■「注視したい」と言うだけの鈴木財務相

 4月12日、鈴木俊一財務相は閣議後記者会見で、前日に円相場が一時1ドル=125円台後半に急落したことについて、「為替の安定が重要で、急激に変動することは望ましくない」「日本経済への影響を注視したい」と語った。

 新型コロナ対策でもそうだが、「注視したい」というのは、本当に便利な言葉だ。そう言うと、なにかしているような印象を与えるからだ。しかし、政治家がこう言ったときは、実際にはなにもしないことのほうが多い。

 もはや、「円安」を歓迎する時代ははるか昔となり、「悪い円安」に時代は変わっている。物価が上がり、給料は上がらないというスタグフレーションを、円安がますます加速させている。

 通貨と金利をコントロールし、物価を安定させるのは、中央銀行の役目である。しかし、日銀は世界中の中銀が金融緩和を手仕舞いするなか、いまだに緩和を止めようとしない。止めようとしないばかりか、鋭意続行中である。

■「円安放置」政策は日本政府の方針か?

 いまから1カ月前、3月18日に行われた政策決定会合で、日銀は、ウクライナ戦争が起こって世界経済が激変するなか、円安が進んでいるにもかかわらず、政策変更はしないと表明した。

 このとき円は1ドル=118円近辺だった。にもかかわらず、黒田東彦総裁は、会合後の記者会見で「円安は全体として日本経済にプラスになる」と述べたのである。

 そうして、3月30日、日銀は指し値オペとともに、通常の国債の買い入れを増額し、なんと2.3兆円余りも買い入れた。これは、量的緩和を決定した2013年4月以来、ほぼ9年ぶりの規模だった。

 これでは、円安が止まるはずがない。

 黒田総裁がどんな意図を持って、金融緩和を続けているのかはわからない。ただ、これまでの言動から言えることはただ一つ、日銀は円安を容認し、円安を放置するということだ。先の鈴木俊一財務相の発言と併せて、日本は「円安放置」政策を取っている。そう解釈するしかない。

■トルコもやっているトンデモ金利政策

 インフレが進んでいるのに、中央銀行が金融緩和を続けている国が世界でもう1カ国ある。トルコだ。

 エルドアン大統領は、「インフレは金利を下げれば治る」というトンデモ理論を掲げ、過去2年半の間に3人の中央銀行総裁を解任した。そうして、無理やり金融緩和を続けてきた。

 インフレを抑えるためには、金利を上げる。これが金融政策の常識で、逆に金利を下げるなど、あってはならないこと。しかし、エルドアン大統領は、頑として聞き入れなかった。

 そのため、トルコのインフレはいまも止まらず、ウクライナ戦争勃発後はさらに進行した。トルコリラは下がり続け、昨年後半には1トルコリラ=15円前後だったものが、いま8円台まで下げている。

 このままでは、円も同じ道を行くのは間違いない。

■日本が金融緩和をやめない理由とは?

 いま進んでいる円安は、けっして日本経済にプラスにならない「悪い円安」である。円安が進めば、輸入物価の上昇を通じて原油や穀物など原材料コストの増加を招く。それは、めぐりめぐって企業収益を悪化させ、家計の負担を増大させる。日本経済をさらに衰退させる。

 それなのに、なぜ、財務省、日銀は、円安を放置し続けるのだろうか?

 その理由をひと言で言ってしまえば、日本の場合、国債発行額が大きすぎて、金利を上げられないからだろう。金利を上げれば、利払い費が一気に膨張し、財政がもたなくなる。量的緩和の手仕舞いは、財政破綻を招きかねないのだ。

 ここでうがった見方をすれば、日本の量的緩和は、景気刺激策ではなく、金利抑圧政策だったのである。日本はこれまで、国債の利払い費を抑えるために、量的緩和によって金利をゼロにしてきたと言える。

 アベノミクスの第一の矢である量的緩和は、景気をよくするために放たれたのではなかった。

■FRBの利上げで日米金利差は開く一方に

 現在の円安は、アメリカがテーパリングに入ったことがいちばん大きな要因だ。

 FRB(連邦準備理事会)は、3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利の「フェデラル・ファンド(FF)金利」の引き上げを決めた。

 そして、ここにきて、景気回復を強固と見て、利上げに対して一段と積極姿勢を示したので、ドル円相場は大きく動いた。

 次回のFOMCは、5月3、4日に開かれるが、ここで0.50%幅での利上げが実施される可能性が高まった。これを見越して、今回、一気に1ドル=125円後半まで円安が進んだと言える。

 日米の金利差が開けば、当然のことながら、円を売ってドルを買う動きが強まる。円安は進まざるをえない。 

■「安全資産」から「先進国転落」の象徴に

 それにしても、政府も経済の専門家も、そして経済メディアまでも、つい先日まで、円安を歓迎し、円を「安全資産」と言っていたことが信じられない。円安になると輸出先での価格競争力が上がるため、輸出が増えて輸出企業の儲けが増える。その結果、日本経済は活性化するというのだ。

 しかし、これは真っ赤なウソだった。いまの日本経済は、製造業の海外移転が進み、日本からの輸出が利益を生まない構造になっている。むしろ、エネルギーと食糧などの輸入価格が上がるので、円安は逆風だ。これに、ウクライナ戦争によるロシア経済制裁が加わり、もはや物価上昇は止まらなくなった。

 ここ1、2年、日本の物価と給料が、先進国のなかでは破格に安いことが話題になってきた。この「安いニッポン」は、日本が先進国でないことを示してきたが、いよいよ円安によってそれが確定する展開になってきたと言えるだろう。円安は日本の「先進国転落」の象徴だ。

