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PayPay経済圏 どうなる「NISA」対応

山口健太ITジャーナリスト
PayPayで「ポイ活」のモデルケース(筆者撮影)

スマホ決済のPayPayを中心とした「PayPay経済圏」が拡大を続けており、ポイント発行額は楽天に迫る勢いを見せています。

その中で筆者が注目しているのは、2024年に始まる「新NISA」への対応です。

PayPay経済圏で「新NISA」はどうなる

経済圏の規模を示す指標の1つになりつつあるのが、「ポイント発行額」です。2月16日にPayPayは、2022年4月から「約10か月で5000億ポイント」を発行したと発表しました。

昨年7月に楽天が「約11か月で5000億ポイント」と発表したことを踏まえると、PayPayはあえて比べやすい数字を用いることで、楽天への対抗意識を燃やしている印象を受けます。

消費者にとっては、「ポイントをいかに獲得するか」に頭を悩ませるものですが、経済圏にとっては「ポイントをいかに発行するか」の競争になっていることがうかがえます。

その中で、筆者が今年注目しているのは「資産運用」です。コロナ禍の投資ブームに続き、2024年には「新NISA」が始まることで、経済圏の競争に影響を与える可能性が出てきています。

PayPay経済圏の場合、PayPayブランドを冠する「PayPay証券」があり、投資の入り口として人気の高い「ポイント運用」、PayPayマネーで投資ができる「PayPay資産運用」など、初心者が段階的にステップアップできるサービスを提供しています。

また、つみたてNISAで人気の高い低コスト投資信託は「PayPayアセットマネジメント」が提供しており、金融商品においてもPayPayのおトクなイメージを活用しようとしています。

しかし、意外なことに、PayPay証券はまだNISAに対応していません。この点について、2月17日に開かれた説明会で質問を投げかけてみたものの、「要望は多くいただいているが、現時点で決まっていることはない」(PayPay証券広報)との回答でした。

この説明会では、PayPay経済圏で「ポイ活」に励む都内在住30歳の会社員がモデルケースとして紹介されています。この中にもNISAという言葉は見当たりません。

資産運用にNISAは使っていないようだ(筆者撮影)
資産運用にNISAは使っていないようだ(筆者撮影)

この例では、PayPay資産運用で毎月1万5000円を積み立てているものの、NISA口座ではないため税制優遇は受けられません。年金については言及されていないものの、PayPay証券は「iDeCo」にも対応していません。

その背景として、PayPay証券の前身は1000円から株投資ができることを売りにした「One Tap BUY」で、そういったニーズはもともと想定していなかったと考えられます。その後、PayPay証券に商号変更したものの、まだ名前負けしているように筆者は感じています。

ちなみに、PayPay銀行はNISAとつみたてNISAに対応しています。同じグループ内ではLINE証券がNISA、つみたてNISA、iDeCoに対応しており、PayPay銀行から即時入金できるサービスも始まっています。

ただ、他の経済圏のネット証券が投信積立のクレジットカード決済に対応し、ポイント還元率を競っていることに比べると、物足りない印象があります。

長期で考えるとポイントの影響はそれほど大きくないとはいえ、NISAとiDeCoを中心とした資産形成の提案ができないことは、PayPay経済圏の「不都合な真実」となっている感は否めません。

LINEとの間に「壁」?

ジャパンネット銀行が「PayPay銀行」になるなど、PayPayブランドの金融事業はブランド統合が進んでいます。

しかし会社間の関係は意外と複雑であり、運営側も「分かりにくいとの声がある」(Zフィナンシャル 執行役員経営企画部長の小笠原真吾氏)と認めています。

ZホールディングスとZフィナンシャルの関係(筆者撮影)
ZホールディングスとZフィナンシャルの関係(筆者撮影)

2月17日の説明会ではPayPayブランドの金融事業が紹介されたものの、LINEの金融事業については言及がないなど、グループ内で「壁」を感じさせる場面がありました。

同じグループのLINEとの間には壁があるように感じられる(筆者撮影)
同じグループのLINEとの間には壁があるように感じられる(筆者撮影)

パートナーも複数存在しており、PayPay証券はみずほ証券、LINE証券は野村ホールディングスと組んでいます。そのため、PayPay経済圏のユーザーに向けて、LINE証券でNISAやiDeCoを始めるようにすすめるのは難しい可能性もあります。

2023年以降に予定されているヤフーとLINEのID連携によってまた変わってくる可能性はあるものの、長く付き合える経済圏を探している消費者にとって、こうした「分かりにくさ」や「壁」の存在は気がかりな点になるかもしれません。

追記:

3月31日、PayPay証券はPayPay、ソフトバンク、およびみずほ証券を引受先とする第三者割当増資の実施を発表。今後予定している施策案として、「『新しいNISA』制度等への対応を視野に入れた取り組み」を挙げています。

https://www.paypay-sec.co.jp/news/20230331_3.html

追記:

6月29日、PayPay証券は新しいNISAへの対応について、2024年1月の制度開始にあわせて「PayPay資産運用」およびPayPay証券アプリで利用できるよう、準備を進めていることを明らかにしました。

PayPay証券アプリの取り扱い銘柄に投資信託12銘柄を追加しました ~新NISA取り扱いに向けて対象銘柄を強化~ | ニュースリリース | PayPay証券

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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