なぜか新聞が追及しない「消えた年金5兆円」と安倍首相のウソ

■舛添知事辞任の本質は「政治とカネ」が原因ではない

一般に舛添要一東京都知事は「政治とカネ」の問題で辞任したと思われているが、実はそれは本質ではない。指摘された豪華出張や公用車での温泉別荘通い、さらに国会議員時代の政治資金の流用(公私混同)など、誤解を恐れずあえて言えば、いずれも驚くような話ではない。豪華出張は前々任者の石原慎太郎氏の前例があるし、政治資金流用については荒井聰元国家戦略相のキャミソールや宮沢洋一元経産相のSMバー、小渕優子元経産相の下仁田ネギやベビー服、安倍晋三首相のガリガリ君など言い出したらキリがない。

第三者と称するヤメ検弁護士に言わせたように「不適切だが違法ではない」。政治資金の公私混同も総額で数百万円。あえて言えば、微罪である。だが、それとは別に舛添氏は辞任に値するほどの“罪”を間違いなく犯している。それは、公の場でウソをつき都民・国民を騙したことだ。

週刊文春の追及でホテル三日月での家族旅行に政治資金を流用し、「会議費」として処理していたことがバレたとき、舛添氏は記者会見で「事務所関係者と会議をしていた」とはっきり述べた。ところが、前出のヤメ検弁護士の調査結果は「元新聞記者の出版社社長との面談」に変わっていたのだ。しかも、相手の名前は最後まで明かさず、言い訳が途中で変わったことについての説明もない。つまり、どちらかの会見でウソをついた、もしくは両方ともウソだったということになる。ウソはまずい。公私混同の事実を認めて謝辞すれば“微罪”で済んだものを、公の場で都民・国民を愚弄し欺いたのだ。これは辞任に値するほどの大罪だろう。

(参考記事)舛添知事はどこで致命的ミスを犯したのか?

http://webronza.asahi.com/politics/articles/2016061500009.html

ところが、舛添氏以上のウソをつき、国民を騙し続けているのに、まったく罪を問われない人がいる。安倍晋三首相である。

■マスコミが書かない「年金5兆円損失」の責任者

7月1日付の朝日新聞は1面トップで〈年金 運用損5兆円超〉と報じた。2015年度の公的年金積立金の運用成績が5兆円を超える損失だったという。年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が6月30日に行われた非公開の運用委員会で損失の事実を認め、厚労省に報告したという特ダネだった。当然、マスコミ各社も後追いしたが、年金原資が兆単位でぶっ飛んでしまったという重大事にもかかわらず、「なんでこうなったのか」「いったい誰のせいなのか」という肝心なことが、どの新聞にもハッキリ書かれていないような気がした。

詳しくは後述するが、結論からいうとこれはアベノミクスの失敗だ。つまり、安倍首相の責任なのだ。

実は、アベノミクスで年金資産が危険に晒されていることは、これまで何度か指摘されていた。しかし、安倍氏はGPIFが正式に発表していないことをいいことに損失の事実を隠し続けた。例年7月上旬に発表されていた前年度の運用成績の公表を、今年は参院選後の7月29日まで遅らせるという姑息な細工までする念の入れようだ。ここまでなら事実の隠蔽はやっているがウソまではついていない。だが、選挙への不安なのか、遂に越えてはいけない一線を越えてしまった。 自らのFacebook(6月27日)に国民を欺くこんなウソを書き込んだのだ。

〈こうした中で、「株価下落により、年金積立金に5兆円の損失が発生しており、年金額が減る」といった、選挙目当てのデマが流されています。しかし、年金額が減るなどということは、ありえません。このことを明確に申し上げたいと思います〉

なんというウソだろう。これこそ選挙目当てのデマではないか。「5兆円の損失発生」はGPIFの財務諸表で確認されたまぎれもない真実だった。そのことは、安倍氏の書き込みの3日後には明らかになる。さらに、GPIFの運用が悪化すれば給付金(年金額)が下がるというのは、他ならぬ安倍氏自身が今年2月の国会でハッキリ答弁していることなのだ。自らの国会答弁をFacebookするとは驚きだ。

順を追って説明するが、安倍政権下での年金運用が異常なのは、国民の貴重な財産である年金資金を国民に十分な説明もなくリスクマネーに投じてしまったことにある。年金の運用は、以前は国債など安全な国内債券中心(約6割)だったが、2014年12月以降はアベノミクスの“積極投資”でリスクのある国内株や外国株への投資比率をナント50%(半分)にまで高めてしまった。これがすべての原因だ。

