コロナ特措法改正で本当に変わるのは何か

緊急事態宣言再発令の東京(写真:西村尚己/アフロ)

 緊急事態宣言を出してもコロナ特措法の強制力がないので効果が薄いといわれている。いわば伝家の宝刀を抜いてはみたが竹光(たけみつ)では戦えない、という論法だ。そうしたなか、コロナ特措法(新型インフルエンザ等特別措置法)の改正が予定されており、「要請→命令→罰金」という新しい「予防的措置」の制度が導入されることになりそうだ。報道では、罰金か補償か、罰金で強制性は担保できるか、といった論点で議論されているが、改正の肝はどこにあるのか。本当に変わるのは、何なのか――。

 いわずもがな緊急事態法制は、有事における権限集中と私権制限を定めるもので、現在の日本には10の法律に定めがある。今回のコロナ感染症ほか自然災害系が5つと、原発事故や戦争などの人災関連が5つである。切れ味がよい刀にするほど、当然に人を傷つけることになる。そこで、憲法で保障されている権利や自由を完全に奪い、人として生きていくことに支障を生まないためにも、あえて制約的な作りになっているわけだ。

 いまそれを、強い強制力や、守らなかった人には刑事罰を含めた罰則を適用しようとの動きが急で、政治家やメディアの大勢もそうした空気を作るのに熱心だ。鞘(さや)から抜きづらいのなら、調整が必要だろう。錆(さび)ついているなら、きちんと日ごろから手入れをすることもあってよい。しかし今の議論は、本当は真剣(しんけん)にもかかわらず、竹光だから使い物にならない、とみんなで言いふらしている状況に近い。誤ったメッセージによって、社会全体が法制度を誤解しているということだ。

 その最大責任が政治家、とりわけ政権中枢にあることは明白だ。旅行に行こう、移動で感染はしないと繰り返し積極的に喧伝していながら、そのこと自体は否定せずに外出を控えようといわれても戸惑うのが普通の感覚だ。食事をしても会合が目的なら会食ではないと言い張る一方で、飲食店の時短営業を求めるのはおかしいと思うのが当たり前だろう。

 さすがに、首相も宣言後は会食を控えているが、発令直前に行った会食について、メディア掲載の一部の「首相動静」では会合・打ち合わせと称し、実態を隠していることに、すでに後ろめたさが滲み出ているのではないか。こうした政治家の一挙手一投足が、SNS等でダダ洩れの中で、あえて法の無力化をしているとしか思えない。政権が続けてきた「法解釈変更」の別パターンが生まれているわけだ。

 コロナ特措法は現在でも、最大3年間にわたって移動や集会の制限・禁止を要請・指示できる。企業や組織から物資の拠出や人員の動員を求めることや、土地や建物の収用も可能である。いまはまだ、そこまで「総合調整」や「必要な指示」を発出していないだけの話で、わかりやすい飲食店への強制力や罰則が、より厳しい措置に対してもかけられてから、そんな話ではなかったといっても手遅れだ。

 命を守るため、という理由には誰もが反対しない。原発事故でも戦争でも、「国難」と言われれば多くの人はやむなしと思って従うものだ。しかし法が求めているのは、より具体的・科学的な根拠を明示し、その意思決定過程を透明化したうえで、明確に期間や区域を限定して、権利を制限する方法である。現政権は、こうした前提条件を前回の宣言もそして今回も、まったく守っていない。なぜ出したのか(どういう場合に解除するのか)、それを決めたコロナ専門部会等の会議議事録も非公開のままである(いわゆる議事要旨を申し訳程度に開示しているに過ぎない)。

 こうした民主的な手続きなしに、国家権力を強化し続ける国を、一般には「独裁国家」と呼ぶ。しかも現在は、与野党含め雪崩を打つかの「挙国一致」体制の様相だ。そうした国にならないため、いますぐできることは以下の3つだ。

①そもそも一般店舗への要請を想定しなかった法条文を勝手に「解釈運用」して、無理を承知で時短営業や休業要請するのをやめ、本来予定されていた条文運用に戻すこと。

②宣言発令も含め法に定められた民主的手続きをきちんと実行すること、とりわけ意思決定会議体の議事録を法に定められたとおりに作成・開示し、透明性を確保すること。

③できることを過小評価した印象操作をすることで、法の無力化を喧伝し強制性の必要性を強調しないこと。

 危機を前にして、危機だからこそ、いっそうこうした<当たり前>を求める。これらによって実相が理解されれば、特措法を改正することなく、店舗も一般市民も「要請」に従うことになるだろう。今回の改正で得をするのは一部の為政者だけで、多くの国民にとっては益がないどころか、大きなマイナスを被ることになるに違いない。政権も、与野党も、そしてメディアも罪深い。

※コロナ特措法(新型インフルエンザ等特別措置法)の法構造とその課題については、前記事をご参照ください。