東京都知事選 山本太郎出馬で“小池圧勝”を崩せるか コロナ禍救済のため、起債20兆円を都民に配る!

告示ギリギリになっての出馬表明は「吉」と出るか「凶」と出るか?(写真:つのだよしお/アフロ)

情勢調査では「小池圧勝」のはずが……

 久々に迫力のある会見を見た。れいわ新選組の山本太郎氏(45)の東京都知事選挙への出馬会見だ。

 5月15日(月)の朝、午後2時から会見が設定されたという連絡があった。「ああ、やっぱり出るんだ」という程度の感想しか持てなかった。それまで耳に入ってくる情勢調査の情報はどれも、現職の小池百合子知事(67)の圧勝を伝えていた。

 野党が候補者一本化できない以上、誰が出ても同じだと思っていた。山本氏が出れば、立憲民主党や共産党、社民党が推す宇都宮健児氏(73)と票を食い合い、結局、小池氏を利することになると多くの人が思っていた。もちろん、筆者も。

 直前に発売されたノンフィクション作家、石井妙子氏の『女帝 小池百合子』(文藝春秋)によって再燃したカイロ大学卒業にまつわる“学歴詐称疑惑”や「週刊文春」が報じた新たなスキャンダルがあっても、小池氏の勝利はゆるぎない。今回の都知事選は、なんともつまらないものになりそうだと、そんなふうに思っていた。

 だが、山本氏の会見を聞いて、もしかしたら、もしかするんじゃないかと考えが変わった。言葉のひとつひとつが心に響く。いま、都民に訴えるべきはこういうことだ、と。理屈も筋が通っていた。

 山本氏が訴えたのは一点だ。新型コロナウイルスに苦しむ都民を一刻も早く救わなければならないという危機意識だ。都内にも餓死寸前の人がいる。いま、即、すぐに、さまざまな策を実行しなければならないというのが山本氏の思いだった。

「小池知事は都民のために何をしたのかッ?」(山本)

「なにをダラダラ補正予算やってんだッ」

「その内、真水はいくらなんだよ」

「東京がこんな状態になっているのに、小池さん、何したんだよッて話ですよ」

「国にもっとカネ出せといったのかよ。テレビに散々出ているくせに、言ったのかよ」

 怒りに満ちた言葉が口を突いて飛び出してくる。

 新型コロナウイルスは災害である、というのが山本氏の認識だ。災害であれば、国に災害指定を求めるべきだ。災害指定されていれば、もっと厚い手当てができたはずだ。国は、災害に指定するとカネがかかるから、指定しなかった。国は逃げた。

 こうした状況のもと、小池都知事は国に対して「災害指定するべきだ」とはひとことも言わなかった。テレビに出まくっているのに。どうして、全国の自治体のリーダーとして先頭に立たなかったのか。「小池知事は、困窮する都民のために何もしていない」と訴えた。

 そうだ、そうだ、その通りだ、と会見を聞きながら筆者もうなずいた。苦しんでいる人、死にそうな人、今日にも倒産しそうな人がいるのに、手を差し伸べないのはおかしいだろうと、山本氏は繰り返し言った。テンションが上がり過ぎて、途中で水を飲む場面もあった。

 ひとしきり怒りの言葉が出尽くすと、先に出馬表明している宇都宮氏について話がおよんだ。宇都宮氏とはこれまで2度、都知事選について話し合ったという。

「ここまで話したことに関しては、おそらく宇都宮健児さんも同じ気持ちだと思います。そのような支援をされてきた方ですから。だとすれば、それは宇都宮さんに託せばいいじゃないか。そう思われる方もいらっしゃるかもしれない……」

 そうだ、そうだよな。筆者も、そう思っていた。だが、山本氏はこう続けた。

「でも、私と宇都宮さんでは財政に関わる部分の考え方が違いました。公約も見ましたけれども……」

 山本氏の考えは、とにかく財政出動だ。

起債20兆円をコロナ対策で都民に配る!

 あらゆる手段でカネを集めて都民のために使えと言う。東京都はこれまで新型コロナウイルス対策のために都の貯金にあたる基金を95%近く取り崩したというニュースが最近、話題になった。だが、山本氏は「まだまだ足りない」と言う。

 地方自治体の財政健全度を表す指数に実質公債比率というのがある。自治体の財源に対して借金の返済の割合を示した数字だ。平成30年度の全国平均が10.9に対して、東京都はたったの1.5だったという。つまり、地方債を発行することで独自に資金調達できる余力がまだまだあるというのだ。

 山本氏は、これを使って20兆円は楽に調達できると踏んでいる。その資金を使って、いま新型コロナで苦しんでいる人、経営が厳しくなっている人、その他もろもろに一刻も早くカネを配ると言っている。そして、第2波、第3波に備えるという。

「やれるやれる詐欺の東京オリンピックは中止します。そこにかかる費用を別のことに使います。カジノもやりません」

「都民全員に10万円をすぐ給付します。高校や大学などの授業料を1年間免除……」

「中小零細事業者には、対前年減少分の収入を補填します。売り上げの減った病院にも減った分を手当てします」

「次のコロナに備えて、全事業者にまずはサッサと100万円を支払います。5兆円あればできます。水道光熱費も1年間免除する。これは1兆円くらい」

 そんなにバラまいて大丈夫なのかと思ったが、山本氏は「財政の裏付けがとれることがわかったので、立候補を決意した。それが無理なら、立候補はしませんでした」と。

 しかし、よく考えてみると山本氏はひとり立派なことを言っているわけではないことがわかってくる。言っていることはどれも当たり前のことなのだ。国や地方自治体は、こういう困ったときのためにある。そのために、日々税金を納めていると言ってもいい。

 だが、国や地方自治体のカネを惜しむ姿勢に慣れてしまったために、山本氏の言葉がいたく新鮮に感じられる。「まず配って、後から考えればいい」という姿勢なのだ。よくよく思い返してみると、小池知事は何もしてくれなかった。

4年前の公約「7つのゼロ」はほとんど実現していない

 4年前、公約に掲げた「7つのゼロ」は結局、かろうじて1つできただけ。東京五輪・パラリンピックの延期が決定するまで、新型コロナについてはほとんど口にしていない。それどころか、延期が決まったとたんにテレビに出まくり、「ロックダウン」「オーバーシュート」といったカタカナ言葉を使って都民の不安をあおりまくった。

 最後の最後は、科学的根拠ゼロの「東京アラート」である。それも、自らの出馬表明に合わせて“解除”するという芸当も見せたあげく、都民のために何をするかではなく「これからは自粛から自衛の時代」と、自己責任論を強調する始末だった。カイロ大卒の“学歴詐称疑惑”など、もうどうでもいいほど実都政でもダメダメだ。

「私は小池さんの票を削れる存在だ。自負はある」(山本)

 それでも情勢は小池知事が圧倒的に有利だという。よくわからない。

 いずれにしても、心配なのは山本氏と宇都宮氏の票の食い合いだ。その点について山本氏は記者に質問されて、こう答えていた。

「私(山本氏)は小池さんの票を削れる存在。『あ、見たことある』って人たちも小池さんに入れていますから。そこにアピールする。あと、選挙自体に興味のない人に『力を貸して』とリーチできるのも、私だと自負している」

 なるほど、そういうことかもしれない。つまらないと思っていた選挙が、ちょっとだけ楽しくなってきた。