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中国訪問団のタリバン幹部が激白「中国との密約」はあったのか タリバンとの独自インタビュー第二弾

山田敏弘国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト
筆者のインタビューに応じるタリバン幹部で広報も行うスハイル・シャヒーン氏。

2021年8月15日、イスラム武装勢力タリバンがアシュラフ・ガニ大統領率いるアフガニスタン政府を追い出して、国を掌握した。その後、カブール空港で大規模な自爆テロが発生、「イスラム国コラサン」(ISIS-K)が犯行声明を出た。対して米軍は8月27日にアフガニスタン東部で同組織の関係者らを無人機で殺害したと報じられている。混乱の度は深まっている。

タリバン幹部は今回のカブール空港での自爆テロを受け、本日(8/28)、私の取材にこう答えている。

「We will take control of the situation. These initial days will pass soon. Normalcy will return」

(われわれはこの状況をコントロールするだろう。こうした政権が始まる最初の時期の混乱はすぐに過ぎ去る。平常に戻るだろう)

そんなアフガニスタンでは今、欧米諸国がタリバンの国外の銀行口座を凍結したり、世界銀行が財政支援を停止するなど、タリバンに対する締め付けが強まっている。ただこうした戦略で苦しむタリバンだが、その様子をじっと注視している国があることを忘れてはいけない。

それは、中国である。

筆者は、タリバンが首都カブールを支配してガニ政権を追い出す直前から、タリバン幹部らと接触していた。幹部への単独インタビューの第一弾はここで掲載している。

実はその後、今日に至るまで、タリバン幹部とはしょっちゅう連絡を取り合い、取材を続けている。現在、タリバンは、タリバン政権樹立後に誰を大統領にするのかを決める作業を行なっていると言っている。さらに、アフガン北部で現在、前回のタリバン政権時(1996〜2001年)の際にタリバン側に暗殺された反タリバン勢力「北部同盟」のリーダーだったアフマド・シャー・マスードの息子で、イギリス帰りの息子アフマド・マスードが、前政権の元副大統領や元防衛相を匿って、反タリバン勢力を組織している。

幹部によれば、そこでも今、交渉が続けられているという。ただその地域の周辺はいつでも戦闘を行えるようにタリバン戦闘員らが集結しているが、幹部はあくまでも「平和的な解決を望んでいる」と語っている。

第一弾で触れた前回の長い動画インタビューでは、広報官であり幹部でもあるスハイル・シャヒーン氏が応じた。そのインタビューの様子は、YouTube動画でも公開したのでぜひご覧いただきたい。

本稿では、特に日本のみならず世界中が気にしている、タリバンと中国との関係について、タリバン側とのインタビューで突っ込んで質問しているので紹介したい。

幹部であるシャヒーン氏は、7月に中国を訪問した、タリバンの使節団9人の一人でもある。その際、使節団を率いたのは次期大統領候補とも言われるアブドゥル・ガニ・バラダル師(タリバン共同創設者)。

中国の王毅外相など要人と中国とアフガニスタンの今後について話し合ったという。そこで筆者は、「中国を訪問した際、中国は何をアフガニスタンに求めたのか。そしてタリバンは何を中国に求めたのか」と質問した。

シャヒーン氏はこう語っている。

「われわれはバラダル師をリーダーとして使節団で中国を訪れた。私もメンバーの一人として同行した。王毅外相と、外務副大臣、さらに中国のアフガニスタン特使とも会談をもった」

 そして、中国側にアフガニスタンの情勢を説明。「さらにアフガニスタンの未来についても話をした。われわれは中国に、中国を含む周辺国に攻撃する目的でアフガニスタン領土を誰にも使わせないと伝えた」

実は、アフガニスタンには、「周辺国」、すなわち中国に「対抗する目的」を持った組織がいる。それは東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)のことだ。新疆ウイグル自治区からアフガニスタンに逃れ、何百人ものETIMのテロリストがアフガン国内で戦闘の訓練などを受けていると言われている。

(ちなみに米政府は2020年10月、トランプ政権時がETIMのテロ組織指定を解除している。その裏には、中国を刺激する目的があったと見られている)

そこで筆者は続けてこう聞いた。

「中国側は、ETIMのウィグル人テロリストが中国国内の新疆ウィグル地区でテロを起こすのではないか、と懸念している。中国はタリバンに、ETIMを取り締まる、またはなんとかしろと要求したのではないか?」

「それはわれわれのポリシーでもある。特にどこの組織ということではなく、ひとつではなく、中国関係も含めた全ての組織だ。われわれは、特に周辺国に対抗してアフガニスタン領土を使うどんな個人も集団も容認しない。もちろん、そうした組織(ETIMなど)は中国の人たちで、中国国民としての権利をすべてもっている。 中国には自分たちの権利があり、彼ら(ETIMなど)は中国の人たちだ。われわれは誰にもアフガン領土を利用するのを許すことはない」

明確には断言しないようにしていたのが印象的だった。インタビューでは中国が推し進める巨大経済圏構想「一帯一路」についても、シャヒーン氏は肯定的な言葉を述べている。中国が影響力を行使しようとしているのは明らかである。

筆者はさらに、こうも聞いた。

「新疆ウィグル地区では中国政府の厳しい支配で多くのイスラム教徒が苦しんでいる。それについつて、同じイスラム教徒してて、ウイグル地区のイスラム教徒の扱いについてどう思うか」

シャヒーン氏は「彼らイスラム教徒は中国国民であり……」と話を始めた。ウイグルのイスラム教徒についてもタリバンの幹部としてその思いを語っている。インタビューではさらに、日本に対する思いや女性の権利などについても話している。

またもう一点、人道支援に取り組んできたNGO「ペシャワール会」の現地代表で、2019年に殺害された中村哲医師についても言及し、自分たちなら中村医師を死なせなかったとも述べている。

アフガニスタンはこれからどうなってしまうのだろうか。米軍は欧州諸国からの要請にも、アフガニスタンに戻る気もないし、撤収作業を延期するつもりもないと明確にしている。

そうなると、欧米諸国からはつけ離されたタリバン側は、頼るところがなくなる。シャヒーン氏は復興のための支援がどうしても必要だと繰り返し主張していた。

そこで影響力を見せてくるのは、経済大国である隣国の中国ということになるだろう。さらに、中国のイスラム原理主義者などの寄付なども集まってくる可能性があり、そうなると、またアラブ系のテロ組織である国際テロ組織アルカイダや、IS(イスラム国)などが入ってくる可能性もある。

8月31日で米軍が去った後、アフガニスタンはどうなってしまうのだろうか。まだ目が離せない。

国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。 *連絡先:official.yamada.toshihiro@gmail.com

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