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アマゾン最新倉庫 ロボット活用進むも「全自動化」できないワケ

山口健太ITジャーナリスト
2022年3月にオープンしたアマゾン「尼崎FC」(筆者撮影)

6月20日、アマゾンが西日本最大の物流拠点「尼崎FC」を報道関係者向けに公開しました。旺盛なネット通販需要を背景に倉庫の中はロボット化が進んでいるものの、全自動とまではいかず、むしろ「人力」が重要といいます。

人間ではなく「商品棚が動く」ロボット倉庫

尼崎FCは、兵庫県尼崎市に2022年3月にオープンしたばかりのフルフィルメントセンター(FC、物流拠点)です。

物流拠点を増やすことで、7月の大型セール「プライムデー」など高まるネット通販需要に備え、より多くの在庫を持ちつつ、配送までのスピードを短縮できるといいます。

一般的な倉庫といえば、商品棚の間を人間が歩き回って、品物を出し入れするイメージがあります。これに対してアマゾンのロボット倉庫では、人間がいる場所に商品棚が近づいてくるのが最大の違いです。

黄色い商品棚が縦横無尽に動き回る、アマゾンのFC内部(筆者撮影)
黄色い商品棚が縦横無尽に動き回る、アマゾンのFC内部(筆者撮影)

商品棚の下にはロボット掃除機のような見た目の「ドライブ」が入り込み、商品棚を下から持ち上げて動き回ります。作業者は自分の持ち場から動く必要がありません。この仕組みは2018年オープンの茨木FCにも導入されています。

商品棚を下から持ち上げるドライブ(筆者撮影)
商品棚を下から持ち上げるドライブ(筆者撮影)

商品棚が作業者の前までやってくるので、持ち場から動く必要がない(筆者撮影)
商品棚が作業者の前までやってくるので、持ち場から動く必要がない(筆者撮影)

アマゾンでこれから販売する商品は、商品棚の空いているスペースに詰め込んでいきます。どこに入れたか記録するため、以前はハンドスキャナーでバーコードを読み取っていましたが、現在ではカメラで自動認識する技術が導入されています。

空いている棚に商品を詰め込んでいく。どこに入れたかはカメラで自動的に認識する(筆者撮影)
空いている棚に商品を詰め込んでいく。どこに入れたかはカメラで自動的に認識する(筆者撮影)

注文が入った際には商品を棚から取り出します。以前はディスプレイに表示された記号を頼りに位置を探していましたが、現在では商品がある場所をライトで照らすことで一目で分かるようになっていました。

商品棚から品物を取り出す作業。商品の場所にライトが当たっている(筆者撮影)
商品棚から品物を取り出す作業。商品の場所にライトが当たっている(筆者撮影)

ただし、いろいろと問題はあるようです。商品棚が動き回るスペースには、棚から落ちたと思われる商品がありました。こうした落下物はドライブが検出し、人間が回収しているようです。

また、アマゾンで注文した商品の数が違っていた、といった報告がSNSで話題になることもあります。作業スペースにはミスを防ぐためのマニュアルがいくつも張られていたものの、取り出した商品を「仮置き」したまま忘れるなど、ミスが起きる可能性はゼロではないように見えました。

カフェテリアはコロナ対策優先

2000人以上が働くという尼崎FCには大きなカフェテリアが用意されており、お昼と深夜の時間帯に食事を提供しています。

アマゾンのFCで有名な「カレー」のほか、定食や麺類など複数のメニューがありました。取材の日は月に1回の特別メニューが出る日とのこと。価格は普通盛のカレーが200円、定食でも390円とリーズナブルです。

カフェテリアのメニュー(筆者撮影)
カフェテリアのメニュー(筆者撮影)

ポークカレー。シンプルだが、ややスパイシーで美味しい。普通盛は200円(筆者撮影)
ポークカレー。シンプルだが、ややスパイシーで美味しい。普通盛は200円(筆者撮影)

全体的な雰囲気はよくある社員食堂といった感じですが、コロナ対策として座席は透明なパネルで区切られていました。パネルの高さなどはグローバルで規格化されているといいます。

カフェテリアの座席は、1席ずつ背の高い透明なパネルで区切られている(筆者撮影)
カフェテリアの座席は、1席ずつ背の高い透明なパネルで区切られている(筆者撮影)

座席の様子。透明なパネルで圧迫感はないが、周囲の人と話すことはできない(筆者撮影)
座席の様子。透明なパネルで圧迫感はないが、周囲の人と話すことはできない(筆者撮影)

休憩時間に気軽におしゃべりできるような雰囲気ではありませんでしたが、毎日働いている従業員からは、このほうが安心できるとの声もあるそうです。

コロナ対策は徐々に緩めている会社もありますが、今回の取材に訪れた報道関係者を含め、アマゾンとしては厳しい感染対策を続けている印象です。

商品の多様性から「全自動化」は困難

ほかにもFC内では、従業員の安全確保のためのさまざまな取り組みがありました。入り口ではペットボトルの水や塩タブレットが配布されており、作業エリアには随所にウォーターサーバーが設置されていました。

事故の事例を挙げて注意を喚起する掲示物も(筆者撮影)
事故の事例を挙げて注意を喚起する掲示物も(筆者撮影)

これらは多くの人間が介在することによる問題ともいえます。とはいえ、現時点でアマゾンは物流拠点の全自動化を進めるつもりはないようです。

一般論として、「サイズを同じにするなど規格化できれば全自動化は可能」(アマゾンジャパン オペレーション技術統括本部長の渡辺宏聡氏)としつつも、アマゾンが取り扱う商品は「柔らかいボトルや、メモリーカードのように小さなもの、ぬいぐるみのように大きなものもあり、人間でなければ難しい」といいます。

ロボット化を進めたアマゾンだからこそ、むしろ人力が重要と感じる部分はあるようです。「安全で無駄のない仕組みに改善し続けることで、十分に効率を高めることは可能」(渡辺氏)としています。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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