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これは「終わりの始まり」なのか? 国債金利の上昇、暴落で日本経済は破綻する

山田順作家、ジャーナリスト
はたして黒田総裁はどんな決断を下すのか?(写真:REX/アフロ)

■“金融緩和ボケ”で大きく報道されない大問題

 今年のNHK大河ドラマは『どうする家康』だが、いま直近で日本の最大の問題は「どうする日銀」だ。

 市場関係者(この場合、金融関係者、企業家、投資家、官僚、政治家はもとより、すべての国民が関係者と言える)は、17日、18日に開かれる日銀の金融政策決定会合の決定次第で、未来が決まる。

 それなのに、先週、10年ものの長期国債の金利が日銀の指値オペの上限0.5%を超えたことは、大ニュースにはならなかった。いつもと同じ、経済ニュースの1本として報道されただけだ。

 だから、18日の午後、政策決定後の記者会見も、大して大きく報道されないかもしれない。しかし、だからといって、なにも起きないわけではない。

 もはや、日本のメディアも国民も、完全に“金融緩和ボケ”してしまったとか言いようがない。それ以上にどうしようもないのは、政治家たちだ。今日まで国債を際限なく発行させて、そのカネをバラまいて政治を行ってきたからだ。

■金利抑制策は本来やるべきでない非常時政策

 今回の日銀の金融政策決定会合の最大のテーマは、これまで続けてきたYCC(イールドカーブ・コントロール)政策をどうするかだ。これは、二者択一で、続けるか?止めるか?のどちらかである。

 ただし、どちらを取っても、日銀は追い詰められ、黒田東彦総裁は、“討ち死”を免れない。

 YCCは、本来市場が決めるべき長期金利を、日銀が決め、国債を市場から大量に買うことで金利を押さえ込んでしまうという政策である。資本主義自由経済においては、金利は市場において自律的に決まるものだから、禁じ手である。

 しかし、国家の非常時には、行われる。

 アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、1942年から1951年までの9年間、YCC政策を実行した。これは、連邦政府が第2次大戦の費用を必要としたからで、戦費調達のための国債の金利を抑え込むためだった。

 しかし、戦後に物価が上昇したため、市場に委ねることに戻さざるをえなくなった。そして、FRBの財務は大きく傷ついた。本来、中央銀行の役目は政府から独立した機関としての物価の安定だから、YCCはそうした目的と相容れないのだ。以来、FRBはYCCを行なっていない。

■日銀バズーカ砲は物価上昇で空砲に

 黒田日銀総裁は、こうしたことを知りながらも、安倍元首相を取り巻くリフレ派の圧力で、「仕方ない、やるならとことんやってやろうじゃないか」と、“異次元緩和”を行い、そのバズーカ砲の最後の一撃としてYCCまで採用したのである。

 この日銀バズーカ砲の威力は大きく、デフレが続く限り、政府はいくらでも国債発行ができた。政治家たちは、選挙に勝つため、バラマキを続けられた。最近の「異次元の少子化対策」も、なんのことはない「出産補助金」「児童手当の拡充」などのバラマキだから、どんな政治家でもできる。

 日銀は、昨年12月に金融政策決定会合で、指し値オペの上限を0.25%から0.5%に引き上げた。これは、事実上の利上げで、YCCは維持したものの、これにより、さらに金利を上げざるをえなくなるだろうと市場は読んだ。いずれ、日銀バズーカ砲は空砲化するというのだ。

 なにしろ、世界中がインフレで、それも前年同月比で10%に達している国もある。日本も消費者物価指数(CPI)は上昇を続け、東京都の生鮮食品除くコアCPIの前年比上昇率は12月に4.0%に達した。

 それでも、意地でもYCCを続けるか? あるいは「もうやめた」と止めてしまうのか? 黒田総裁次第だ。経済メディア、専門家の見方を見ると、半々のよう。ただ、どちらかというと「0.5%堅持」のほうが多い。

■暴落で儲けられると考える海外勢との攻防

 今年に入って、日銀は市場に追い詰められた。

 ヘッジファンド勢は、10年債の金利だけが低く抑えられている“歪み”を突いて、日本国債の売り攻勢に出た。彼らは、10年債ではなく、5年債や20年債など他の年限を売り浴びせた。