株式への投資比率を高めたのだから運用成績は当然、株価に左右される。英国のEU離脱や昨年のチャイナショック時のような暴落があれば損失が膨らみ、逆に値上がりすれば儲けの幅も大きくなる。ハイリスク・ハイリターンというわけだ。そんな博打場のような投資市場に国民の老後を支える年金資金を投じるという極めて重要な選択について、安倍政権はほとんど説明してこなかった。なぜなら、まともな説明ができないからだ。

■私欲追求のため「禁断の果実」に手を出した安倍政権

安倍政権の経済政策であるアベノミクスは、結局のところ株価を高く維持することであたかも景気が良くなったと国民を錯覚させる詐術だったと言ってもいい。そのために、まずは中央銀行の総裁を白川方明氏から黒田東彦氏に代え、異次元緩和を実施させた。おかげで民主党政権時代に8000円台から1万円台の間を上下していた日経平均株価は一気に1万円6000円台にまで駆け上がる。ところが、2014年に入るとプチバブルも落ち着き、値下がり傾向さえ見せ始める。株価の低迷はアベノミクスの化けの皮が剥がれることに直結する。

そこで慌てた政権が目を付けたのが、GPIFが保有する約135兆円もの年金資産だったのだ。

単純な話、GPIFが国内株式の投資比率を1%上げるだけで1兆3500億円ものマネーが株式市場に流れ込む計算になる。事実、GPIFが運用方針の転換、すなわち株式の比率を高める検討を始めたというニュースが流れただけで株価は上昇を始めた。2014年12月にはいよいよそれまで24%だった株式への投資比率を50%に引き上げるという「アベノミクス・ポートフォリオ」が実施され、日経平均は2万円の大台を目指すことになる。

要は、安倍政権は自らの政権維持に直結する株価をキープするためにGPIFマネーに手をつけてしまったわけだ。政権維持は安倍氏の極めて個人的な私欲である。その私欲のために国民の虎の子である年金資金を博打場のような株式市場に投じてしまったということなのだ。そんなことを説明できるわけがないのである。

だが、こんなインチキな官製相場がいつまでも続くはずがない。日経平均の上昇は2015年6月に2万1000円の一歩手前まできたところでジ・エンドだった。以後、多少の上下はあってもこの相場を超えることはなかった。「ゼロ金利政策」という禁じ手にも市場は一瞬、反応しただけ。最近の日経平均株価はずっと1万5000円台で低迷している。このままいくと2016年度の年金運用成績はさらに大きな損失を出すはずだ。安倍政権にとっては決して知られたくない「不都合な真実」だ。新聞はこのことをもっと追及してもらいたい。

■「5兆円損失」の原因はアベノミクス方式の運用方針だった!

こうした批判に対して安倍氏やその取り巻きたちは、必ず次のように反論する。再び、安倍氏本人のFacebook(6月27日)から引用しよう。

〈安倍政権の3年間で37.8兆円の運用収益が生まれました。仮に5兆円の損失があったとしても、十分な収益が確保されています。民主党政権の3年間で運用収益が4兆円ほどだったことと比較すれば、その大きさを御理解いただけると思います〉

これはウソではないが詭弁である。まだ、こんなことを言っているのかと正直、呆れる。そして、これに騙される国民が少なくないことにも驚かされる。よく考えてみて欲しい。確かに安倍政権の3年間で37.8兆円の収益があったのは事実だ。だが、その収益が上がったのは2013年と2014年の2年間だ。意地悪な言い方をすれば民主党政権時代と同じポートフォリオが稼いだカネだ。

ところが、2014年12月に運用方針をアベノミクス方式に変えた途端、いきなり5兆円もの損失を出したという話なのだ。民主党の肩を持つつもりはないが、民主党政権時代は株価が低迷する中、堅実な運用方針で4兆円のプラスを出したということなのだ。これに対して安倍政権は、アベノミクスの成功を演出するため、危ない運用先に手を出して5兆円ものマイナスを出したということなのだ。誤解のないように書いておくが、「5兆円の損失」という結果が問題なのではなく、株価維持(政権維持)のために国民の大事な資産に手をつけてしまったことが問題なのだ。

その罪の大きさは舛添氏の比ではないだろう。それでもなお、「アベノミクスのエンジンをさらに吹かす」などとは正気の沙汰とは思えない。国民も、いつまでもこんな単純な詐術に騙されていないで、いい加減目を覚ましたらどうだろう。