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安藤優子に長野智子、“アラ還”女性キャスター降板に思うこと

山田美保子放送作家・コラムニスト・マーケティングアドバイザー
写真:アフロ

 「直撃LIVE グッディ!」が約5年間の歴史に幕を閉じると、一部のマスコミが報じた。そうなると、番組の顔である安藤優子キャスター(61)も降板することになるわけだが、1987年の「FNNスーパータイム」から「ニュースJAPAN」「FNNスーパーニュース」と、同局の“報道の顔”だった安藤キャスターが、ワイドショー色の濃い同番組を担当するようになってから、このような日が遠くない将来、訪れてしまうのではないかと思っていた私の予想が的中してしまった。

 芸能ネタがトップに来ることもあれば、“独自”の多くが芸能だった印象のある同番組で、安藤キャスターは居心地が悪そうにしていたものである。

一言もコメントすることなく

 夕方のニュースを仕切っていた頃は、どれだけ大きな芸能ネタがあったとしても、安藤キャスターはコメントをしないことさえあった。

 もっとも覚えているのは、歌姫として絶大なる人気を誇っていた女性アーティストがラジオ番組で放った暴言により、大バッシングを浴び、仕事を自粛した時のこと。歌姫サイドが「女性視聴者が多いから」という理由でインタビューに応じたのが、安藤キャスターの「…スーパーニュース」だったのだ。当該VTRが終わった後、安藤キャスターは歌姫のインタビューに対し、一言もコメントすることなく、次のコーナー紹介をしたのである。賢明だと感じると同時に、「安藤さんは報道キャスターなのだから芸能コメントなんてしなくてよろしい」と思ったものである。

”前のめり感”が見られるのは…

 「…グッディ!」では、タレントの不祥事や不倫問題に黙っているわけにはいかず、印象に残る安藤キャスターのコメントもいくつかあった。しかし、安藤キャスターの真骨頂は、もちろん、そんな場面ではない。

 直近で私がもっともワクワクしたのは、今年1月、レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告が会見を開くことになり、日本からも多くの記者が同国に飛んだ時のことだ。

 前番組の「バイキング」と「…グッディ!」をつなぐジャンクションで、高橋克実と倉田大誠アナウンサーが、「安藤さんが現地の記者から取材を受けているらしい」と言い、「ピンク・レディー」の『ウォンテッド(指名手配)』の歌い出しのポーズをしてみせた。ミーちゃんとケイちゃんが向かい合って互いにマイクを差し出すポーズである。

 同会見場に入れてもらえないメディアが多数あったことは、皆さんも覚えておいでだろう。日本のメディアで許されたのは3社だけ。フジテレビははじかれてしまい、当然、安藤キャスターは憤慨。何とかして会場に入れないものかと動いていた英語が堪能な日本人女性キャスターを海外メディアがスルーするはずもなく、安藤キャスターは海外の女性記者からインタビューを受けたというわけだ。

 安藤キャスターの報道記者としての“前のめり感”が見られるのは、スタジオよりも取材現場である。中でも、私が一緒に前のめりになって見入ってしまうのは、安藤キャスターがヘリ中継をしている時。本当にイキイキしていて、スカイダイビングでもしてしまうのではないかと思うほど機内でも前のめり。「…グッディ!」が終了し、月~金曜の帯で安藤キャスターを見られないのなら、ぜひともまた現場に出ていただきたいと期待しているのは私だけではないだろう。

もう“ひょうきんアナウンサー”とは言わせない

 そんな安藤キャスターの「…グッディ!」終了に続いて、元フジテレビのアナウンサーで現在フリーの長野智子キャスター(57)がテレビ朝日系「サンデーステーション」を降板することが発表された。

 帰国子女の女子アナブームの走りと言っていい存在で、帰国後も海外にホームステイするなど、英語を勉強し続けた長野キャスター。

 上智大学在学中に“女子大生ブーム”の火付け役となった文化放送「ミスDJリクエストパレード」のパーソナリティーを務めていたことや、フジテレビ入社後、「オレたちひょうきん族」内の「ひょうきんベストテン」の3代目アシスタントを務めた印象が、年代の近い私にはあまりにも強い。

 その後、結婚し、夫の赴任に伴い渡米すると、ニューヨーク大学大学院修士課程を修了。そのキャリアをもって、2000年から鳥越俊太郎氏と共にテレビ朝日系「ザ・スクープ」のキャスターになっても、「ひょうきんアナウンサーなのに」と言われ続けたことに不満を抱いていたこともあったと聞く。

 だが、「朝まで生テレビ!」や「報道発ドキュメンタリ宣言」、さらには「ハフィントン・ポスト」日本版の編集主幹に就任したり、20代、30代の女性が読むファッション誌のカルチャーページで連載したりするなど、日本を代表する女性キャスターとなった彼女を、もう誰も「ひょうきんアナウンサー」などとは言うまい。