 短期と超長期の国債を売り浴びせて金利を跳ね上げ、それによって10年債のみ金利が低い状態にすれば、売買が成立しなくなるため、YCCを修正せざるをえなくなると読んだわけだ。

 日銀はこの攻勢に対し、防戦態勢を取った。全年限の国債を購入対象として購入額を増加させた。上限利回りの0.5%を死守しようと、1月12日は4.6兆円、13日は5兆円の国債を購入した。さらに週明けの16日にも購入を継続したが、金利は0.5%を超えたまま戻らなかった。

 日銀は、このような事態をある程度見越して、昨年12月に国債購入額を1カ月9兆円に増額したが、焼け石に水だった。さらに、今週は臨時購入措置を設けたが、これも効かなかった。

 現時点では損が出る価格で売っても、いずれ国債価格は下落(=金利上昇)するので、そこで買い戻せば利益が出る。ヘッジファンドでなくとも、ほかの投資家(日本人も含む)、金融関係者もみなそう考え始めたのだ。

 もはや、日銀の指し値(上限金利)は信用されなくなった。

■国債金利は歯止めが利かなくなって上昇一途

 こうした状況から見えてくるのは、もう日銀の金融緩和は限界であるということだ。「量的緩和」(QE)を止め、「量的緩和の縮小」(テーパリング)から「量的引き締め」(QT)に転換するほかないということだ。

 しかし、そうしてしまうとどうなるか?

 たとえば、今回の政策決定会合でYCCでの上限を0.5%から0.75%に引き上げる。するとおそらく、まだ金利は低く“歪み”は解消されないとして、国債売りは続くに違いない。

 ならば、YCCを撤廃してしまえばどうなるか?

 そうなると、国債金利は歯止めが利かなくなって、1%、1.5%、2%と上昇していく可能性が高い。もしかしたら、一気に数%という暴落も起こりうる。

 長期金利の上昇は、住宅ローンや中小企業の資金繰りに打撃を与える。住宅ローン破綻、中小企業倒産が続出することになる。また、国債を保有している銀行、生保などの金融機関の経営も行き詰まる。低金利、ゼロ金利に浸りきっていた日本経済は、総崩れになるだろう。

 それに、国債金利の上昇は、財政破綻に直結する。国債費(利払い費)が増加し、さらに新発債の買い手がいなくなるので、国家予算が組めなくなる。財務省によれば、金利が1%上昇すると、3年後の国債費は3.7兆円増加する。2%なら7.5兆円という。国防費増額、異次元の少子化対策など、みんなすっ飛んでしまう。

■日銀が国債を買い続けることは不可能

 ならば、「日銀はこれまで通り国債を買い続ければいい」「自国通貨建ての国は絶対財政破綻しない」という意見がある。いまだに、こういうことを言う専門家(?)がいるから悲しい。

 日銀が許されているのは、国債を国債市場から買うことである。政府から直接買うことは「財政ファイナンス」になるので、法的に禁止されている。

 よって、政府の財政破綻を防ぐために、日銀は既存の国債ではなく新発債(借換債)を民間金融機関から購入する。すでにこれは現在行われていて、民間金融機関は日銀が利ざやを付けてくれるので新発債を買い、即座に日銀に売っている。こうして現在、日本国債のほぼ半分は日銀が保有することになってしまった。

 となると、これ以上、日銀は国債を買えるだろうか? すでに国債の半分以上を保有しているわけで、いずれ必ず限界がくる。つまり、YCCは永久に続けられない。

 SDGs(持続可能な開発目標)がブームだが、日銀の国債買いはSDGsたりえないのだ。

■「財政ファイナンス」の法制化でたちまち破綻

 日銀の国債保有が飽和状態に近くなり、国債市場が消滅してしまったら、国は国債を発行できなくなる。よって、現在のように市場に“歪み”を突かれ、金利抑制を止めざるをえなくなったとき、まともな政府なら、やることは一つしかない。

 危機を認識し、国債発行を減らすことだ。そうして、真剣に財政再建に取り組むことだ。売れる政府資産を売却し、議員・公務員をリストラし、さらに政府部門の縮小を図る。そうでなければ、増税するしか手はない。

