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節電ポイント なぜ「値引き」ではなくポイント還元なのか

山口健太ITジャーナリスト
東京電力EPによる「節電ポイント」還元(Webサイトより、筆者撮影)

省エネが求められる中、新しく始まった「節電ポイント」制度が注目されています。値引きを期待する声もある中で、なぜわざわざポイント還元を優先するのか考えてみます。

節電ポイント「2000円」上乗せか

経済産業省が発表した電力需給見通しによると、7月には安定供給に必要な予備率「3%」に迫る地域があるなど、「非常に厳しい見通し」となっています。

とはいえ、電気料金の値上げで節電を促すという方法は、国民の負担増を考えると限界があるようです。そこで注目されているのが「節電ポイント」です。

たとえば東京電力エナジーパートナーは、「夏の節電チャレンジ2022」として節電量に応じたポイント還元を実施。1kWhの節電で、5円に相当する5節電ポイントを付与しています。

このプログラムでは「3%」の節電を目標にしているとのことですが、その場合のポイント還元は数十円相当にとどまり、あまりにも少なすぎるとの声がありました。

これに対し、6月24日の記者会見で内閣官房副長官は、節電プログラムに参加する家庭に2000円相当のポイントを支給し、さらに節電ポイントにも国が上乗せをするとの方針を語っています。

「ポイント還元」の裏に多くのメリットあり

還元額が数千円程度になれば参加を考える人は一気に増えそうですが、なぜ「値下げ」ではなく「ポイント還元」なのか、という疑問の声も挙がっています。

まず、ここで求められているのは、なるべく多くの人に、「節電」という手間や労力のかかる行動を起こしてもらうことです。

このような場合、日本において最も効果的と思われる方法を市場調査すると、だいたいは「報酬としてポイント還元をする」という結論に至るようです。

ポイント経済圏の争いも激しくなっています。ソフトバンク子会社のSBパワーは、6月に節電アプリの利用者が国内最大となる50万世帯を突破したと発表しました。

SBパワーは節電でPayPayポイントを付与する(プレスリリースより)
SBパワーは節電でPayPayポイントを付与する(プレスリリースより)

このアプリで節電をすると、電気料金が値引きされるのではなく、「PayPayポイント」が成功報酬として付与されます。

よく知られているように、PayPayは「20%還元」をきっかけに大きく普及しました。これも20%を値引きするのではなく、ポイントとして還元したことで、「もらったポイントを使う」サイクルを作ったことが成功の秘訣とみられています。

ポイントの特徴として、貯蓄に回ることがなく、確実に消費される点にも注目です。6月30日に始まる「マイナポイント第2弾」では、マイナンバーカードの普及と同時に、キャッシュレス決済で消費を促すことが狙いの1つになっています。

ほかにも、価格を下げにくい場面でもポイントは有効に使われています。いったん値下げした後に元に戻そうとすると、「値上げ」と受け取られて反発を受ける可能性があるからです。

ポイント還元が盛んな楽天市場では、商品の価格を変えることなく消費者におトク感を伝えられる方法として、ポイント還元が出店者から好評を博しているといいます。

情報の拡散という点でもポイントは有利です。「節約術」や「ポイ活」は一大コンテンツになっており、新たにポイントを配るとなれば、さまざまな記事や動画を通して情報が広まりやすい構造になっています。

暑いときにエアコンを止める必要はない

この夏、さまざまな方法で節電をしてポイント獲得を狙う人が増えるかもしれません。ただ、注意したいのは「暑いときにエアコンを止める必要はない」という点です。

経済産業省の資料では、国民や企業に対して「電気の効率的な利用」を求めているものの、「ガマンの節電を強いる」ことはよくない例として挙げています。

暑いときにエアコンを止めることまでは求めていない(経済産業省の資料より)
暑いときにエアコンを止めることまでは求めていない(経済産業省の資料より)

少し考えれば分かることですが、ポイントをもらうために、熱中症になるなど体調を崩しては意味がありません。無駄をなくすことを中心に、できる範囲での節電が求められているといえそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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