できる“アラ還”女性の存在感

 そんな長野キャスターと安藤キャスターの降板のニュースがほぼ同時に報じられたことに、同年代の私はショックをおぼえているところだ。「予算削減で、フリーキャスターへの高額なギャラが支払えない」という理由は理解できるし、長野キャスターの後任を、テレビ朝日の局アナが務めるということに異論はない。

 だが、報道キャスターとしてキャリアを重ね、英語が堪能で取材力にも長けた“アラ還”の女性が、現場で年下のスタッフや男性記者らから煙たがられたということはなかっただろうか。

 私は新卒で就いたのがTBSラジオのキャスタードライバーという仕事で、当時、ラジオニュースの現場も経験している。今はフリーで大活躍している吉川美代子アナ(66)が女性で初めてニュース番組のメインになった時も、すぐ近くで仕事ぶりを見せてもらっていた。

 その頃、吉川アナがどれだけ報道の男性記者から邪魔者扱いされていただろうか。「女のくせに」「女に何ができる」といった声は陰口ではなく普通に聞こえてきたし、スタイリストもつけてもらえない吉川アナには、「クリーニングに出す前のブラウスやスカートを吉川さんの出演用に貸してあげて、着用後、彼女にクリーニングをして返してもらう」という決まり事もあったほどだ。

 取材現場にも積極的に出て、自ら編集もしていた吉川アナが、その後、同局で多数の報道番組を持たせてもらうということにはならず、大きな報道番組を持たせてもらったり、コメンテーターとして度々呼ばれるのは、なぜか他局出身の若手女子アナだったのだ。

オジサンキャスターはいくらでもいるのに…

 昔話?いや、報道現場での女性記者やアナウンサー、キャスターらの扱いは、今もほとんど変わっていない。政治家の“ぶら下がり”を見れば一目瞭然だ。「若い」「美人」の記者ばかりではないか。そのほうが男性の多い報道局では、いろいろスムーズなのだろう。囲まれる政治家も男性社会なので同様だ。

 報道の現場だけでなく、スタッフ男性の年齢が若ければ、年上女性との仕事は「やりづらい」だろう。放送作家という裏方である私も、もう何年も前から、そんな空気は感じている。だが、放送作家の場合、「視聴者の半分は女性なのだから、“女性目線”で」といったオファーは、こんなオバサンでもまだある。オジサンの放送作家も同様で、番組によっては60代後半から70代のベテランもいる。

 それが報道の現場では、オジサンキャスターはいくらでもいるのに、女性キャスターは、どういうわけか、キャリアやスキルが尊重されずに「60歳定年説」が横行している。

もったいなさすぎる

 そんな中、前述の吉川アナは、現在、実に軽やかに仕事をしているように見受ける。20代の頃から好奇心旺盛で、局アナなのに女優として舞台に立ったり、歌を歌ったり、ラッコの研究に勤しみ、著述もある。定年となり、フリーアナウンサーを抱える事務所の幹部として招かれたら、「吉川さんへのオファーが後を絶たず、同プロダクション内でもっとも売れっ子になってしまった」と関係者から聞いた。

 女性の報道キャスターとしてたくさん苦労をしてきた彼女が身につけた処世術が活かされたということなのか。それとも、もともと持つ彼女の柔軟さがウケたのか。「バイキング」や「情報ライブ ミヤネ屋」、さらには「全力!脱力タイムズ」、「アートネイチャー」のCMまで、引っ張りだこ。吉川アナを報道キャスターとして認めず、閑職に追いやったTBSは後悔しているかもしれない。

 さて、安藤キャスターと長野キャスターの今後だが、何らかの形で出役として報道番組に関わってくださらないだろうか。キャリアを重ねた女性の視点や意見を見たり聞いたりしたい視聴者は、数多くいるはずだ。とにかく、このまま表舞台から引っ込んでしまうのは、もったいなさすぎる。お二人の今後に心から期待したい。

放送作家・コラムニスト・マーケティングアドバイザー

1957年、東京生まれ。初等部から16年間、青山学院に学ぶ。青山学院大学文学部日本文学科卒業後、TBSラジオ954キャスタードライバー、リポーターを経て、放送作家・コラムニストになる。日本テレビ系「踊る!さんま御殿!!」、フジテレビ系「ノンストップ!」などの構成のほか、「女性セブン」「サンデー毎日」「デイリースポーツ」「日経MJ」「sippo」「25ans」などでコラムを連載。「アップ!」(名古屋テレビ)などに、コメンテーターとしてレギュラー出演している。

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