 しかし、日本の“金融緩和ボケ”した政治家、あるいは金融無知な政治家が、これを実行するわけがない。

 彼らがやりそうなのは、なんとか国債発行を持続させようと、禁じ手「財政ファイナンス」を法制化しようとすることだ。財政法を改正して、「日銀に国債を直接引き受けさせる」という無理筋を通してしまうのだ。

 現在、国債の「60年償還ルール」を「80年償還」にしてしまおうと、羽生田光一・自民党政調会長が提唱している。これに、賛同する専門家もいる。さらに、国民民主党や一部の学者は「変動金利付きの永久国債」を提案している。しかし、これらはいずれも「名案」ではなく、その場しのぎの「迷案」ではなかろうか。

 とくに日銀の直接引き受けにいたっては、それが政府から発信された時点で、日本財政の信認が吹き飛び、世界中(日本を含む)が日本国債を投げ売りするだろう。国債暴落とともに、円安、株安のトリプル安に突入し、おそらく日本経済は瀕死状態になるだろう。

■国債金利の上昇は経済破綻への入り口

 日銀の資金循環データによると、2022年第3四半期(暫定値)の日本国債の保有者別内訳は、国債総額1065.6兆円のうちの50.3%(535.6兆円)を日銀が保有している。

 残りは、民間銀行など35.9%(382.7兆円)、海外7.1%(75.6兆円)、社会保障基金4.5%(48.1兆円)、家計1.2%(12.7兆円)の順だ。

 国債金利が上昇すれば、保有国債の価値は下がる。日銀は簿価会計のため、含み損を計上しなくていいことになっているが、民間はそうはいかない。時価会計だから、金利上昇いかんによっては債務超過になる。それが見えた時点で、国債の落札には参加しなくなるだろう。

 日銀がヘッジファンドの空売りに負ければ、なおさらだ。

 このような危機的状況を、一般国民のどれほどの人々が認識しているだろうか? 国債金利の上昇が財政破綻、家計破綻、ひいては日本経済破綻への入り口だと、誰がわかっているだろうか?

 わかっている人間は、すでに資産を円から切り離している。円建ての株や債券も手放しているだろう。

■「トラス・ショック」でも目が覚めない

 この国の最大の問題は、少子高齢化による人口減で、いずれ日本人がいなくなってしまうことだが、それに匹敵する問題として、政治家をはじめとする誰もが借金を返済しようとしないことがある。とくに政治家にいたっては、1990年のバブル崩壊以降、1度も借金を減らそうとしたことがない。

 政治家も問題だが、専門家も問題だ。「MMT」などの馬鹿げた理論ばかり振りまき、それで政府のバラマキ政策に加担してきた。さらに、メディアも同罪だろう。

 主要メディアで、ここ30年余り、政府の財政政策を徹底して追及したところはほぼない。

 昨年9月の英国の金利急騰「トラス・ショック」を目の当たりにしても、日本人は目が覚めない。あれは、英国だけの話ではない。明日の日本の話だ。

 財政拡大を掲げて保守党総裁選を勝ち抜いたトラス前首相は、ポンド急落と英国債の暴落という市場の反乱によってわずか45日間で退場した。その後を継いだリシ・スナク首相は、財政安定化政策を取らざるをえなくなった。それでも、英国経済は40年ぶりのインフレ率を記録するなど悪化の一途をたどっている。今月の英国のインフレ率は11%に達するという。英国在住の私の後輩ジャーナリストは悲鳴を上げている。

■財務省のHPに「答」が書いてある

 では、最後に、財務省のHPの「Q&A」を転載して、この記事を終わりにしたい。

【問】

 日本が財政危機に陥った場合、国債はどうなりますか?

【答】

 仮に財政危機に陥り、国が信認を失えば、金利の大幅な上昇に伴い国債価額が下落し、家計や企業にも影響を与えるとともに、国の円滑な資金調達が困難になり、政府による様々な支払いに支障が生じるおそれがあります。

 そうした事態を招かないよう、財政規律を維持し、財政健全化に努めていく必要があります。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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