■さまざまな理由を並べてお茶を濁す

 円安は日本の経済衰退を加速させる。ようやく、このことがわかってきたのか、最近は、評論家もメデイアも論調を変え、円安になった原因を細かく指摘するようになった。

 いわく、「アメリカの金利が上がり、日米の金利差が開くため」「経常収支が悪化し、赤字が増えたため」「ウクライナ戦争が起こり有事のドル買いが進んだから」などなど-----。

 このどれも、間違っていないが、根本的な原因を指摘する評論家やメディアは、それほど多くない。

 はっきり言い切ることがはばかれるのだろうか? 円安は日本経済の落ち込みに起因し、日本の先進国転落を表しているなどとは、ほぼ誰も言わない。

 しかし、経常収支の赤字は、このことを端的に表している。財務省が3月8日に公表した1月の経常収支はマイナス1兆1887億円で2カ月連続の赤字であり、過去2番目の赤字幅を記録した。

 為替市場で、円が安全資産と言われたのは、日本が経常終始の黒字国で、世界一とされる対外資産の保有国だったからである。しかし、経常収支の赤字が続けば、日本は対外資産を切り崩さざるをえなくなる。

■円高はもう2度とやって来ない

 史上最高の円高といえば、2011年10月31日、オーストラリア市場で1ドル=75.32円をつけたことである。この年は東日本大震災の年だったが、円高は進行し続けて、ついにこれまでの最高値をつけた。それ以前の円高と言えば、1995年4月19日につけた79.75円が最高である。

 いま思えば、なつかしいとしか言いようがないが、もはやこんなことは2度と起こらない。円高は2度とやって来ない。

 なぜそんなことが言えるのか?

 それは、少子高齢化と人口減により、日本経済が成長することは2度とありえないからだ。この問題を解決できない限り、日本経済は日々衰退し、1人当たりのGDPですでに抜かされた台湾や韓国に、さらに差を広げられるだろう。

■為替レートが変動する二つの理由

 為替レートは、一般的に金利差で動くとされる。A国とB国に金利の差があると、たとえばA国の金利がB国より高ければB国の通貨は下落する。アメリカの金利のほうが日本より高ければ、円安になる。これが逆なら、円高になる。ただし、これは両国の経済が正常に保たれていることを前提とする。

 もう一つ、通貨供給量の増減でも、為替レートは動く。なぜなら、金融を緩和すると金利は下がり、引き締めると金利は上がるからだ。A国が金融を緩和して通貨供給量を増やし、それがA国とB国の通貨供給量のこれまでのバランスを上回れば、A国の通貨はB国の通貨に対して下落する。

 実際、アメリカがリーマンショック以後量的緩和によりドルの供給量を増やしたため、円高は進んだ。円は安全資産と誤解されて、前記したように史上最高値をつけた。それが反転して円安になったのは、日本もアベノミクスで量的緩和を始めたからだ。

 しかしもう一つ、為替レートを動かす大きなメカニズムが存在する。

■経済のファンダメンタルズで為替は決まる

 為替レートが変動する最大のメカニズムは、A国とB国の国力(経済力)の差である。国力が充実して経済成長を続けている国の通貨は、国力を落として経済成長が低迷している国の通貨に対して、長期的には上昇する。

 金利や通貨供給量の差は、一時的な為替レートの変動をもたらす。しかし、国力の差が開いていくと、為替レートの変動は金利や通貨供給量のメカニズムだけでは説明できなくなる。長期的に経済が衰退していく国の通貨は、経済が強い国の通貨に対して下落し続けることになる。

 したがって、現在の円安(ドル高)は、日米両国の経済力の差である。誰もが知るように、日本経済が世界最強だったのは、1980年代である。日本は「世界の工場」と言われ、「メイドインジャパン」(日本製品)は世界中に溢れた。

 円は強くなり、ドルに対して上昇を続けていた。それを象徴するのが、1985年にG5国間(日・米・英・独・仏)で交わされた「プラザ合意」である。

 このとき、アメリカは双子の赤字(貿易赤字、財政赤字)に悲鳴を上げ、それを調整するために、主に日本とドイツに通貨の切り上げを求めた。

 その結果、円高は一気に進み、プラザ合意前に1ドル200円台だった円は、翌1986年には100円台になった。そして、この状態が今日まで続いてきた。

 変動相場制は、通貨の為替レートの変動により、各国の対外不均衡を是正する機能を持っている。「為替レートは各国の経済のファンダメンタルズを反映すべきである」というのが、変動相場制での大原則である。

 この大原則が機能すれば、もはや、円はドルに対して弱くなっていくだけである。

■「弁当男子」が激増する時代になる

 これもずばり指摘する声が少ないが、いまの日本は、明らかにスタグフレーションである。

 政府は、ガソリンの販売価格の上昇を抑える原資として1リットルあたり25円を上限とした補助金を石油元売りに支給することにしたが、あっという間に上限に達してしまった。政府主導の春闘で、給料は上がる見込みだが、物価上昇はそれを上回る。

 この先の日本は、物価が上がるのに、株価も給料も上がらないという「暗黒時代」に突入する。

 そうなると、サラリーマンはワンコイン(500円)弁当でランチをすませようとするが、そんな価格の弁当はコンビニでも売っていない。そのため、「弁当男子」が激増するだろう。

 また、アフター5に行く激安居酒屋も、いずれドリンク1杯が500円を超えてしまうので、週に1回がせいぜいになる。しかも、コンビニや居酒屋にいた外国人店員はいなくなるので、なにもかもセルフサービスで行うしかなくなる。

 現在、1ドル=130円になるのではないか? 130円が攻防ラインのようなことを言っている専門家が多い。しかし、130円ですら通過点で、いずれ1ドル=150円になるだろう。そういう「超・円安」時代の入り口に、いま私たちは立っている。