ディズニーシーでも、人気アトラクションのファストパスに代わる「スタンバイパス」を取得できるようになった。レストランのプライオリティシーティングは既に定着しているが、人気ショップの入店も事前予約制となった。

 このアプリは、来園したゲストのための各種情報を一元化し、ゲストがシームレスに活用できるようにすることで利便性を高めるだけではなく、時間の使い方がゲストにとって価値あるものになるよう、パークでの体験価値を上げるためのツールとして位置づけられている。ゲストによる情報格差を緩和するため、直感的な操作で手軽に活用できるよう工夫している。リアルなパークが主役であり、パーク滞在中に楽しむためのサポートツールとしての役割に徹しながら、ディズニーの世界観を融合させ、デジタルでありながらも温かみのある、ディズニーらしさにもこだわって開発された。ただし、パークにおいてゲストがスマホと1対1の関係になりすぎないことにも配慮している。

東京ディズニーリゾート・アプリの画面(例)
東京ディズニーリゾート・アプリの画面(例)

アプリによるデータベース構築とそれを活かすオペレーション

 このアプリの利用拡大により、GPSによるゲストの位置情報と各種の行動データを詳細に把握できるようになる。まさにマーケティングデータとして宝の山となる大いなる可能性を秘めている。そして、利用者にとって、スマホを活用した楽しみ方を大きく広げることができるだろう。そこで、東京ディズニーリゾートに限らない、テーマパークにおけるスマホアプリ活用の発展可能性を例示したい。

 まず、アプリから位置情報が正確に収集できるようになれば、ゲストの分布状況がリアルタイムで把握できる。ゲストが集中しているエリアと比較的空いているエリアが発生した場合は、空いているエリアで特別なイベントを開催して引き込むことで、ゲストの均等分散を促し、結果的に顧客満足度を上げることが可能になる。これは、三密を避けながらキャパシティを増やしていくことにも貢献する。回遊データを収集分析できるようになると、特定の行動パターンを発見することが可能になる。これらの蓄積データから特定のアルゴリズムを定め活用するノウハウは、集客戦略の根幹に位置づけられるようになるだろう。

 アトラクションの入口でチェックインすることで、ゲストの名前を呼ぶことは既に技術的に可能であるが、アトラクションの動かし方やコース選択などをゲストにあわせて変えることさえ可能となる。顧客データベースは、ホテルやレストランなどでみられるように、誕生日のサプライズ演出や、食事のアレルギーや嫌いなものなどを記録しておくだけにとどまってはいけない。ゲストの嗜好性や、行動パターン、同行者の傾向など、さまざまな事項を定量化して蓄積し解析できるようにした上で、それを活用するオペレーションまでを上手くつなげる必要がある。

東京ディズニーリゾート・アプリ公式webサイトより
東京ディズニーリゾート・アプリ公式webサイトより

人的コミュニケーション創出と個人にあわせたサービス提供への発展可能性

 ゲスト自身が自分のデータを積極的に構築することで、より楽しい使い方に発展していけることが望ましい。それにより、ゲストによるデータの蓄積と活用の循環が生まれ、さらにその仕組みが有効性を増すだろう。

 スマホアプリから、人的コミュニケーションも広げられる。付近にいるゲストの情報をキャストが読み取ることで、話しかけて会話を盛り上げることができるだろう。ゲストがキャストの情報をみて話しかけることにも有効である。

 スマホを使ったAR(拡張現実)を組み合わせ、キャストごとに異なる写真を取ることができると面白い。キャストの数だけ、異なる特性を生成できれば、発見・収集する楽しみも生まれるだろう。パーク内のいたるところに、ARを活かしたアトラクションが設定できるだろう。アプリを使ったゲームをパーク内に展開することも発展可能性が高い。同伴者どうしでつながる仕掛けも組み込めるだろう。

 これらの発展は、最終的に、数年に1回しか入園しないゲスト、年に3〜4回のゲスト、そして、年に何十回、あるいは、ほぼ毎日といってよいほど頻繁に訪れるリピーターなど、すべてのゲストに同じサービスを提供することを見直すことにもつながる。個々のゲストの蓄積した行動データと嗜好性、その時の気分なども踏まえ、提供するサービスを臨機応変に変えることができることも重要な視点となる。初級者の使い方から、中級者、そして上級者へと、利用の度合も発展していけるとよい。パーク来園前、パーク来園中、パーク来園後の使い方もさらに発展させる余地がある。そして、このスマホアプリが定期的に機能進化することも重要である。

 東京ディズニーリゾートは、スマホアプリの活用をはじめ、積極的にパーク運営にICTを活用していく体制が整ってきている。今後は、テーマパークにおいて、スマホアプリを活かしたICT投資が加速し、さらなる進化を遂げることを期待したい。

桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授

早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年より桜美林大学ビジネスマネジメント学群助教授、准教授を経て、2009年より現職。専門分野は、レジャー産業、レジャー施設、レジャー活動。1990年から『レジャー白書』の執筆に携わる。近年はアジア諸国のレジャー活動状況調査を実施し発表。単著『新 ディズニーランドの空間科学 夢と魔法の王国のつくり方』『観光・レジャー施設の集客戦略 利用者行動からみた“人を呼ぶ魅力的な空間づくり”』、共著『「おもてなし」を考える 余暇学と観光学による多面的検討』『観光経営学』『観光学全集 観光行動論』等。レジャー施設に関する論文多数。

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